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LV160

「確かめてみようよ。ふたりの関係を」


 そう言ったヒューイは、唇の前に人差し指を当てると、悪戯っぽい表情をして、道の先を仲良く並んで歩くシャナンたちを見据えた。ソレは、あのふたりを尾行をしようって、こと?

 ……どうします? と、私はボギーに目顔で聞いても、ショックの余波か、悄然として俯いている。その痛々しい姿に、ジャンもオロオロとしている。このふたりは、いまは頼りにならなそうだ。

 しかし、あの三つ編み娘さんの存在は気になるが、決定的な瞬間をボギーに見せるのは、ショックが大きすぎる気がする。そもそもシャナンのプライベートな案件なのに、そんな覗きなんてマネはちょっと。


「早くしないと見失っちゃうけど、確かめないの? それともキミらが知らない主の顔を見るのが怖いとか?」


「まっさかぁ!」と、私が堪えるより先に「そんなことはございません!」と、ボギーが叫んでいた。


「ヒューイ様は存じ上げないかもしれませんが、シャナン様は……あたしたちにウソをついてまで、女性とヘラヘラと遊びまわるような、トーマス様のような方ではないです!」

「確かに。トーマス様とは真逆です」


 うぬ。ボギーの意見に完璧に同意だ。

 前を行くのがシャナンでなくトーマスさんなら、私は納得して脅迫のネタをゲットしたと小躍――げふん、げふん! いや、大人の恋愛を黙って見過ごすだろう。

 だが、オリハルコンに匹敵する程、頭が固いシャナンが、我らにウソをついてまで女子とイチャコラしてるのは、なにか事情があるはず。

 つーか、ヒューイは誤解してるよ。例え、シャナンが勇者にあるまじき、爛れた生活に耽っていたとして、私が恐怖するだの、ましてやショックを受ける。な~んてことは微塵もないのだ。


「ふん、いいじゃないですか確かめて見ましょう。あのふたりの関係から今夜の晩餐までをね!」





 冬は暮れるのがあっという間で、地面に伸びる影の存在感が増し、買い物袋を抱えて、前を行くシャナンたちの影もふたりの歩みにあわせて地べたに揺れている。

 私はふたりの様子を眇めた目で仔細に眺めつつ、隣のボギー隊長に敬礼して報告をこっそり耳元で上奏した。


「……隊長、彼らはどうやら先の肉屋でバイソンの肉を仕入れたようであります。部位はどうやらヒレとタンのようです」

「そう」

「その用途もなにを目的に仕入れたか、推察するしかありません。が、バイソンといえば一般的には、堅い肉です。おそらくシチューにして煮込むか、あるいはヒレにパン粉をつけて揚げる可能性があるかと」

「……その情報はいらない」


 し、しかし司令部には、例え些細なこと足りえても、余すことなく伝達するのがよろしいかと存じますが……。


「重要なのは、あの娘が手料理にして一緒に食べるのか、ってことなんじゃないの?」

「ヒューイ隊員の指摘も一理ありますが、肉を美味に食すには仕込みが重要です。わたしのおススメするのは、肉を塩水に――」

「……話がかみ合ってないぞオマエら」


 うっさいよ。てか、なんでジャンまでついてきてんだ。

 私が「帰れ」と、文句を言って押し出しても、ジャンはムスッとして意地でも離れない。チッ、頑固なヤツだ。


 我々が静かに喧嘩してる合間にも、前を行かれる三つ編み娘さんはシャナンにしきりに話しかけていて、イチャコラスイッチがONしてる。

 その覗ける横顔は、かなりというかすこぶる美人だ。私より少し年齢が上ぐらいだが、たおやかな笑顔は、間違ってもテオドアめいたキツイ印象は見受けられない。

 スラッと長い足を隠さんばかりに、丈の長い黒白ドレスを着て、まるでどこかのメイドさんのようで、ふたりは屋敷を抜け出しデート中――という、雰囲気がありあり。


 ……それにつけても、あのデレッとした顔はなんなのでしょう。

 三つ編み娘さんから積極的に会話を持ち掛けられて、シャナンは柄にもなく笑顔をして

頷いてるのだ……フン、日頃、私がねぇねぇ。と話を持ち掛けても、木で鼻を括ったような態度なのに。同じブロンドの美少女でも、これほど対応が違うか。そうですか。


 ……いい気になるなよ、勇者めがッ! と、私は、勇者にあるまじき贔屓のひき倒しに義憤を燃やしたが、ボギーの心中も同じく穏やかならぬようで、三つ編み娘さんに敵愾心のこもった眼で睨んでいる。とくに、胸元の付近の膨らみは天然か? と、疑義があるようだ。


「初めて会ったふたりって感じでもないよね。シャナン君とあの娘とはいったいどうやって知り合ったのかな」

「さぁ……てか、やけにヒューイはご機嫌ですね」

「そう?」


 ヒューイは頬がにやけてる自覚がないのか。私が、その頬を抓って進ぜようぞ。と、手を伸ばしたら、さらに笑って降参とばかりに手を広げた。

 ……フン、そんなに他人の恋路に興味がおありだとはね~、ヒューイも乙女レベルが高いのかしらん。


「あはっ、ぼくは乙女とかじゃないけど。でも私見を言えば、キミたちが危惧するような関係じゃないと思うよ……残念だけどね」

「……ふーん」




 私たちがしばらく尾行を続けたら「冒険者通り」の外れまできた。ここから少し行けば、王都の表参道に面してしまう。そこは人通りも多いし、群衆に紛れたら追うのも面倒なんだが……。

 と、そんな危機感を覚えたが、その前にふたりは角の道を折れ、とある店に入った。

 ぬっ、ここが終着点か……けど、


「ねぇ、ここって。前に勇者様たちと泊まった、冒険者の宿よね」

「えぇ」


 昨年の春、王都に始めてやってきた時、定宿にして泊まった所だ。いや、懐かしいなぁ。もう一年ぶりか。って、宿!? ……ま、まさか、ふたりでもうチェックインしちゃってる関係!?

 私は慄きつつも「い、行きましょうか」と、ドアに手を差しかけたら「待ちな」と後ろから冒険者風のオッサンが止められた。


「……なんですか。わたしたちはここに用事があるんですが」

「その店になんの用事だね」

「答える義理はないでしょう。貴方はお店の人じゃないでしょうが」

「オレは店の臨時の雇いだよ……今日は貸し切りで、客を受け付けてはねぇんだ」

「その割にはさっき男女が仲睦まじく入ってきましたが」

「ウチの客の詮索は止めて貰いたいね。信用商売なんでな」

「…………」


 ……あーいえば、こーいうオッサンだな。邪魔すんなしぃ! と、メンチを切り合ってたら、ヒューイが爽やかな微笑をして割って入ってきた。


「いえ、すみません。さっき入ったお客さんが、ぼくらの知り合いだったので」

「……知り合いだってんなら、次に会った時に話すんだな」

「いいだろべつに? ちょっと挨拶すりゃ、すぐ帰るって――」


 埒も空かんとばかりにジャンが横切ってドアを開けようとした。が、オッサンがいち早くジャンの身体を持ち上げ、投げ飛ばした。

 ――ちょ、コラ! なにすんですかっ!? と、私は怯えたように縮まるボギーを後ろに隠して、オッサンを睨んだら、投げ飛ばした格好のジャンからこちらに眇めた目を向け

「てめぇらガキどもには、店が早えぇつーのがわかんねぇのか?」と、凄んできた。

 ……ほぅ、面白い。私たちにはどう早いんだかぜひ、叔父様にご教授願いたいものだわ。と、私は顔を険しくしたヒューイとともに、ゆらっ、と少しく腰を落として、臨戦態勢に入る。

 

「フンっ」


 と、オッサンは鼻で笑ったが、飛びかかっても対処できるように、じりっと左足を軽く引いた。眼には肌が粟立つような殺気だったオーラがプンプンで、子供だと舐めてかかる雰囲気は皆無だ。

 ……ふっ、こちらの実力を見抜いてるのか。中々骨のある相手よ。

 しかし、残念だったな。喰らえ!、我が怒りの鉄槌――




「オイオイ、パーティをやるってのは、違う意味だったのか?」と、よく聞きなれた声に、私たちはピタリと動きが止まった。

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