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LV180

 午後からはミランダ女史のとくべつ授業なのだが、今日は珍しく離れでなく校庭に集合。そこには、ウチのクラスだけでなく、一回生のクラス全員が運動着に着替え整列してる。いったいなにすんだろ? と、キョトンとした顔の生徒を前につば広の帽子姿でやってきたミランダ女史から、


「今日のとくべつ授業は、一回生クラス合同での清掃をやってもらいます」


 と告げられ、集まった生徒たちから「ゲーッ」と、ブーイングが飛んだ。

 その憤りはよくわかるわ。

 いっくら行儀作法の授業と言い張っても、卒業式が近いし~清掃仕事が面倒よねぇ。あ、なんなら生徒を駆り出せばいいじゃない!

 ……って感がありありですもの。

 増してや、日頃から教室の掃除すら免除されてる貴族様には、公園の植木の選定やら、茶こしのついたカップを洗うとか、さぞかし屈辱的でしょうからねー。

 そんな学院事情に付き合わされるのは、ミランダ女史も同じはずだが、不平を垂れる生徒らに「お黙りなさい!」と、一喝して沈黙。


「オホン。では皆さん。それぞれのクラス毎に別れて、指定された場所の清掃をお願いします……どの班がサボっているか、ひと眼でわかりますから、いいですね?」


 と、特大の釘を差されたのだが――





「いくぜーっ、秘剣ドラゴンスレイヤー!」

「ヌーハッハッハ、そんな攻撃なぞきかぬぞ――ぐへっ!」

「っ、アハハッ! 汚なぁ! どうだ俺の雑巾火球ボールのお味はよ!」

「クソッ、やりやがったな!」


 と、雑巾を顔面に直撃された男子が、雑巾を拾い上げると、回りでケラケラ笑い転げた他の男子が一斉に逃げだした。

 ……出たよ。掃除サボりのバカ男子!

 ったく、ミランダ女史監視の目がなくなった途端、掃除もそっち除けで、空中を雑巾が舞ったり、箒やチリトリを武器に殴り合ったり、もうしっちゃかめっちゃか。

 一応貴族が通う学院のはずなのに、あんな遊びに夢中とかなんて有様ザマしょ……ま、淑やかな私はち~っとも羨ましくなんかないですけどぉ。

 あんな男子に構ってらんないわ~。

 働きアリさんな私には、より集めたゴミを捨てに行くという崇高な使命があるのです。

 よいしょ、と拾い上げてゴミ捨てに行った。

 帰りに水飲み場に寄ったら、他のクラスの女子四人グループもサボってる。

 ……やれやれ、と行こうとした時、そのひとりの女子が、目を輝かせて「ここだけの話しだけど!」と、口の傍に片手を当てつつ大声で拡散してた。


「あのお見合い会、想像以上に参加者が増えてるんだってよ! ……噂だと姫様に英雄のトーマス様、それにあのフレイ様まで参加とか、マジに凄いよね! はじめは三回生だけが熱心だったのに、他のOBも参加希望が殺到してて、ルクレール様も鼻高々だとか」


「あー、参加者の選別はルクレール家だもんねー。王家の名を冠した集いに、自派閥ばっかり呼ぶとか露骨に過ぎて嫌ね……って、ワタシたちみたいな下の者にはどっちにしろ縁がないんだけど」


「そんなことどーでもいい! 要注目なのは参加者! 聞いた話しだと、フレイ様は参加なのに、その主の勇者様は招待されないんだって。……これは嫉妬に狂ったテオドア様がフレイ様との仲を裂くべく、結婚相手をあてつける気なのかも……」


「そういう話し? 無理無理。相手は、全てにおいて超然としたフレイ様なのよ? ルクレール家から、生半可な相手をあてつけられても、相手にもされないんじゃない?」


「そうそう。ルクレール家と張り合うような命知らずなお方だしね。それに、将来は姫様に仕えるクィーンガードで間違いないって話しじゃない? ヘボ貴族と結婚して、都落ちとか……ヤダ想像すらしたくないわ! 夢が壊れるもの!?」


「ダイジョブでしょ? これも噂だけど。トーマス様が開いたっていう評判のお菓子屋?あれ、トーマス様がフレイ様に”愛をこめて”って贈った店だっていうのよ!」


「ソレ本当!?」


「ホント。店でやった開店セレモニーでフレイ様を褒めそやしてたし、もうメロメロって感じ? それにフレイ様も受け取ったってことは、まんざらでもないってことでしょ?」


「……さすがトーマス様ね。けど、どっちにしろ、ラザイエフ家の財力に敵うような家を、ルクレール家が用意できやしないでしょ?」


「あぁ、なら安心ね! フレイ様にはそ・れ・こ・そ! 王子様みたいなヒューイ様でないと不足な気がするもん」


「……え、貴女ってラングストン様! って、騒いでなかった?」


「ソレはソレ。コレはコレってこと」


「歪んだファン心理~」




 ………… …………。


 ……アハハッ、なーにあの四人組ったら掃除をサボって、あんな噂話に高じちゃって。私と同じ「フレイ様」ってらしいけど、英雄に愛を贈られるだの、将来のクィーンガードに目されてるだのって、それはそれは凄いお方ね~。 

 もう、付き合ってらんないわ……そうだ。後でミランダ女史にこんな噂が蔓延ってます、って、チクッて止めていただきましょう。

 べつに、こんな噂は捨て置いてもいいんだけど万が一にも噂のモデルになった子の耳に入ったら傷つくもんね。ほんとに。

 大体、ゴミ拾いという崇高な授業の最中に、あんな噂に高じてるなんて許されないもの。えぇ。だから、絶対に絶対にこれ以上の噂の拡大は阻止しなきゃ。



「……なにをブツブツと独りで言ってるんだよ。さり気に怖いぞ」

「いぃっ!?」


 おぼつかない足取りで公園にまで戻ったら、上から声が落ちてきた。

 なな、なに!?

 と、振り仰げば、木の上には剪定バサミを片手にしたシャナンが、呆れたような顔つきでこちらを見下ろしている


「……あ、あら、シャナン様ごきげんよう。そんな高い木に登ってなにをしていらっしゃるのです?」

「植木の剪定だよ。てか、さっきオマエだってやってただろうが」


 そ、そうでしたね。ほほっ。嫌だわ私ったら。

 と、脂汗を流しつつ誤魔化したら、シャナンは逆に疑わしそうに目を細めて、


「なにか呪詛めいた呪いを吐いてたのが聞こえたんだが、なにかあったか?」

「べつになにもないですよ」

「ほんとか? ……またルクレール嬢に絡まれたとかそういう――」

「いやいや、ほんとそういうことではないので」


 と、手を振って取り繕ったら、シャナンはようやく納得したのか、寡黙な職人のようにパチパチ、と梢を切りだした……ふー、さっきから嫌な汗をかきまくりよ。


「って、あれ? ボギーは何処に行ったんです? あ、さてはサボりですかー?」

「……同じこと言って、オマエを探しに行ったよ」

「サボってないですよぉ」


 失礼しちゃうわ。

 ……って、私も同じこと考えてたが。

 いやいや、サボる所かこちとら嫌な脂汗をかきまくりで精神が磨り減ってござる。


「ハー、まぁいいですけどね。こんな掃除なんかで体力使いたくないです……てか、シャナン様も、マジメに掃除するのは結構ですが、そんな高い所まで切らなくってよくありません? 丸裸になっちゃ、さすがに木が可哀想なんですが……」

「そんな木を痛めるような切り方はしてないぞ? この木だけ葉っぱが茂り過ぎてるし、これでは公園の全体としての調和が乱れるからな」

「……全体としての調和ってなんですかソレは? そんなの適当でいいですって」

「適当にしてたら僕が落ち着かないんだよ」


 あっそ。

 そーいえばシャナンって片づけんのが趣味って、前に聞いたっけな。

 しかし、何十本とそびえる公園の木々に、剪定バサミで遮二無二切り込む辺り、そこはかとなく狂気を感じる……。


「そんな切り込まなくても、少しはサボってくださいよ。向こうではサボり男子があんないるし。あ、いっそ向こうに参加してみては」

「僕が?」


 うん。子供っぽく、はしゃいできてください!

 と、私は送り出そうとしたら、シャナンは剪定バサミをじゃきん! と鳴らして、


「……獲物がこれしかないが。やってみるか」

「止めて! 死人が出るっ!?」

「いや、冗談だよ」


 ……冗談がキツイよ。


「はぁ~あ。シャナン様は楽しそーでいーですねー。こっちは店だのお見合いだのって、悩みが多い年頃なのに」

「年頃は同じだろ?」

「……そういう的確なツッコミは会話の根を断ちますよ」


 しかし、真剣に先の事を思うと、キリキリと絞られるように胃が痛いよ。

 お見合いだなんて、気合い入る要素がないよね。

「当日は菓子を作るんでしょ? ドレスアップもメイクはあたしが会場まで付き合ってあげる!」と、ボギー様には夢見顔をして言われる。

 ……私はそんな抜かりない準備なんて求めてはいない。

 てか、貴族なんてえり好みしなければ相手なんてあてつけられるのに、いまだ婚姻が決まらない学院OBなんて、よほど家柄に問題があるかよほど人格に問題があるかどっちかでしょ?

 それで会場に大挙してやってきたのが、脂ギッシュなオッサンたちばっかだったら……ウゲ~っ!? 考えただけでも虫唾が……!?


「べつに行きたくないなら行かなくてもいいんじゃないか?」

「え、いいんですか?」


 天の助けのようなお言葉にガバッと振り仰ぐと、シャナンはこちらを見るでもなく、ソッポを向いていた。


「オマエは招待されたといっても、あくまで「陛下の専属料理人」として菓子を作れ。と命じられてるに過ぎないんだろ。まぁ、陛下の顔を潰すのはマズイが、お見合いを辞退したって、文句をつけられる筋合いはないからな」


 たしかに、お見合い会にお呼ばれしてるのは「菓子を作ったご褒美」だ。

 一応、女王陛下が持ってきた話の手前、断ることはできなかったけど、べつに出席する義務はない。


「けど、いいんですか? 暗にズル休みを薦めるって」

「オマエが働きづめなのはわかってるからな……倒れられたら皆が心配するし、適度に休むことは必要だろ? ……それとも、そこまでして行きたいか?」

「いえいえ、全然!?マジ無理です!」

「じゃ、決まりだな」


 いやったー!

 これで面倒に巻き込まれずにすむぞーい!

 と、私は思わず箒をぶん投げて、万歳三唱をした。すると、それに笑ってたシャナンが「それで、さ」と、改まった調子で言った。


「その日は、暇だろ? ……良かったらでいいんだが、よければ一緒に街に買い物にでも行かないか?」

「買い物?」

「あ、あぁ……少し、買いたい物があるんだ。だから、そのついでに街を見て回ろうかなって。ほら、出かけるのも久しぶりだから。オマエも、一緒にどうか、って……」

「ふーん。べつに付き合うのは良いですよ?」

「ほんとか!?」


 えぇ、もちろん。

 寮に帰っても、そのまま時間が余っちゃうものね。

 だったら、ボギーと三人で遊ぶ方が有意義な時間の使い方でしょ?


「……さ、さんにん?」

「えぇ。どーせボギーも暇でしょうから、きっと呼べば来るでしょ」

「…………そ、そう。だな」


 うししっ。店も好調だし、なにより陛下からも給金が出るし、当日は豪遊できますよ!

楽しみだなぁ!

 と、私はシャナンに笑いかけたが、なにかぎこちない動きで固まってる。

 なんか気掛かりでもあるの?

 と、訊ねようとしたら、不意に「あら、サボりの相談だなんていけないことね?」と、声がかかったのに、今度は私の機嫌が急転直下した……。



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