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LV159

 あんな軽い雰囲気のエミリアでも、中身がしっかり貴族なのは意外だった。ペラペラに平べったくても、やはりエイは尾に猛毒を隠しているから侮れぬ。

 エミリアは一見、その考え方や振舞いが変人ぽくても、貴族のなかに混ぜたら、きっとシャナンよりも洗練されていると、評価する向きもあるかもしらない。

 シャナンには少し見習ってほしい、とは思うが……あんな血統主義剥き出しというか、人間関係をドライに切り分けられたら、そも、私たちの関係など存在しえないだろうが。



 ともあれ、ヒューイはエミリアの振りまいていった毒に当てられ、気落ちしていたが、阿呆なジャンのおかげで、重たい空気がサッパリと洗われた。

 しかし、頭上の鳩の羽根も、同じく落としていって欲しいなぁ。みっともないから。と、苦言を呈したら、尖がり眼をして、こっちの頬に指さした。


「うっせぇよ。そーいうオマエこそ、頬にケバブのソースついてるぞ」

「え、マジ?」


 げげっ!? ゴシゴシ、と擦れば確かに指がベタってる。

 うわ、恥ずかしい! がっつき過ぎて、こんな小学生みたいなミスを、ふきふき……て、ちょ、待てよ。さっきのヒューイの様子がおかしかったのは、もしやこのことを伝えたかったのでは?


 そうだ。

 でなければ、あんな風に手を伸ばしてきたりしないよね。

 ……ハァ~、驚いて損した、いや安心した。

 いやさ、ヒューイがこっちをマジマジと、見つめてきたのもそーだし? 後、エミリアが思わせぶりに侍女と結婚するには~とか、牽制してたから、てっきりヒューイが私に気があるんじゃ? なんてあらぬ誤解をしちゃったのよ。

 いやいや、そんなワケないよね。

 私なんて、傍から見れば、ボギーみたいに女子っぽくもないし、格好も男じみてるのに。ヒューイに想われるとか、そんなのナイナイ。自分を高く評価しすぎだ。いや~、変な勘違いして、二重の意味でお恥ずかしいな。ガハハハッ!

 しかし、重ね重ね「ジャン、グッジョブ!」と、褒めてつかわした。




 それからジャンのたってのお願いということで、冒険者がよく訪れるというので有名な、通称「冒険者通り」へと赴いた。

 立ち並ぶお店は、普段の通りとは一変したもので、陳列されてる品も甲冑やら剣などが多い。品を眺めるお客さんも、肌の色から耳の尖がりまで、人種も雑多だが、共通点は皆物々しい顔立ちである。

 頬に傷を持つ人間がやたらと多いが、そんな傷は魔術でさらっと治せるのに、わざわざ残してるのはファッションの意味があんだろね。


「うぉー! すっげぇなここ!? 見て見ろよあの、怪しい色のポーション。いったい、なんに効果があんだろなぁ!?」


 と、こんな物々しい空気に当てられてか、ジャンは興奮しきりに見る物ひとつひとつに指さしていった……恥ずかしいヤツ。他人のフリしとこかな。


「……静かにしてくださいません? おのぼりさんみたいで恥ずかしいんだけど」

「いや、だってスゲェじゃん! 見ろよあの剣!? あんなのありゃコボルトなんてイチコロだぜ?」

「……犬っころ相手には、あんな大太刀は無用の長物っすよ」


 というか、前に装備してたのって、お鍋の蓋みたいな盾とか防具とかじゃなかったか? ここで仕入れたにしちゃ、やけにしょぼい装備だったな。

 てか、さっきからボギーも静かだけど「魔術道具売ります」と、書かれた露店の恋愛成就のお守りを熱心に眺めておられる……それ買うの?


「……迷ってる。買ったら負けな気がするし、買ったら効果があるような気がするし……どうしよう」


 ……手を引っ込めたり、引っ提げたりと、心が揺れ動いておられる様子が手に取るようにわかる。

 高いから止めた方が無難だが、私が迂闊に口出しして、買う方に触れてもなぁ。ここは、スルーしておくのがいいかしらね?

 と、私はポーションを眺めてるヒューイを振り返った――と、その向かいの通りに見えた人影に、少しく驚いた。

 あれって、シャナンでしょ。わっ、スゲェ偶然!? なんだって、こんな冒険者通りに……って、あの、横にいる女子は、だれ?


 …………。


 まさか、浮気?


 ……いやいや、浮気とか我々はそーいう関係ではないし。てか、シャナンがだれと付き合おうが、そう、私には、一切の関係がない! ……うぬ。

 ……本来なら、侍女として暖かい気持ちで、そのふたりの仲を見守るのが筋だが、これは信義に反する行いです。いや、なにがって、ほら、シャナンは今日、勇者ご一家で家族水入らずに観光中のはず。

 それが親孝行をする所か、その両親を放っておいて、あんな金髪の三つ編み美少女をたらしこむとか!? マジ許されないだろ、これはっ!?


 私は漂ってきた犯罪の臭いに苛立ちをこらえきれず、皆の衆に気付かれぬよう、ソーッと、抜き足差し足で離れる。

 と、シャナンたちの近くに寄ったが、向こうには気付かれてはいないね。

 ……あの店はどうも、魔物の肉を専門に扱う店のようだが、シャナンは彼女とはやけに、仲良さげだ。

 ふたりして、前かがみになって、どの部位を購入するか、相談しているのだろう。いや、少し近づきすぎやしませんかねぇ?

 ふたりで今夜の献立の相談でもしてる感じ? あ、なんか女の子が買ったぞ……あ~!シャナンのやつ、似非紳士ぶりおってかららにっ! あの娘っ子の荷物を持ったげてる! しかも手が触れた瞬間、三つ編み娘ちゃんが「すいません」とか、謝らせて……クッ、なんて破廉恥な!?


「おーい、フレイ何処行ってんだ~」

「わっ、ジャンこら、黙れ!」


 と、大口を開けるジャンに走り寄ってその口を蓋を舌。むがっ、と抵抗するのをスルーで、振り返る……ふぅ、危ね。あの破廉恥勇者にはまだ気づかれておらんか。

 って、ボギーまで来てるぅっ!? これは、別の意味でマズイんですがっ!?


「ちょっと何処行ってたのよ。なにか買いたいものでもあったの?」

「……いえ、あの、その不測の事態が起きてござって」

「なにソレ?」

「……その、口で説明するより、見て貰った方が……」


 私は沈痛な面持ちで、前に視線を投げると、ボギーも釣られたように向いた。と、ポサッ、と乾いた音がした。

 ギギギッ、と油がキレた機械のように恐る恐る振りれば、そこには生ける土偶のように、ポカンと表情が抜け落ちたボギーが立っていた。

 ……やはり、ショックが大きすぎたか。

 しかも、足元に落ちてるのって、あの恋愛成就のお守りなのな……その、効果はちょっと遅かった、かもね。


「…………あれ、どういうこと?」

「……さ、さぁ?」


 ふらっ、とボギーが倒れかけたようで、私が手を差し伸べて支えた。

 とと、……あの、だ、大丈夫、じゃない、よね……あぁ、何年物恋が破れたんだもの。よほどに血の気が抜けたように、顔色が悪い。

「ちょ、どうしたのボギーさん!?」と、ヒューイもジャンも慌てて近寄ってきたが、私の胸元に顔をうずめたまま、返事もない。な、なんか胸元が閉めっぽいが…………な、泣かないでよボギー。

 私はボギーを慰めながら、目顔でなにがあった、と問うヒューイに、買い物を終えて遠ざかってくシャナンを指した。

 すると、ヒューイは目を瞠ると即座に「確かめてみよっか」と言った。



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