LV154
どうやらボギーのバイト先とやらは街の商業地区にあるらしく、我々はラザイエフ邸から外に出て、歩いてそちらへと向かうことになった。
てか、わざわざバイト先にまで出かけなくても、口頭で教えてくれるだけでいいのに。と、ぶつくさ言っても、前を行くふたりは仲良く楽しそうに「きっとフレイも喜ぶわよ」と、なにやら楽し気に話しておられる。
……なぁに、その楽しい職場アピール。こちとら、村おこし委員の時には、紛うことなくぼっちで、和気藹々には程遠かったのにぃ。その上、トーマスさん如きがウチのボギーちゃんにあんな馴れ馴れしくして!! と、その仲に嫉妬。
「ねぇ、ボギーのバイト先ってなんでしょうね。聞いてもまったく教えてくんない、とか怪しすぎません?」
「……知らないよそんなこと」
私は腹立ちまぎれにシャナンに近寄ったら、ぷいっ、と素っ気なく言われた。
もう。そう言ったら話がそこで隔絶しちゃうっしょ?
連れないわねぇ。
「あーあ、てか朝稽古の時から元気ないですけど。風邪でもひきましたか?」
「べつにどうもしない。僕は至って普通に元気だっ!」
「……ですか?」
その割には取り乱してるような気がするけども……ま、本人が元気と言ってるからそうなんでしょ。
そうこうしてる間に、我々は市場を真横に横断して、いくつかの小路を渡って、ものの数分後。トーマスさんたちの歩みが止まったのは、小さなお店の前だった。
「これは……廃屋みたいな店だな」
「えぇ、なんか床下の底が抜けて、足でもくじきそうっすね」
私たちは、人の所有物を端的にこき下ろしたが、そんな気は毛頭なく事実を言ったまでである。
元はカラフルなトリコロールな屋根は、雨に降られたのか色褪せてるし、壁の板材にもくすんでいる。前庭は雑草が生い茂り「売却済み」と、書かれた看板も半分が倒れかけている。この怪し気な雰囲気はまさに幽霊屋敷みたいだ。
……ン?
って、そうかわかったぞ!
トーマスさんの商売! それは、ここを恐怖の幽霊屋敷として売り出す気なんですね!
さすがは目端の利く商売人だぜ。ボギー様をいち早くスカウトしたのも、怒ると怖~いお顔に、さらなる恐怖メイクを施し、街の恐怖のエンターテイメントを提供して荒稼ぎしようってんでしょ!?
……ぬはっ、なんて怖ろしい子!
「……フレイ。貴女また失礼なこと考えてんじゃないでしょーね?」
「まっさかぁ」
ボギー様の睨みに私はアハハッ、と、笑って誤魔化した。幽霊屋敷より入る前から冷汗がだらだらっすよ。
「でも、こんな屋敷でボギーは働いてるってホントなんすか? ……まさか解体工事とかやってんです?」
解体工事ならボギーの魔術で一発で粉々になりそうっすけどね。このボロさならば。
「違うわよ。そんな肉体労働なんて、あたしには似合わないし」
……じゃあ、やはり幽霊役なのでは? って、失礼なこと思わないから睨まないで!?
「ほら、ふたりとも遊んでないで入るよ?」
トーマスさんがカギを開けると、キィー、と小動物が絞殺される間際のような声を上げ、以外にも広い店内の様子が見て取れた。
踏み込んだ床のフローリング材にはうっすらと埃が積もり、壁紙の淡い柑橘系のオレンジカラーも、油汚れかなにかが付着している。
レジと陳列ケースの向こうにも部屋が続いており、そちらのスペースは調理場なのか、でかい石窯や調理台までが備えてあって、壁には延焼防止のためにか石材を嵌めている。
ふん、廃屋になって何年か経ったにしては、概ねキレイな方かもね。
「………………………廃屋じゃ、ございませんよ」
「どぅわあぁあっ!?」
と、私は悲鳴と呼ぶにはいささか逞しすぎる声を挙げて、思わず飛びのいた。
だれもいない、廃屋のレジからぬぅっ、と音もなく暗い顔をした女がいきなり現れた。
やはりここは幽霊屋敷っ!?
「悪霊退散、悪霊退散っ!」と、十字を切ったが、彼女は苦しみ悶える様子も、天から光が零れてくるでもなく、きょとんとした顔を返してくる。
……クッ、そこまで現生にしがみつくかっ!? と、歯噛みしておったら、トーマスさんが宥めるように手で制された。
「フレイちゃん落ち着いてって。彼女は幽霊じゃなくてちゃんと足がついてる人だよ。ンで、この店の元所有者で、現店長さんのターニア・ウェルトさんだ」
「……あ、驚かせてしまってすみません。ターニアと申します。初めまして」
「……………は、初めまして」
び、びっくりしたけど、人間か? レジに隠れて見えないが足はついてる、みたいね。ハァ、驚いた……つか、なんだってボギーのバイト先に来て、こんなドッキリされなきゃあかんのよ。
「……あの、話しではボギーのバイト先に来たって話しなのに。ここってトーマスさんのお店じゃないんですか?」
「いやいやここは俺のお店だよ。実は、ターニアさんはここでパン屋を営んでるんだけど、あんまり経営が芳しくないってんで、俺がこの店の経営権をお買い上げしてね」
「え、それってつまり……悪質な地上げ屋?」
私とシャナンはトーマスさんから一歩引いたら「違うっつのッ!?」と、怒鳴られた。ひっ、こんな軽い冗談に怒るなんて、うっかり図星を突いちゃったわ。やっぱ、幽霊屋敷よりも人間の方が怖いのね。
「地上げなんてしてないっつーの! てか、ターニアさんにはこれからもここでパン屋を続けて貰う予定だし! つーか、ここは俺とフレイちゃんのお店なの!?」
「は?」
……なに、言ってんの?




