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LV172

 食堂の前で待ちぼうけていたら、私たちを置いてったアルマが「ごめんなさ~い」と、謝りつつパタパタと戻ってきた。


「もうアルマってば急に走ってくんだもの。驚いたじゃないっすか」

「えへへ、ちょっとお友達を見かけちゃって」

「友達? ……まさか男の子とか!?」


 季節だけでなくアルマにも春到来!?

 ヤルーッ。と、冷やかしに口笛を吹けば「違います」と、乾いた目で即座に否定された。あ、そうですか。


「そーです。アルマは王女様つきの侍女なんですから、そーいう外聞が悪くなるような妙な勘違いはしないでくださいです」

「……すいません」


 腰に手を当てて、お叱りポーズのアルマ様に頭を下げた。

 冷やかそうと思ったら窘められてしまってござる。

 私は気まずさを隠しつつ「……で、その娘はどんな子なんです?」と、訊ねる。


「え? ……うーん、かわいい娘ですよ。アグちゃんって言って、昔から運動して遊んだりしてましたですね」

「へぇ。アグちゃんって、変わった呼び名ですね」

「わたしが付けてあげたんですよぉ。でも、てんで素直じゃない娘で、おてんばちゃんで。普通に会話すのもひと苦労でしたですねぇ」


 と、アルマは昔を懐かしむかのように、穏やかな笑顔をして言った。

 ふむ。幼馴染っぽい関係なのかな。

 となると、アグちゃん、アルちゃんコンビで、お互いに言い合ってたのかしらん。まぁ、それはなんと微笑ましい光景でしょうか。私たちもそれに習って、これからはアルちゃんって呼びましょうか?


「……ちょ、止めてくださいですよぉ! アグちゃんは、わたしのこと普通にアルマって、呼んでくれてましたってばぁ!」

「いいじゃない。アルちゃんってカワイイですよ?」

「…………嫌です!」


 ははっ、アルマってばへそ曲げちゃったわ。けど、嫌がってるわりに嬉しがってない?右頬のえくぼがピクピクしてる……って、まさか怒ってるサインじゃないよね? いや、そんな穏やかなアルマが怒るなんてことはない、よね……。

 私はアルマの地味顔をしげしげと眺めたが、」ン~?」と、アルマはキラキラ眼でこっちを見上げてきた……うん、やっぱ気のせいだな。

 ともあれ、友人が多いということは、良きことかな、良きことかな。と、私はアルマに「じゃ、教室に帰るから」と、別れを告げて行ったのだが、振り返るとプリシス先輩は、アルマにソッと耳打ちをしていた。

 ……え、なんの内緒話なん?




 午後の授業をダラダラとくぐり抜け、放課後を迎えて今日の苦役は終了。

 さぁ、明日は嬉しい休日よ! と、ウキウキ気分だったが――


「次の休みは、街のビラ貼りに、お店の制服も揃いなのを買わなきゃね。あー、忙しい忙しい!」


 と、ボギーの予定により、のんべんだらりとする我が麗しの休日は蒸かしジャガイモのごとく潰れてしまった。

 ……ウキウキ笑顔に水を差すのもあれですが、お店の制服って要る? 私なんて厨房に居っぱなしになるんだから、必要ないと思うけど。


「そう? けど、揃えてなかったら「これが足りないんだね!」とか言って、トーマス様が勝手に持ってくるわよ? めっちゃ丈の短いやつとか」

「……ですね」


 見える。見えるぞ!

 鼻息荒くしたトーマスさんが、白黒のメイドさんっぽいゴスロリファッションを押し付けてくる未来がっ!?

 ……男子ってば、ほんとそういう可愛い子系のファッションが好きだからなぁ。そういう思いがわかりすぎる程にわかるが、私は変態ではない紳士です。

 でも、ボギーのこだわりは微に入り細を穿ってますよね。シャナンへの恋の長患いを見ればわかる通り、一度こだわると、お熱が入って冷めることがないからね。


「意外にボギーたんも、トーマス様の対処法を心得てらっしゃるわね。いつの間にそんな仲良くなったの」

「……英雄様と仲良しって、そんな恐れ多いこと言えないわよ」

「えぇ? それ今更じゃないっ」


 勇者やトーマスさんと一緒に土下座させられた過去は、永遠に忘れない心のメモリー。と、私が思い出を語れば、ボギーは「あ、あれは、あれよ!」と強弁した。


「……てか、フレイとじゃれ合うトーマス様を見てたら、色々と親しみがわくじゃない?いっくら失礼なことしても、トーマス様って基本怒らないし。優しいからね」

「……じゃれ合う」


 ……ボギーたんの目に、アレをじゃれ合うというのか? 私に対しては、あんな苛酷なまでに厄介事を押し付けてきてるのに。もはや、相撲部屋の可愛がりと似た感じがするわ。

 それとも、あれがトーマスさんなりの苛烈な愛情表現だというならば、むしろ熨斗を付けてお返しに上がりたい次第だわ。

 改めてトーマスさんへの恨みに、モヤモヤと黒いエナジーを貯めると、向こうの方で、ヒューイが走ってきた。


「あ、ヒューイ!」


 と、呼びかけようとしたが、ヒューイは「じゃあね!」と、爽やかな笑顔のまま、校門の向こうへと走っていく。なんだありゃ? と、思っていたら「待ってよ、ヒューイ!」と、脱走した犬を追いかけるように、エミリアが駆け抜けて行った。

 ……わわっ、ご丁寧に「あっかんべー」とか、こっちに舌を出されたわ。ムカつくな。てか騒々しいわね。あれじゃ学院の笑いものよ。


「三侯爵家を叱る、なんて気骨のある先生なんていないわよ」

「ボギーは冷めてるね」


 しかし、事実だな。

 ……でも、そーいや、前にヒューイはエミリアから「告白?」されてたっけ。あれも、なんだか、歪んだ愛情表現の仕方だったよね。シャナンと同じく同病相憐れむではないが、あんな元気っ娘に追いかけ回されるとか、色男はツライな。


「モテるのはいいけど、あんな歪んだ愛の形を押し付けられても、迷惑なもんでしょうね。……ボギーもあーならないように色々と気を付けてくださいよ?」

「はぁ? なんであたしに向かって言うのよ!」


 ……自覚ないんですか。

 ぷりぷりと怒るボギーの将来を憂慮しつつ、私たちは寮へと至る道を歩いていった。

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