LV144
学院の並木もすっかり枯れ落ち、季節はすっかり冬模様。
正門から続く道も、色褪せた落ち葉の絨毯で埋め尽くされ、踏めばサクサク、と愉快な音がしてなんとも面白い。
けど「散らかってるのはエレガントさに欠けるのではないかしら」と、だれかの鶴の一声で、私たち侍従生徒が総出で片付けの掃除をした。
肌も裂けそうな寒空の下、授業をひとコマ潰してやることか。と、ブツクサ箒を抱えてきたものが、やってみれば仲良くなった寮生さんたちとワイワイと騒げて授業よりも楽しいね。
勇者プレゼントのストールを見せびらかしたら「え、勇者様から? いいなぁ」なんて、大いに羨ましがられたり、箒を槍にみたて「トーマス様直伝! 魔槍の舞い!」と、落ち葉を逆にまき散らしたりして、キャッキャと盛り上がった。
終わる頃には汗ばむほどに疲れたけど、こんもりと小山のような落ち葉が集まった。
いや、こんなの見たら、俄然喰いたくなるのは焼き芋だが、もちろんそんなアルミホイールもなければさつま芋も持ってなかったけどね。
断腸の思いでもって教室へと帰れば、我らの目が届かぬうちに、テオドアがシャナンとお話し中。いまの時間は自習ですよー。と、にこやかな笑顔に「殺す」と、書いて近寄れば、
「それじゃあまた後で……」
と、テオドアはひらひらと手を振って大人しく引き下がった。ケッ、ご苦労様のひと言もなしかい……腹が立つぜよ。
「……やけに素直に引き下がりましたね。ったく、掃除なんか思いついた言いだしっぺが、ぬくぬくと遊んでおってからに……!」
「落ち着きなさいよ。いつものことでしょ」
……ボギーたんはクールね。まぁ、テオドアがいつも通りってのは、その通りだもんね。我らが包囲網を軽々と突破して、飽きせずにシャナンに絡んでるとは。
「てか、疑問なんですけど、テオドア……様っていつもなんの話をしてらっしゃるの?」
「……なんの、といってもまぁ普通だよ」
素っ気なく言うけど、こちとらその普通がわかんないってば。
あちらは生粋のエレガント貴族様だから、こちらの常識とはかけ離れてるでしょう。なのに、事ある度に時間を見つけては絡んできて、よく話題も尽きないなぁ。と、感心するのだわ。
「だから、普通に女子が好むような話題だって。どこそこの料理店が美味しかった、とか。こんな服を着たいけど、どうか? とか、後は劇を見に行ったのがよかった。ってね」
「へー」
意外だ。めっちゃ、普通の女子じゃん。
てっきり「ワタクシのご実家にはペットドラゴンが何匹もいらっしゃるのよ。よろしかったら経験値狩りに来てくださいませ?」とかじゃないんだね。
「……どういう、実家だよソレは」
「いえ、そういう魔物がいたら、シャナン様を家に引き込む格好の材料かと思いまして」
「僕は戦闘狂いじゃない!」
本当ですかぁ?
……ドラゴンいたら狩りに行きそうだから、油断ならんのだけど。
てか、気を付けてくださいよ。いくら振りまく話題が女子っぽいからって、相手は魔女みたいなものだ。うっかり「へー、劇ってどんな感じ?」と、お愛想をしたが最後、あら、興味がおありなのね、それでしたら今度はワタクシと一緒に――と、やるに決まってんだから!
「誘われても断る。愛想もしない……常在戦場の心持でいること。わかってますよね?」
「わ、わかった」
私とボギーがずいっ、と迫ればシャナンは目を逸らしつつ頷いた。
よろしい。
放課後、私らはボギーと連れたって図書室へと向かえば、そこにはすでに姫様たちが待っておられた。
クリス様は本から顔を上げると、まるで雪うさぎのように愛らしい姿だ。
モコモコとしたファー付きのストールを首に巻き、本の頁を繰る手にホワイトカラーな手袋をしてる。隣のアルマも、ワインレッドなストールを巻いてる……やっぱ、ストールを巻いてる女子は可愛らしい。
「ごきげんようフレイ様。今日は朝から大掃除でタイヘンでしたね」
「いえいえ、校舎周りだけですから楽々ですよ。ま、公園までやれって、命じられたんならわたしは早退してましたけど」
「……ですね~、アルマもタイヘンでしたよぉ」
なんて萎れるアルマに「ご苦労様」と、姫様はクスッ、と笑った。そして、姫様は傍らに置いてあった取ってつきのバスケットを机に置いた。ぬっ、これは?
「フレイ様が誕生日だと聞いて、詰まらない物ですが、受け取ってください」
「わ、いいんですか」
いやー、嬉しい! こんな鍵までついたバスケットを頂けるの? しかもなかには雪の結晶模様のランチョンマットが入ってる! ……これはいい物だ。もしや、これで一緒にランチしましょうってことです? 嬉しいなぁ、光栄です!
「ありがとうございます。姫様!」
「ふふっ、喜んでいただけて嬉しいですわ。アルマと頭を悩ませた甲斐があります」
「えへへ、フレイ様は食事関係の物なら、なーんでも喜んでくれますよね」
「ねー、食べられるものに関係してないと、逆に喜んでくれないから……詰まらない本とか論外だって」
……根に持っておられるのねボギーたん。
い、いや、悪かったってバッ! でもちょっと、バイトするのは思い直した方がいいって! あの後、ボギーは寮を飛び出した後、フッフーンと得意げに帰ってきたと思ったら、ななんとその足でトーマスさんの面接を受けたとか。
……その行動力が、恐ろしい!?
てか、あんないかがわしい商家の主のとこで働くなんて、大丈夫なの!?
と、フレイお姉ちゃんとして心配をしたのに、ツーンと横を向いちゃって「フレイにおこづかい貰うよりマシですー」って、私の評判がトーマスさんよりも低いことに動悸が起きそうな程のショックだった。
「へー、ボギー様がバイトでございますですか? ……大丈夫なのですかソレ。お店の方に迷惑が――」
「……はぁ、どういう意味?」
「いぃっ!? いえ、その~、ボギー様はその~、おっちょこちょいというか、間が抜けてるというかですね、あ、そこが愛らしいって感じに思えるんですけども」
「…………アルマ。あたしに喧嘩売ってる?」
「ちち、違いますですよぉ!? た、ただ私はお店に重大な損害がっ」
「アルマ~!」
……アルマ。その迂闊な口を閉じた方がいいって。弁解するたび、盛大に滑らせっから。と、私は心中で、忠告を申し上げた次第だがもちろん、そんなかい空しくアルマはボギーたんに、詰められている。
……迂闊だな、アルマ。
ドジッ娘やーい、と刺激して、怒られるドジッ娘っていう、図式もさることながら正直にすべてを口に出しちゃうアルマの純朴さ。そして盛大に泳ぐ目。
それに「……俺もこんな正直な時代があったな」と、遠い過去の甘酸っぱい感傷と、なつかしさについ微笑みがわいてきたが、しかし、よくよく考えてみたら事の発端は私が正直に誕生日プレゼントがイケてな~い、とボギー様を怒らせたせいなのだからして、遠い過去どころか絶賛、俺の時代中だった。
私はそっと暖かな笑顔を消した。
その後、クリス様と一緒になって、ボギー様のご機嫌を取ったらなんとか機嫌を治していただけた「ガンバルからね!」と、得意げにしてるその笑顔に、私も姫様もなんも言えずに微妙な顔をして、お互いに見合った。
……これはやはりトーマスさんの商売のためにも、話をつけにいかないと、マズイかもしんね。




