表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
189/206

LV177

 ボギーがつるっ、と口をすべらせたせいで、

「フレイがお見合いっ!?」と、皆の驚愕に慄く眼が、私へと集中してしまった。

 ……チッ、これでは誤魔化そうにも無理か。

 忙しさにかまけて意識的に忘却せしめてたのに、嫌なことを思い出させてくれるワ!



 あの後、クリス様はえらくシュークリームをお気に入られて「アルマのお土産に」と、四つもお買い上げになった。包みを大事そうに持つ姿に、私もホクホクと「またどーぞ!」と、姫様になごんでいた。

 ――のもつかの間、


「ところで話しがあるのだが?」


 と、悪魔と見紛うばかりに、下司笑いを浮かべた陛下に肩をポンッと叩かれ、お見合い話を打ち明けられたのだった。




「って言うと……なにか!? 女王陛下が直々にその話を持ってきたのかよっ!」

「さっきからそう言ってんでしょ?」


 唾を飛ばす勢いのジャンに逆切れしたら「そう言ってるもなにも一大事だろっ!?」と、逆逆切れ返しされた。


「こんな縁談話を断るって相手を考えたら無理だろっ! ヘタしたら、陛下のメンツを潰すことになんじゃねぇかよっ!」

「ン~っと。それはたぶんないと思いますよ?」

「ない、ってどうして言い切れるんだ」


 私が指同士をツンツンして言うと、シャナンが顎の下に手をやって不機嫌に言うのに、ボギーが「あぁ」と、軽い調子で微笑んだ。


「お見合いというのは、べつに陛下が企画されたものじゃないそうなんで。お相手も陛下が選んだ方ではなく、不特定多数のなかからフレイが選ぶんです」

「選びませんけどねっ!」

「今年の卒業式の後、大規模のお見合いパーティを開くから出席しろ。ってなわけ。これ、たぶんオマエらにも関わる話しだと思うし、呑気に他人事だと思ってんじゃねぇぞ」

「ぼくらも?」


 指さされたヒューイたちが「説明はよっ」と戸惑いながら縋っても、不機嫌なトーマスさんは教える気もなく頭をガリガリ掻いてる。ご自分も陛下の罠にかけられたからって、この冷たい仕打ち。そこに痺れない憧れないっ!


「えっと、あのよければわかるように説明してくれないかな?」

「ン~、と、わたしもさっきトーマスさんから、レクチャーというか、推察を受けた程度なんで大したこと知らないんですけど……」




 ご存じの通り、春には卒業を迎える生徒たちが控えている。しかしながら、多くの生徒の進路は決まってなく、宙ぶらりんな子がほとんど。

 それもそのはず、貴族の働き口なんて騎士か文官。はたまた実家の後を継ぐか、とほぼ決まっている。

 その上、女子の選択肢は、実家に戻るか、結婚、の二択しかない。

 まぁ「結婚」というのが、貴族のなかでの大事な仕事なのであり、いい伴侶を捕まえるのに必死になるもの。なのに、卒業が迫ってるのに婚約者もいないのはマズイ! と思い悩むのも貴族という不可思議な生物だそうだ。


 なるたけ身分の高~い貴族を捕まえて卒業と同時に――結婚をして、

 王都近郊の土地で優雅に暮らす。


 これが、貴族のなかでも鉄板の勝ち組パターンらしく、いまの三回生は、クモの糸よりも細くて薄~い縁を逃さぬよう血眼になって「良縁はねぇかぁー」と、練り歩いてるとか……ま、それは貴族のみならず、立場の弱い侍従も同じで、晴れやかな王都暮らしを過ごして、いまさら元のド田舎暮らしなんて嫌々っ! と、懊悩を深めてるそうな。

 ――そこで持ち上がったのは、同じく未婚の卒業生と在校生を一堂に会し、大お見合いパーティを開こう! と、いうはた迷惑な企画らしい。




「……そうなんだ。でも、ぼくらは在校生といっても、そんなまだ婚姻だなんて早いし。増してやフレイは侍女なんだから、企画の趣旨から外れるんじゃ?」

「そこでこの企画の発案者ですよ。彼女がわたしの「お菓子の腕を借り上げたい」とか、陛下にわざわざ持ち掛けて、その労苦をねぎらうとかって、とくべつにお見合いへの参加を許して差し上げるワ」

「……それって、」


 あら、この声の巻き具合に、察しがつかなくって?


「…………例によってルクレール家の差し金か」


 シャナンがゲンナリとした。うん、私も陛下から「ルクレールのお嬢様が息巻いていてな」と、苦笑交じりに説明された時、同じ反応したよ。

 まっさか、陛下が仲人おばさんをやりたがるはずもないでしょうけど、陛下もクリス様の”婚姻問題”という負い目があって断り切れなかったらしく、王家主催のお見合い会を開くことになり、その日には私の菓子を持参せよ。との王命を授かってしまった。

 なんて迷惑なお土産でしょうか。カフェテーブルだけですむと考えた私が甘かったか。これも巻き舌の呪い……!


「……はぁ~あ。店がこんな忙しい最中にこんな催しを企画とか。はた迷惑極まりないです。クリス様が不機嫌だったのも、このお見合い話を聞かされたってことだし、いったい誰得なんだか……」

「そう? 企画者の意図はともかく、出席者にとってはいい催しじゃない!」


 ……関係ないかならって、キャッキャしないでよボギーたん。

 ま、テオドアの意図なんて、卒業されるジョシュアへの援護射撃のつもりなんでしょうけど。いやさ、それなら私を搦めてくんな、と声を大にしたい。

 わざわざ陛下に料理人を借りたい、とか要望までして、嫌がらせ以外の目的を捜す方が難しいわね。


「そっか。フレイの話を聞いた限りじゃ、べつに参加は義務じゃないんだよね」


 私の辟易としながらの説明に、ヒューイは得心がいったように何度か頷いて言った。

 でしょうね。在校生の対象は三回生の人たちに絞られるから、後は家柄の良い方たちが選抜されるんでしょ。そのなかにはラングストン家も当然入るだろうが、そこは義務ではないし、まだ一回生だからって断れるはず。


「おそらく、ローウェル家とかラングストン家にも、近々招待状が来るんじゃないですか。……あ、ジャンの家には来ないから」

「改めて言われんでもわかるわっ!」


 がるるっ、とジャンが唸るのに、ニコラがベルトを抑えてた。犬と飼い主か。


「どちらにしろ、まだ婚姻相手を見つけてない人が集まる場なら、その趣旨にぼくは当てはまらないからね。出席は辞退するよ」


 と、ヒューイは微笑みを深めてこっち見た。

 ……うん? なにか、顔についてる?

 ま、いや。シャナン様はどーなさいます? 出席されるのですか? と、問いかけたら、なぜか憮然としてヒューイを睨んでた。

 あれ、まさか出席を決めかねてる? 勇者様は意外にどっちつかずであらせられるな。

 と、私たちがのほほんとしてたのが、癇に障ったのか「……お子ちゃまたちは呑気しちゃってッ」と、トーマスさんは手に顎を乗せて悪態をついた。

 それに、ヒューイが「いやなら断ればいいじゃないんですか?」と正論を突いた。が、


「義務じゃねぇ! 義務じゃねぇんだけども――」

「陛下に、お呼ばれして、出席しないわけにはいかないでしょ」


 私がにべなく告げたら、ダバー! と、トーマスさんが涙を滝のように流した。

 たぶん、賑やかし要員か、陛下の嫌がらせだろ。クックック、存分に苦しむがよい……って、私も巻き舌から、同じ仕打ちを受けていたか……ぐふっ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ