LV21
才能の輝きが明らかとなり、一時は母さんのご飯も喉を通らぬほど激しく落ち込んだ。いったい、俺様はなんのために異世界転生したか、なんのために我がチェリーボーイとの悲しき離別をしたのか。
こんな不甲斐なき父の姿を、息子にどう誇れるのか。と、激しい自己嫌悪に陥ったが、ここで腐りきったミカンになっては、それこそ本当に男が廃る!
そうよ、考えてみればどうして、俺様の輝かしき未来があんな紙切れ一枚で測れるっていうの? アレはいまの魔力量に反応するだけの、いわば簡易キットじゃない。ならば、なにかと早熟なシャナンがパチンコ店みたく輝いてみえても、いま現在の価値なのだ。
秘められた魔力がみみっちければ意味がない。
むしろ、黒とブルーの二色のアゲハチョウでも、深く極めたような原色だけであれほど見る人の心を奪われるのだ。たかが属性が6つもあるだけで、世界を掌中に収めたように威張られては困るね。
領主館での朝食会を貪り喰って、お茶の休憩を挟んでから魔術の授業が始まる。
「まず皆さんには自分の内にある魔力の存在を感じ取れるようになってもらいましょう」と、エリーゼ様が取りだしたのは、小さな聖印――アンクだった。
「これは魔力の力に反応するアンクです。これに意識を集中させます――と、ほら。この通り光ります。ただ触れただけでは、光りませんよー。これは体に流れる魔力をこのアンクに集めるよう意識を集中させるのです。
前に説明したとおり、魔術の基礎は1に”魔力を感じる”その2に”魔力を属性へと変換する”その3”イメージを発露する”と、この3つの原則だと習いましたよね。これらの基本を外すと、どんなに才能豊かでも、魔術の行使は不可能です。
このアンクを光らすのは、ステップその1の魔力のコントロールにあたる大事な訓練ですよ。皆さんちゃ~んとマジメにできるかな~?」
「…………」
「マジメにできるかな~?」
「「「……ハイ」」」
「ハイ! いいですよ。皆さんこちらにまで取りに来てくださいね~」
と、同調圧力に屈した俺たちはエリーゼ様から順繰りにアンクを受け取った。触った感触は意外に軽いね。試しに指で弾くとキンッと、堅い音がして、金属製のものっぽいが、材質はわからん。
「じゃあ、皆さんこれから意識をアンクに集中してください」
……よし、これからが本番だ。いまこそ偉大なる魔術師フレイ爆誕! の瞬間だぜ、とワクテカする思いをひとまず封印し、アンクへと意識を集中させる。
…………
…………………… ……………………
…………………… …………………… …………………… ……………………
……光らない。
何故だ。俺様史上最大に意識を集中させてんのに、何故光らぬ!?
いや、落ち着きがないからだろって、そんなことないよ。菓子作りには集中力が必須だしそこに関しては自信があるの。しかし、現状はまるで餌のついてない竿が引き上げられるのを待つ猫気分。
えぇい、まだ集中が足らんというか! と、ギギギッと半眼でアンクを睨みつけてたら「そんなに顔を近寄せなくてもいいのよ」って、エリーゼ様に苦笑された。
ですかー?
そーいや俺のだけ折れかかってるけど、マッガレーの要領ではダメなんですね。
なるほどな~。いいアドバイスを貰った。
よし、もう一度、集中、集中……。
「デキた!」
って、俺じゃなくシャナンが。
……チッ。少しぐらい早くアンクが光ったからって、叫ばないでいただけません?
せっかくいいとこまでいっ――
…………。
アレ、な~に?
「凄いですシャナン様! アンクどころか火球までもう出せるだなんて!」
「もう魔術の行使までいったの。もう、ほんとに教えがいのない生徒ね」
……ふぁいあぼーる、ですね。
ソーデスカ。凄いなぁ。
あ、見てみて、隣に見苦しく全力の立ちこぎでチャリ飛ばしてる方がいらっしゃるわ。アンクすら光らせられないって、提灯アンコウの出来損ないかしらね。オホホッ、ホホッ、ホホッ……泣ける。
……いや、こいつの神童っぷりはせいぜい容姿と、戦士スキルにガチフリしただけって侮ってたわ。魔術の才能まであるって、こいつが勇者の実力か? ちょっと異世界神様はヤツに施しを与えすぎてやしません?
くっ、まあいい。
人と比べても無意味だ。まずは自分のことをしっかりせねば。
俺はギリッギリッと嫉妬心剥き出しの視線を、シャナンたちからくるっと聖印に戻した。
さぁ、集中、集中…………。
「光った!」
「おめでとうボギーちゃん! たった一日で光らせるなんて、凄い才能よ!」
「……いえ、そんなエリーゼ様のご指導のおかげです」
「うぅん、そんなの関係ないわよ。ボギーちゃんの努力のたまものよ。ね、シャナンもそう思うでしょ?」
「あぁ、がんばってたからな」
…………。
空ってこんなに青かったんだぁ。
でも、なんでだろう。
急にじわっと空が滲んだんだけど、あれ頬が冷たい……。
結局、昼を過ぎて二時間程も粘ったが、アンクを光らせられなかった。
……ひとりだけダメな生徒が混ざっててすみません。
「うぅん、フレイちゃんが気にしないでいいのよ。私だって驚きだもの。普通なら一日やそこらじゃマナを感じ取ることも難しいのに。ふたりとも凄い才能なのね」
才能ですか、あぁ、才能の違い、ね。
……なるほどな~。納得だ。




