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LV147

 新年明けから間もなく、私たちは故郷へと帰るジャンたちの見送りのため、長距離馬車の乗り合い場へとやってきた。

 ここには雑多な職業だったり、人種の人々に満ちているが、飾り付けされた街の浮ついた空気とは真逆に、乗り合い場はいっそ殺伐としてる。

 故郷に帰るのか、旅装に身を包んだ旅人は笑顔を浮かべているが、そんなのはごく少数。いかつい顔の商人は大荷物を大事に抱え込み、雇われ冒険者は背に抜身していた斧を見咎められて「せめて布をかけてくんな!」と、御者人とやりあっている。


「わざわざ見送りに来てもらって悪かったな」

「ふたりとも気を付けて帰れよ?」

「うん。皆も風邪をひかないでね」


 と、シャナンとヒューイが、旅行鞄を抱えてるジャンとニコラに交互に握手をしてる。そんな男同士の友情の雰囲気に、俺は少しく疎外感を感じますわ。せっかく見送りに来たのにね~。

 ふたりご実家の領主は、農民の教育に熱心でもないのか、ふたりには侍従を就けない、いわば侍従持ちではない貴族だ。なので、帰りの方向は途中まで同じだけれど、別れた後はひとりでの旅路になる。

 ……こいつらそそっかしいから、大事な妹たちのお金が盗まれないといいけど。

 と、色々と母親のような気持ちで心配になるが、優しい言葉をかける気はない。なにせ、私に備わってるのは、圧倒的なまでの父性……。

 盗賊にでも襲われたのならば、逆に族どもを捻り潰し、連中がためこんだお宝を奪ってみせよ! と、檄を飛ばすべきである。


「……てか、貴方まで見送りに来るなんて珍しいですね」

「フッ、気安く話しかけないでくれますか? 同じ侍従とはいえ、貴女と仲良くするつもりはございませんよ」


 傍らにて蝙蝠のようにすくっと立ってるクルトワは厭味っぽく言った。

 ……ま~だ私のことを毛嫌いしてるっぽいね。と、険悪に睨んだら、クルトワは悪びれるでもなく、当然です。と、微笑した。


「我が主に付き合う人間として、彼らも貴女もはっきり不合格でございます。本来ならば、半径一キロ以内へのお近づきを禁じたい所です」

「……わたしはストーカーですか。てか、そんなこと言うくせになんで来てんですかね?ヒューイを止めればいいでしょう。」

「本来なら、そうしたいと申しましたでしょ。しかし、主様から余計な邪魔をするな、と叱られた上、これ以上しつこくするなら、私が老後のために、とラングストン家からせっせと着服してきた蓄財を、当主様にバラすと脅され、仕方なく認めている次第です」

「……あっそ」


 ……その歳で老後を見据えて家の金を着服してるとか、いい根性してんな。

 てか、ラングストン家に投書すんぞ。


「ご安心ください。そのような不正の証拠は、着々と消していっております」

「だれもそんなこと心配してないんだが……」

「フッ、私も柔軟に考えることとしました。ヒューイ様が下の階級の方と親しむのは外聞が悪い。ですが、人生経験の上ではよろしいことです」

「…………」


 人の話を聞けよ。

 とは、死んだ魚のような目で、得意がるクルトワを眺めた。

 こいつ、妙に誇ってるぽいけど、よーするにバラされるのが怖いからヒューイに頭が上がらないってだけじゃねぇの。


「おや、人聞きの悪い。私がただ誠意あるお友達付き合い、を望んでるだけでございます。そこにある一線を越えなければオッケー……ただ、私が危惧いたすのは、貴女様が侍女としての領分を――」

「なに話してるのかな、クルトワ?」

「おや、ヒューイ様。お別れの挨拶はよろしいので……」

「出発しちゃったよ。ジャンたちが手を振ってくれてたのに、ふたりして話し込んで」

「え、マジ!?」


 うーわー、この阿呆侍従に構っとったせいで、なんてバットタイミング! ハンケチを振りきって、ウソ泣きしながら帰ってくるなよ! と、やりたかったのに……。

 ま、いっか。どーせ、数週間もたたずに帰ってくるんだから。


「それで、ふたりしてなにを話してたのかな?」

「我が主が気に病むことでございません。他愛のない……そう、お天気の話です」

「ほんとに?」


 ずいっと、ヒューイが能面のような笑顔で、クルトワに迫った。

 ……ちと、怖い雰囲気だな。

 普段、物腰がやわらかなヒューイが怒るって、なかなか威圧感がある。と、私はその剣幕に慄いていたら「僕らも行くぞ」とシャナンに袖を引かれた。

 え、クルトワはともかく、ヒューイも実家にしばらく帰るんだし、少しは別れを惜しむ時間を――


「いいから行くぞ」

「わっ、ちょ、ストールを引っ張るの止めてくださいよ!」


 ――ととっ、て引っ張られるに任せたら、後ろでクルトワの襟首を〆てたヒューイも雑踏に紛れて見えなくなっちゃった。強引だなぁ……そんな顔を合わせたくない程、嫌いあってるの。


「フン、あんなヤツの相手なんて時間の無駄だ。それより、父様や母様がもうトーマスさんのお屋敷に着いてるだろう」

「……到着予定日は今日でしたっけ」


 朝方早く、ボギーは迎えに行ってたよな。ボギーはおじいさん子だから、一刻も早くにお手紙が欲しいのかねぇ。私も早くに会いたいけど、そんな余裕がない程ではないけど、シャナンは意外にマザコンか?




 トーマス様のご実家のラザイエフ邸の門扉をくぐると、顔なじみになったメイドさんが「勇者様たちがご到着しております」と、にこりと教えられた。その案内をうけてトーマス様の自室へと入る。

 クライスさんにエリーゼ様! と、懐かしいそのお顔に、私は声掛けしようとした手を挙げた。が、その部屋の異様な雰囲気に、挙げた手を下ろした。

 腕組みしたエリーゼ様とボギー様が、まるで般若のような相貌をしており、勇者とトーマスさんが冷たい床にふたりして仲良く正座してる。

 ……なるほど。御取込み中でしたか。じゃあ、わたしはちょっとお花摘みに……。


「まぁ、久しぶりねフレイちゃんシャナン……貴方たちももそこにお座りなさい?」


 …………ハイ。




 ……床、ちべたいね。


「……なんで僕らまで、正座する羽目になるんですか」

「嘆くなシャナンよ。漢には黙って頭を下げる場面があるのだ」

「……なら女子のわたしは免除されていいでしょう……原因はシャナン様なのになんで、わたしまで」

「そーだそーだ。俺は被害者だぞ」

「いや、トーマス様は共犯でしょ!? 真なる被害者は単に巻き込まれただけのわたしであってですね――」

「……貴方たちはまだ反省し足りないの?」

「「「「反省してます!」」」」


 異口同音に告げた我々に、まったく、と、エリーゼ様が沈痛といった感じに頭を抱えた。


「初めから聞きましょう……なんでシャナンが姫様との結婚を持ち掛けられていたこと、ソレをわたしたちに黙っていたの?」


 エリーゼ様は眉根をしかめたまま、厳しい詰問口調で言った。

 問われた私たちは、罪人のごとくに暗い顔で互いの顔を見やると、一斉にトーマス様を指さした。が、当然のように「なんで俺が悪いんだよ!」と、トーマスさんは絶叫した。見苦しいですよ。勇者一味なら仲間をかばって裁きの鞭をひとりで受け止めてください。


「俺は良かれと思って色々と、立ち働いてたのに、なにこの仕打ちは! なんでまた俺が正座なんてしなくちゃなんねぇのよ!? 俺は天地神明に誓って、悪いことなん――」

「お黙りなさい!」

「……ハイ」


 しゅん、とした。

 弱い、弱すぎるぞトーマスさん……!


「わたしたちがなんで怒ってるのかわからないの? 大事なひとり息子が、陰謀に巻き込まれてるのに、それがひとりで蚊帳の外に置かれて」

「……エリーゼ様、それは、あたしも同じ気持ちです。あたしはシャナン様をお守りするために王都に来たのに。こんななにも知らされずに、信頼もされてないなんて……!」


 ぐすっ、と洟をすすりあげたボギーは、涙腺が緩んだように涙が溢れてきたのに、慈愛に満ちた眉根をさらに痛ましく歪め、エリーゼ様は、ボギーを慰めるよう胸にかき抱いた。そして、じとーっ、とこちらを責めるような目を……うっ、なんたる罪悪感。

 な、なんとか弁明しないと、私とボギーの関係が壊れてしまうわっ!


「ぼ、ボギー? わたしはべつにボギーを信頼してないワケじゃないのよ。ただでさえ、村とはてんで違う環境に置かれたのに、さらにストレスをかけるような、心配をさせたくなかったから、黙っていたの……ごめんなさい」

「…………」

「ボギー、僕からも謝るから機嫌を治してくれないか……僕なんかのために、不要なストレスを感じて欲しくなかっただけで」

「……不要なんかじゃございません。ここでは、あたしたちは主と侍女との関係なんです。なのに、不要だなんて言われたら、あたしの立つ瀬が、ありません!」


 キッ、とボギーが珍しくも、シャナンを睨むと、プイッと横を向いた。

 シャナンは驚いた目をして押し黙った。

 ……まぁ、ボギーってば、シャナンに甘いから、下手に出ればすーぐ機嫌を治してくれるのに。今回ばかりは病根が深いみたいね。

 失言したシャナンは押し黙って俯いたが、脇腹をトーマスさんとクライスさんが肘で、ついついと突っついてる……このダメ大人どもは。

 押し黙った我々に、エリーゼ様はハァ、と深々と溜息をついて「もういいわ。ともかく、これからのことを考えましょう。事態の大まかなことは聞かせて貰いますからね」と、申された。

 この期に及んで見栄を張るものもないので、これまでの事情をトーマスさんが代表をして語った。すると、すべての事情を訊き終えたエリーゼ様は、拍子抜けしたとばかりに含み笑った。


「嫌だわ皆。こんなことならば解決するなんて容易いことでしょ?」

「え、マジ、ですか?」

「えぇ、ほんとよ。というか、皆はどーしてこんな簡単なことに気付かないのよぉ」


 エリーゼ様がパチッと、その手を打ち合わせたのだが、その手がハートの形を象ったように垣間見えた。

 ……いや、これは目の錯覚です。てか、ほんとマジに錯覚ですから。こんな陰謀めいた話に、エリーゼ様が恋愛話を持ち出す余地などありません!?

 だからお願いだから「それはなんであろうか?」と、余計な相槌を入れるな勇者ー!?


「嫌だわ貴方! 決まってるでしょう。先に婚約相手をすればいいのよ!」

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