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LV142

 和やかに挨拶をかわしていたトーマスさんだったが、普段のおどけた態度はなりを潜め、お客もそっちのけで、シャナンに耳打ちで「負けんなよ、オイッ!」と叱咤を飛ばしておられる。

 負けんなって、剣術テストで負けたことでも話してんのかね? ヒューイは女子みたいに、可愛い見た目でもお強いんですのよ。

 目の前のお客さんを放り出してる、礼儀のなってない商家の主に成り代わり、皆さんへと茶の接待をしていたら、話しがひと段落したのかトーマスさんは、ムッツリと不機嫌顔のシャナンの頭を軽く小突いた。


「ンッ、あ~、待たせて悪かったね、そだ。キミらも下の店の様子、気になってんでしょ。良かったらこれから俺が案内するよ」

「ホントに?」

「やった。ようやく終わりよ!」


 革張りの高級そうなカウチにだらけきっていたジャンたちもうひょっ、と歓喜して重い腰を上げた。



 下の店舗に赴けば、様々な魔道具――アーティファクトや、反物から織物に宝飾品や、ガラス製のグラスに絨毯、と、雑多な商品に溢れており、キレイなお姉さんが「こんにちわ」と、にっこりとやわらかな接客態度も満点評価だ。

 が、肝心の陳列されてるお品は、買い付け人の個性が爆発した感じで、商品の使い道がよくわかんね。

 見るからに怪しい雰囲気の占い盤があったり、総じれば他国からの貿易品ってことでしょうが、一見しても使途不明な品物ばっかで統一感がない。

 てか、他の皆も「なんじゃこりゃ!」って、顔を引っ提げているので、私の感性が、というよりこのお店がおかしいのだろう。


「……ここには詐欺目的に使うための商品が陳列されてるんですか?」

「人聞き悪いなぁ! ここは我がトーマス商会の本店で、いかがわしい物はひとつとしてないのよ!」


 ほんとですかソレ?

 ……まぁ、購入した人が満足してればいいけど。

 アーティファクトコーナーを足早に済ませようと思ったが、シャナンは趣味が合うのか、やけに熱心に見入っておられる。やはり、男子はいかがわしい品物に興味津々か。

 質実剛健を是とする私には、日常生活で使えない品物など目に入りませんわね。


「やけに熱心ですね。シャナン様もなにかお目当ての品物があるんですの?」

「……なんでも品物が収納できる、って魔法の鞄があるだろ。ソレだ」

「おぉ! 冒険者が垂涎の例のブツですか!?」


 それは私も拝見したいけど……あるのこんな店に?


「ちゃんとあるよ! てか、俺も愛用してんの知ってんでしょうが!」

「でしたね。さすがはセレブ……で、お値段は?」

「ンー、金貨一万枚はかかるけど、いまならお友達価格で半額にしてあげるけど」

「さて、他の物はないかなぁ」


 高額商品には、安定のスルー力を発揮しつつ、雑多な品をひやかして回る。

「なにこれ~?」と、ボギーは目の前にぶら下がってる鈴を突いていたら、トーマスさんは訳知り顔で「それは魔物避けの力が込められた鈴で、音を鳴らすと魔物が逃げてくって品」と、説明してくれた。

 ……それ、なんてクマ避けの鈴?

 しかし、惜しいな。テオドアにも効果バツグンなら金貨100枚でも買いますけど、人族には効かないっすよね。無念。


「あの、手袋とかは売ってないんですか」

「それなら奥の方に数点あったかな。ねぇ、女子用の探してきてあげて」


 お店のお姉さんに頷けば、彼女はすぐさま奥から品物を取ってきてくれた。

 ヒューイは、ハチミツ色のレザーの品を手にすると、試す眇めつすると、うん、と頷きこちらに「試着してみなよ」と、手渡してくれた。

 ……わっ、革もよくなめしてあって手触りがいいな。しかもなかにもモコモコの毛皮がついて暖かい。


「気に入ったんなら、これでいいかな?」

「えぇ……あの、本当にわたしにプレゼントしてくれるんですか?」

「うん、ぼくはキミに受け取って欲しい」


 うわ~、有難いなぁ。軽い冗談かと思ったら、ヒューイってば本当に誕生日プレゼントくれるのか……いや、胸が感激でいっぱいよ。


「……ありがとうございます。大事にしますね」


 えへへっ、と笑いつ、ヒューイにお辞儀したら「気にしないで」と、にこにこしてる。……つーか、さっきから後ろで舌打ちが聞こえるが、だれよ、いったい?


「……あーっ、と、ヒューイが贈るんだったから、オレたちからも贈んなきゃなぁシャナン君?」

「……た、たしかこのお店にはストールが有名だっ、けな」

「……ソウソウ!」


 ジャンが殊勝なことを言ったと思ったら、ニコラがぎこちなく頷いて居る……三人とも異国風なこの店の雰囲気に当てられでもしたのか片言になってんよ?

 店員のお姉さんも、クスクス笑いをかみ殺しつつ、ストールを持ってきてくれる。なんだか、恥ずかしいなぁ……。


「てか、くれるっていうけど、本当にいいんですか。ジャンも二コラも貧乏なのに。逆に集ってるようで、申しわけが……」

「いいから、選べ……誕生日なんだから、それぐらい、その贈るってことだ」


 なぜかシャナンがぶっきらぼうにまとめた。いや、いまいちまとまってないんだけどさ。……でも、そう言うんならお言葉に甘えましょうか。

 さぁて。どれがいいっすかね、学院でのファッションリーダーを目指して柄で選ぶのか、それとも温たか素材で選ぶか……迷いどこだなぁ。


「……う~ぬ」

「なにを迷ってるんだよ」

「いえ、こっちの手通しのケープストールか、こっちのウールか迷いどこで……」

「フレイは赤のウールが似合うかもよ?」


 ヒューイがひょいっ、と私の首に巻いてくれた。あら、そうかしらん? と、小首を傾げて聞けば、不機嫌なシャナンが声の「おい」と、かかった。


「なんでオマエが選んでるんだよ? 僕らのプレゼントだろうがっ!」

「え? べつにフレイが意見を聞きたいっていうから、参考になればと思って」

「口出し無用だっての!」


 ま、まぁまあそんな噛みつかないで、落ち着いて……。


「じゃ、じゃあ、シャナン様はどちらがいいと思います?」

「…………これがいい」


 と、シャナンは黒一色のケープストールを手に取った。

 ……これっすか。手通しで暖かそうだけど、女子に薦めるには、なんかファッション性に欠けすぎやしない、これ?

 まぁ、いっかな。よくよく考えれば、ボギー様に身なりを整えて貰っている私風情が、ファッションリーダーを目指す! なんて、片腹痛しでござる。


「じゃあこれにしましょ!」


 と、私が手にしたら、ヒューイは「えぇ?」と、呻いたが、シャナンは深々と頷いた。

 にゃはっ! やっぱ、羽織ってみたら暖っけぇ! 手袋と良い、ストールといいこれで冬の寒さも完全防備っすね!


「フレイはソレか。じゃボギーはどうする?」

「へ、あ、あたしも、貰えるんですか!?」

「……こっちはジャンからの贈り物だ」

「ちょ、おまっ!?」


 ガバッ、と顔を上げたジャンは騒々しくシャナンの襟首を掴みかかっておられる。

 なに喧嘩してんよもう、営業妨害ですよ。



 眼を輝かせたボギーが選んだのは私と同じの色違いの白だ。やっぱファッション性より、すぐに着れるの選んだみたね。姿見を前にニコニコして「ありがとうございます!」と、シャナンたちにお礼を言ってるのは愛らしいと思える。

 だが、ジャンのにやけ面がやけに、デレデレしてんだが……まっさか、なぁ?

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