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LV190

 ――オマエなんて王族で無ければ選ぶ者なんてだれもいやしないんだぞっ……!



 閉じられた扉の向こうから、怨嗟に満ちた吠え声がした。

 ……まったくどこの野良犬でしょう?

 躾が行き届いていないのは困りものですわね。

 私は嘆息しながらドアを後ろ手に、最後までカチッと閉じた。ふぅ、これでクリス様のお耳に届くことはなくって安心だわ。



 シンデレラよろしく舞踏会に乗り遅れてしまったが、舞踏会はつつがなく行われているようだ。会場は吹き抜けホールを上がってすぐらしく、メイドさんたちが階段のすぐ脇でお辞儀をしながら「こちらでございます」と二階へと誘導していた。

 首尾よくお相手を見つけた方々は、楽団の奏でる音色に身をゆだね軽やかなステップを披露されている。仮面で隠れた表情でも、身体全体で楽しさが伝わってくるようだ。

 そんな様子を、姫様はボーッと視線を彷徨わせていたけど、あ、と口を開いたと思えば、「見て」と、促された。

 私は姫様の指先に顔を近づけ、その先の踊り子さんの姿に――ガクッ、と首が折れた。


 ……トーマスさんと陛下が、踊ってた。



「お母様にも可愛らしい所があった、ということでしょうか?」

「……え、えぇ」


 拗ねた様子の姫様は言う。

 ……や、アレを仲が良いっていうのは微妙な気がする。

 オオカミさんは楽しそ~に、赤ずきんちゃん(トーマスさん)を全力で振り回していて、音楽も周りも振り切るぐらいなアップテンポだけど、なんか鍔迫り合いみたいな激しいステップじゃない。

 トーマスさんまで「この、くのっ、このっ!」と、肩をいからせながら反撃してるし。

 ……なんだか、ダメな大人の悪い見本にじゃなくって?


「……アレでは邪魔するワケにはいけませんわね」


 ですかね。と、姫様の毒気の抜けたような声に同意だ。

 まぁ、当人たちは楽しそうだからいいけど……あんな子供っぽい姿を見せられたら、ジョシュアの仕打ちについて直談判するのもバカらしくなるわ。

 ま、どーせ陛下の胸の内を聞きだそうとしたって、なんやかんや、と煙に巻かれるのがいいとこだろうし。間違っても「陛下かわゆーい」と揶揄いにでもいった日には、目をギラつかせた陛下に首級を取られるのがオチよ。



 触らぬ神に祟りなし。と結論付け、会場の壁際へとコッソリと移動する。そこは舞踏に疲れた方々の足休めの場所となっていて まだ始まったばかりのせいかまばらにしか人がいなかった。

 自力でパートナーを選べなかった我々には、壁の花が相応しかろうての。と、私たちは椅子に腰掛けた。


「姫様――じゃなくて、ローズ様。なにかドリンクでも頼みましょうか」

「その名で呼ぶのは止めてください! ワタシには正義を愛するローズの名は重すぎたのです……」

「……自分で創ったキャラ設定で落ち込みますか」

「これは矜持の問題ですわ。できれば仮面ごとフレイ様にお譲りしたいぐらいで……」

「そんなことございませんわ。ジョシュアに対峙した時の姫様は、それこそ陛下と瓜二つに思えたぐらい凛々しいものでした」


 私がローズ様の後継者? そうは問屋が卸しませんわよローズ様。中二病設定の痛さなんて、こちらこそ耐えられませんわ。

 にんまり、と断りを述べたら、姫様は疑わしそうに目を細められた。


「ほんとに褒めてます? ……怒るのもいまさらかもしれませんけど――ジョシュア様に手向けの言葉を――なんて急に振られて、ワタシはビックリしましたわ」


 姫様は頬をぷくっと膨らませた。そんな顔されたら頬をぷにぷにしたくてたまらん――じゃなくて。


「ですが、姫様だって彼にぶつけたい思いがおありでしたでしょ?」

「それは……ハイ」


 でしょう?

 姫様なんて婚姻のことのみならず、学院でもしつっこく絡まれていたんだもの。ずっと抱え込んでたものの重さが、私の比ではないぐらいおありなはずだ。

 ジョシュアにとっては、敬愛する姫様からの手向けは、ちょうどいい餞別でしょ。

 結果的には苛烈な、引導になったけど……うぷぷっ、いやぁ我ながらいい仕事した!

 私はうっきうきと単純に喜んだが、姫様の顔が晴れることなく「やるせない気分で」と溜息をつかれた。


「なにか気掛かりなことでも?」

「いえ、ジョシュア様のことはもう……大事な友人を、あんな風に罵倒されるなら、彼がどのように繕おうとも無理かなって。けど、きっとお母様の目論みに彼は――嵌ったのだと」

「目論見って……あぁ、陛下はだれにあっても公平であろうとされる方ですからね」


 今回のジョシュアの行動も陛下の信条に反したことじゃない。

 つまり、陛下はジョシュアにも――公平に姫様を口説くチャンスを与えたワケだ。

 成功する確立が限りなく0に近いと知った上で。

 ……なんだろ。すべてはジョシュアの至らなさが原因にあるのだけど、陛下のやり口はこう、陰険とは言わないけど、それに近い後ろ暗さがあるよね……。


「貴族とはこうやって試すことでしか、人を選り分けられないのでしょうね……フレイ様には幻滅されたかもしれませんが……」

「まっさか。このようなことで傷ついてちゃ侍女なんてやってられませんわ。この学院に入学してから免疫が出来ました」


 良くも悪くも、貴族なんて舐められたら終わりな生き物ですからね。ルクレール兄妹が私みたいな侍女に一々に楯突かれるのが、ある意味死活問題だってことも理解している。べつに波風を立てたいわけじゃないけど、今回ばかりの姫様への強引な迫り方は捨て置けなかったのだ。


「……そうですか。ワタシのために怒ってくださって嬉しいけれど、あまり無茶なことは止めてくださいね。フレイ様のお立場が悪くなったら、ワタシも心配ですし」

「お気になさらずに。ルクレール家に楯突くのを止めたって無意味ですわ。すでにあちらのお家には、わたしの心証なんて底辺にあるでしょうし」

「でも、友人として心配なのです。いまは言葉だけで済んでいるけれど、実力行使で排除してきやしないか。と……フレイ様が傷つかれると思ったら、ワタシは心配で」

「姫様……」


 じーん。と、胸が暖まった。

 姫様にそのように深く思っていただけるなんて……感激で眼がしらが熱くなったわ。あら、やだ。鼻水までじゅるじゅると。ちょっとハンケチで鼻をかんでよろしいですか?

 と、私はにっこりと微笑まれる姫様に断りを述べようと思ったら、がっしりと手を握られていた。

 奥ゆかしい姫様が、そんな大胆な……。


「こんな重たい話しは止めにして、さっきの続きを聞かせてくださる?」

「さっきの、続き?」

「嫌ですわ……フレイ様がシャナン様をどう思っているのか、です」


 そっちに戻るんかいッ!? 

 私が突っ込むフリをして手を引こうとしたが、姫様は「答えは聞いておりませんわ~」と、やけに迫力のあるオーラで迫ってくる。

 ……ぬぐぐっ、そんなの改まって聞かれても答えづらいわっ!?

 窮した私は、とにかく視線の圧だけでも、逃げようと、顔を上向きに逸らすとふいに、天井に吊るされたシャンデリアが、風に揺れたように動いた。



 ……って、ちょおかしいぞ。


 あんな重たいものをこの締め切った会場でそんな強風なんて吹くはずが――



 ――その時、視線の端を黒い影が横切った。シャンデリアがぐらっ、と重みに揺れたように傾き、またそれが隣のシャンデリへ、と波及していく。それは、だれかがシャンデリアの間を飛び回っているかのように。

 ……まさか、と、肝を冷やしながら、椅子から立ち上がった。ガヤガヤとざわめく会場では、その影に気付くものなどだれもいない。

「フレイ様?」と、怪訝に問いかける姫様を制しながら、影の動きのについてくのに必死に目で追いかけた。



 と、影を追いかけていた目がちょうど私たちの真上でピタリ――と止まった。

 露わになったはずの影に、私はゾッ、とした。

 それは、まるで闇に没した月のように、全身のすべてが黒く覆われている。そのなかで、口元だけが鮮血のように紅く染まり――ニィイッ、と、弓なりに頬を嗤わせていた。



「――見つけたぞ」


 影は私たちを見据えると、跳ねるように飛び上がりこちらに目掛けて降ってきた。




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