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LV149

 熱気に満ちた大広間に、少しく疲れを感じて、ペタッ、と大理石の城柱にほてった頬を貼りつけた。

 どんな催しにあっても、勇者人気の高さは変わらずで、我々の周囲には少しでも勇者に近づこうとする、貴族様たちがわんさか湧いてくる。

 若々しくて凛々しい勇者様にゾッコンなのか、ポッと赤らめた顔のおば様たちが多くて会場に来てから、かれこれ一時間以上も経つが、この光景はてんで変わらん。

 早々に人酔いしてきた私は「あ~、しんど」……と、そっと溜息をついてたらエリーゼ様にグワシッ、と肩を掴まれて、厚化粧のご婦人の前に、引っ張り出された。

 ――いいっ!? と、目を瞬かせると、値踏みするようなご婦人がずいっと、舐めるように、私の顔をガン視してる……あはは、とつい愛想笑いを浮かべたらご婦人は「ふむ」と、ひとつ頷いた。


「……へー、こちらが、シャナン様の婚姻相手のお方、ですか。まぁ! なんと愛らしい娘なのでしょう、奥様?」

「だけど、あまり拝見したことないお顔ですがいったいどちらの貴族の子女様かしら?」

「ふふっ、この娘たちは、貴族ではなくウチの侍女ですわ。シャナンとはいわば幼馴染という間柄で――」

「本当ですのエリーゼ様……しかし、侍女の方との婚姻とはずいぶんと思い切ったことでいらっしゃる」

「わたしたちもそう思いましたわ。けど、ウチのシャナンがこの娘たちと添い遂げる、との覚悟を持っていて……わたしたちも、その愛の深さを知ったのならば、その仲を引き裂くだなんてマネはできません」

「まぁ! さすがは勇者様のお子様で、ずいぶんと情熱的ですこと」


 ほほほっ、とおば様たちが、人の恋バナをエサにして大いに楽し気に笑ってる。

 …………。


「……あの、シャナン様、つかぬことをお伺いしますが。いつわたしにジョウネツテキな愛をささやかれたのですか?」

「ばっ、そんなことするかっ!?」


 ですよね~。

 けど、エリーゼ様の脳内にでは、そうなってるらしいっすよ? と、私がニヨニヨとした眼を向けると、シャナンは大いに項垂れた。


「……いや、すまん。母様は普段は物静かなんだが、話が恋愛沙汰になると、こう暴走しがちで」


 それは前から知ってるよ。

 会場に来る前から、偽装婚約をアピールするってすげー張り切ってたものね。なんか、シャナンに惚気て見せてー。とか頼まれたが、断固として断りました。

「ウチのダーリンはぁ、とってもステキでぇ、いつもめちゃ寒い朝にもわたしのことを木剣でぶってきてぇ、もう離れられないって感じぃ?」

 という風な、深刻に頭の病気かもしれない発言しか出来かねますからね。

 紹介される傍らで、ニッコリ笑顔を作ってるだけとはいえ、神経が磨り減りますよ。

 勇者様たちに、親子同伴で挨拶にきた子女様たちなんて「こちらが婚約者ですのよ」と、やられた瞬間、音が出そうな程ギロッ! と睨まれるし。

 この作戦が上手くいけば、私たちへの嫌がらせ圧力が弱まる。と、豪語されていたけど、ほんとそーなんのか、疑問だわ。


「……なんか、頬の口角がぴくぴくしてきましたわ」

「普通にしてればいいんだよ」

「そーいいますけどねー、一応は人付き合いとして、笑顔をしなきゃ相手に不快がられるでしょう?」


 ……貴方様は平素から整ってるから仏頂面でもクールに見えんだもの。楽でいいわー。

 ろくに気遣いもできぬシャナンを放って、向こうで押し黙っているボギーに「平気?」と、声掛けしたが、生体反応がない。

 ボギーはいつものショートヘアをグラデボブにして、前に頂いた深緑色のドレスに白のストールを肩から掛けている。ストールと、その耳元に隠れた真珠のイヤリング意外は、以前のパーティに着た服とまる被りだ。


「おーい、ボギー聞いてるー?」

「…………へ、な、なに? ……あ、あたし変なことしたっ!?」

「いや、変というか、緊張し過ぎですよ。さっきから婚約者でございと紹介される傍らで、寸とも動かないでしょうが。少しは御愛想を振りまいとかないと……」

「う、うん、ごめん――ッ、なさいっ!」


 と、ボギーは平素に頷いたのだが、突然、隣にいたシャナンに見られたのを察したか、その頬がカーッ、と赤くなった。

 ……あーあ、シャナンと腕組みなんて試練はボギーには早すぎたんだ。

 いまシャナンを中心に、右手が私、左手がボギー。と、腕を組んでいて両手に華状態。これは「ラブラブっぷりを、周囲に知らしめるのよ!」と、恋の狩人様が強弁されてこうあいまったのだが、いつものボギーに比べて、その動きが三倍鈍い。

 ちゃんと婚約者のフォローをしてよ。と、シャナンに冷たい目と肘鉄を差し込んでたら「フレイちゃん、そんな薄着で寒くない?」と、淑女の皆さんに、軽く手指を上げて別れを告げて、トーマスさんがやってきた。


「あぁ、トーマス様、お気遣いどうも。暖房のアーティファクトがありますからむしろ暑いぐらいですよ」

「そっか、そりゃよかった」


 会場の隅っこに設置されてる、丸っこいダルマ型のアーティファクトから暖風が吹き付けてきて、むしろ外よりもはるかに暖かいんだわ。


「トーマス様もお疲れ様ですか? ……見てましたよ、さっきから女性たちからの黄色い声を独占されてて。もう選り取りみどりじゃないですか~」

「オイオイ、他の娘ならいざ知らず、フレイちゃんにそんな勘違いをされるなんて悲しいなぁ。俺の目に映るのはキミひとりだけだよ?」

「……他人の婚約者にのたまう台詞じゃないでしょう」

「いいんだよ、どーせ偽装なんだし……て、早々と噂になってるみたいよ? キミたちの婚約発表」


 ……ですか。これもエリーゼ様の献身の甲斐がありますが、ちょっと素直に褒めたくないね。すでに私もボギーもウチの娘扱いされて、別の意味でも圧力が強まってる感があり、寒々とした気持ちになろうものである。


「確かにこちらを伺いながら、口元を手で覆って内緒話してる方々が見られますよね」

「まずは上々の滑り出しってとこかな。後はシャナンが浮気しなけりゃ、ケチはつかないっしょ」

「……しませんよ!」

「だって。一途な愛を向けられて、フレイちゃんもボギーちゃんも嬉しいでしょ」

「いえ、まったく」


 いきり立つシャナンに、へっへ、とニヤけるトーマスさんだが、私は至って平素な面でスルーをしたが、根が乙女なボギーは「……そ、そんなっ、愛だなんて」と、真っ赤な顔をさらに染め上げていた。

 こんな揶揄いマジメに捉えないで無視していいのよボギーたん。


「フレイちゃんはクールだねぇ。けど、偽りと知っていてもだれかに求められたらそんな悪い気はしないでしょ? ……フレイちゃんの心がシャナンに惹かれ~、なんてことになってない?」

「トーマス様。シャナン様もわたしも大人ですよ。偽装だとわかっていてどこに喜ぶ余地がございますか」

「……そうだ」


 私がちらっと視線を向けたら、シャナンは少しく慌てたが、憮然と頷いた。

 ほらね。


「わたしたちの婚姻とは、つまり二年の間に姫様やテオドア様たちから、婚姻話しを持ちかけられても避けるための材料として利用するだけのこと。他の方々の動向を注視して、姫様の婚姻問題が解決したならば、我々の婚姻は速やかに破棄されるのです。そこに色恋だの甘い考えが産まれる余地など、ございますまい」


 ボギーにすれば、これは距離を縮めるチャンス! と、好機に捉えてるかもしらないが、私にとっては、殊更さようにドライな関係よ。

 色恋沙汰に仕立てようってエリーゼ様が腐心されても、私にはそんな気持ちがないんだから、育むもなにもないわよね。

 私が重々しく頷けば「………そうだ」と、シャナンも同意した。

 ですよね。

 てか、こんな煩わしい仕事はエリーゼ様にお任せして、私は料理でも漁りに行きましょうかねー。あ、シャナン様も行きます?

 ……って、なんか、トーマスさんに「気にすんな!」とか、肩を小突かれてるが、なんのこっちゃ?

 阿呆な男どもを怪訝に眺めてたら、向こうから夜会服に身を包んだヒューイがにこやかな表情をしてやってきた。


「こんばんはフレイ」

「あ、ごぎけんようヒューイ様」


 と、私も笑顔を返したら、ヒューイは息を切らしたように走ってきた。いや、そんな慌ててこなくても。と、苦笑したらヒューイも少しく照れたように襟足をかいた。


「こんなとこで会えるって、思ってなかったからびっくりしちゃった。何故、新年会に?もう、参加するって聞いてたら、もっと早くに会いに来たのに!」

「わたしたちも急遽参加が決まったんです」

「そっか……でも今日の恰好もキレイだよ」


 いやいや大した格好じゃないですよぉ。夏まで見納めか。と、思ってた青いドレスを引っ張りだしてきただけだし。ハーフアップに結んだ髪と、貰った黒のストールを肩から外せば、まんま夏の格好と同じで恥ずかしいな……。


「そんな、夏の格好と変わりませんでしょ? ……ヒューイ様の方がよほどオシャレでお恥ずかしい」

「うぅん、ぼくも同じだよ。クルトワに見繕ってもらってるからね。なんかよそ行きの服だと着られてるって感じがして、嫌なんだけどね。でも大人っぽく見られた方がいいかな、と思って――あ、そうだ。向こうに美味しそうな料理がいっぱいあったよ? よかったら食べに行こうよ」

「ほんとですかっ!?」


 うは~っ、もう腹ぺこで胃と背中がくっつきそうになってたのよね! 行くいく~っ、とヒューイについて行こうとしたが、どっこいシャナンの腕にロックが掛かっててた。

 ……とと、危ね。あやうくシャナンもボギーも巻き込んでドミノ倒しになりそうだわ。


「悪いがその申し出はキャンセルだ。ウチの侍女は、色々と出歩かれると、困るんだ」

「……ふーん、それはキミの事情じゃないのかな。というか、なんでフレイがシャナン君と腕なんか組んでるの」

「だから、こっちにも事情があるってことだよ」

「あっそ。でも、少しぐらいは時間を取ってもいいでしょ。夏には色々と邪魔が入ってできなかったからぼくと踊って欲しいんだ」

「そんな時間はない」


 …………あの~、なんでこうバチバチと火花飛ばしてんすか、このおふたりさん。


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