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LV150

「シャナン君はずっとそこに立ってるだけでしょ。ボギーさんもいるんだしフレイの手を借りる程、忙しくはないんじゃないかな。それとも、ローウェル家では侍女が息抜きするような時間も与えていないの」

「……人聞きの悪いことを言わないでくれるか。息抜きもなにもいまは忙しいんだ。後で存分にパーティを楽しむから、いらない心配はせずに、ひとりで楽しみに行け」

「いらない心配、っていうか、ぼくはただフレイを誘ってるだけなんだけど。それより、さっきから婚約、婚約って、なにか聞こえてきたんだけど、それなに? ……意味がわからないしその冗談、凄くつまらないけど」

「冗談じゃなく事実だ」

「はぁ?」


 …………なんか、スゲー殺伐とした雰囲気の所、空気を読めずにすみませんが。その、お手を離していただけませんかね? ふたりに逆方向に引っ張られてるから某サボテンダーがごとくS字な有様で、右足のふくらはぎがプルプルきてるんだが……。

 と、私は目顔でボギーにお助けを求めたら、嫌そうに顔を歪めると、何故かゲッソリと疲れた感じで「ふたりとも落ち着いてください」と、割って入ってくれた。

 ……ホッ、危うく足がツルとこでしたわ。さすがはボギー様。火中の栗を拾ってくれる勇者は貴女様だけです!

 しかし、ボギーが間に入っても、シャナンとヒューイが睨み合うのは変わらず、無言のままムッツリと唇を尖らしてる。

 ちょっと、こんなめでたい新年を祝うパーティで騒ぎを起こすのは、マズクね?

 そんな威嚇しあうふたりに「ったく、シャーねぇな」と、トーマスさんが呆れたように呟くと、ヒューイの癖ッ毛な頭をわきで挟みずるずると隅っこへと引き摺っていく。

「痛いですって!」と、ごねるヒューイの耳元で、何事かを囁いたら顔色がスッと冷静さを取り戻した。


「……そんなことのために偽装婚約をしたってことですか?」

「声がでかいっつの!」


 と、トーマスさんは咄嗟に口をふさいだが、ヒューイはそれを払いのけると、キッと顔つきを鋭くして「そんなの最低だ」と、吐き捨てた。


「貴族だったら意に沿わない婚姻なんていくらだってあるでしょ。それが、自分の侍女に、フレイを矢面に立たせるようなマネに使うなんて……自分の責任を放擲して、フレイに押し付けてるだけじゃないか。後で婚約を破棄するだって、そんな彼女に不名誉なことさせて平気なのか?」

「…………」


 憤りをぶつけるように興奮気味にヒューイが言うのに、シャナンは黙然と押し黙った。……いや、そんな心配してくれるのは有難いけど、あまり責めないでやって。この作戦は、あくまでエリーゼ様が主導したっていうか。


「ひゅ、ヒューイ。いいんですって、嫌がらせが減って助かるのはわたしどもですから」

「フレイは優しすぎだよ。彼の甘えのせいで、キミが面倒に巻き込まれるなんてことない。……ぼくだったら、そんな危ないことなんかさせない。普通にキミのことに対してちゃんと責任を――」

「なにを騒いでるのヒューイ?」


 と、こちらに向かって力説してたヒューイは、そんな間延びした声に、動きがピタリ、と止まった。

 私たちはきょとんと振り向けば――心臓が止まりかけた。

 振り向いた先には、上品な感じの老夫婦が声を掛けてきたらしい。が、そのさらに後ろには青い瞳を細めた女王陛下、そしてクリス様。ならびに身分が高そーな、お歴々の方々までが並び、恐ろしく目を細めてるテオドアやら、ジョシュアやら、エミリアやら……もう、ワケがわからんぐらいに、ゾロゾロと連れ立ってる!?

 なんとか失神間際で踏みとどまったら、陛下はこちらを青い目で射すくめるように睥睨すると、


「あぁ、なにか騒動が起こっていたかと思ったが、原因はなにかな? 痴話げんかなら、我が仲裁してもよいがな?」

「し、失礼しました……お義父さん、お義母さん……それに、へ、陛下っ」


 ヒューイは、混乱しながらも慌てて居住まいを正した。


「痴話げんかなら、我がラングストン家も安泰ですが。どうも、親しいご学友と意見し合っていただけのようで」

「ふふっ、ならそう目くじらを立てるものではないか。

「お恥ずかしい限りですわ。でも。ヒューイが感情的になるなんて、ずいぶんと珍しいことねあなた」

「……は、ハイ義母さん、すみません」

「もう、謝らなくてもいいのよ」


 老夫婦は陛下の前で取り乱したヒューイに優しげな目を向けて、ふっくらと微笑んだ。

 ……お義父さん、って、もしや、彼らがラングストン家のご当主? うわ~、ずいぶんと、歳が離れた親子だな。むしろ祖父と孫って紹介された方が、しっくりくるけど。

 血のつながりのない親子って聞いてたが、なんか家族仲はよさそうだね。

 貴族っぽい傲岸な態度でもないし物腰も柔らかで、優しそうだし……って、陛下の前で、こんだけ堂々としてるって時点で、並大抵の人物じゃないけども!

 と、私は恐々と身を縮めたものだが、義母さんとふいに目が合うと、

「貴女はなんていう名前なの?」と、聞かれた。

 ……え?

 いま、この場で自己紹介すんの?

 ちょ、ハードル高っ!? 名を売るなら最適な場面だけれども、私はそんな向こう見ずじゃないっすよっ!?


「名前は?」

「わ、わたしはフレイ・シーフォと申します」

「そう? ワタシはグリムス・ラングストン公爵の妻でレーゼと申しますのよ。よろしくね。フレイさん」

「……は、ハイ、光栄でございますレーゼ夫人」


 よろしくね。と、義母さんはまるで子女のように微笑むと、私やもしっかりと目を合わせ、


「ふふっ、貴女のことはクルトワから色々と聞いておりますよ」

「……クルトワ、から」


 ……それはさぞや、私という人格を歪ませた意見でしょうね。その見解はあまり参考になされない方が、よろしいですよ。


「ワタシは貴女の顔を一度は拝見したいと思っておりましたのよ。ヒューイの話を聞く限りだと、さぞや楽しい方でしょう、とね」

「……は、はぁ」


 楽しいお方、って、褒められてんのかしらん? クルトワにしろ、ヒューイにしても、私のことをどう思ってんだかわっかんないからね。と、首を傾げたら、ふと、レーゼ夫人は私の両手を握られた。わっ、暖かいけど、ど、どうしたの?


「お、奥様?」

「ヒューイが貴女と出会ってから、笑顔でいてくれる時間がとても増えたのよ。貴女たちと話していて、楽しいみたいね。ワタシも夫もとっても感謝してるの。これからもあの子のことをよろしくね」

「……え、えぇ」


 いやぁ、こんなにも腰を低くされると、ちょっと恐縮しますね。

 シワに隠れてるが、微笑む時にえくぼができて、可愛らしい奥様ですこと。これは昔は相当の美人だったでしょ。と、その場が和んでいたのだが、私はうっかり失念していた。傍らには、冷血なまでの微笑を貼りつけた麗人が立ってたことに……。


「さて。少し質問があるのだが、今日この場で、だれかが婚姻を交わしたという話を小耳に挟んだのだが、それは真か?」



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