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LV138

 朝の通学路はギスギス具合の余波なのか、学院についてからボギーの機嫌が急に斜め下を向いた。

 いち早くそれを察した私は、トイレに逃れようとしたのだが、いいから顔貸しなさい。と廊下の端っこに呼び出され「少しは常識的に考えなさいよね」と腕を組まれてのお説教。……いや、どうしてあのふたりの諍いが、私にまで飛び火するのよ。

 常識、常識、言うけど、それが一番欠けてるのはあのふたりだよねぇ。だってだって、人ん家の前にやってきて、顔を合わすたびにキャンキャン喧嘩するのよ。

 相性が悪すぎるのは、私のせいじゃないって感じ? だから怒るんなら、私じゃなくあのふたりの非常識へ向かってどーぞ。

 などと、いう不満をおくびにも出せず、ボギー様にペコペコ謝り倒す私はチキン野郎でございます。


「いい? あたしたちが学院にいるのはお仕事なの。シャナン様がつつがなく過ごせるようにって。なのにそのあたしたちが、シャナン様にストレスを与えていたとしたら、本末転倒でしょうが」

「……わかってますってば」

「ホントに?」

「ですです!」


 と、アルマのモノマネをしてみたら、ボギー様の鋭い瞳に射抜かれた。

 ……すみません。ちょっとした出来心でした。そんな凄まないでください。

 私は恭順の意を示して、平謝りに徹したら、しばらくはブツブツとお小言の盛り合わせを頂いたが、矛を収めてくれた。

 ……助かった。いや、でもこちとら、ボギーの知らない所では、姫様の婚姻話しやテオドアの厭味やちょっかいにも対抗してるんだからね!




 ――そしてホームルーム後の休み時間後、モーティス教諭から「テスト結果が掲示板に張り出されるので、ご覧ください」と、教えられて、私たちはシャナンとボギーと三人で、一階の廊下へと見に行った。

 張り出された順位表を前に、ガッツポーズをしたり、頭を抱えたり、と悲喜こもごもな生徒たちで賑わっている。

 どれどれ、私の順位は……

 フッ、安定の47位。つまり、侍従内ではまたトップですか。

 やれやれ、我が才能の片鱗が、こんな所で露わになっちゃったかぁ。能ある鷹は爪隠すというけど、ちょっと私の才能があり余りすぎて、上手に隠しきれなかったわ。オーホッホッホッホ!


「50位……またフレイに負けた……やっぱ、剣術テストで勝たないとダメなのかな」

「フッ、挑戦を待ってますよボギーさん?」

「チッ」


 ……黙って舌打ちするのは、お行儀がよろしくないわよ?

 さて、さて。シャナン様はどうだろう。上の方から見下ろしていけば、名前を捜すのは近いかな。って、あ! 姫様が1位じゃないの。凄い! で、次はヒューイで……シャナン様は3位ですか。うわぁ以外!?

 1位を張ってた、勇者の地位が陥落ですか!


「……ま、しょうがないな。剣術テストで負けたのが響いたんだろう」

「え、シャナン様も?」


 ……チャンバラの結果でこんなにも左右されるんじゃ、学力テストの意味なくね?

 まぁ、このテストは厳密に”貴族として相応しい”という素養を測るってだけだから、元から学力テストではないんだけれども。

 他に見知った名前を捜していけば、アルマは52位。テオドアが12位と順位はやや高め。さらに下を見れば、二コラは25位と無難にキープしたが、そこからはるかに滑り落ち45位と、私と肉薄した所にジャンの名前が……。

 ……やはり、残念な頭なのね。と、ジャンの姿を捜していたら、ふと、後ろの人垣が割れて、そこからクリス様が現れた。おぉ、疲弊した我が心に一服の清涼剤がここに!

「ごきげんよう、クリス様」と、私は先んじて挨拶をすると「あら、フレイ様。ごきげんよう」と、たおやかな笑顔で返していただいた。


「シャナン様も、ごきげんよう。テストの結果は、如何でしたか?」

「惜しくも抜かれましたけど、順当だと思います」


 と、シャナンは外面よく控えめに言った。

 ぬふふっ、それもそっか。今日の主役は姫様でございますものねー。


「クリス様おめでとうございます。順位表の上をごらんくださいませ」

「そう?」


 と、姫様が小首を傾げると、目をパチクリさせ「1位? ワタシが!?」と、驚かれた。それに、周りの生徒らが「姫様おめでとうございます」「スバラシイ、さすが姫様!」と、パチパチパチ、と拍手が巻き起こった。

 それにクリス様は「ありがとう」会釈をしていたが、なかなか鳴りやまない賛辞の声に、私の手を取ると、静かなとこへ行きましょ。と、我々を廊下から静かな中庭にまで引っ張られた。


「ハァ、ほんとに驚きましたわ」


 と、クリス様は赤くなった頬を手で抑えておられる。いやいや、そんなに照れなくてもよろしいのに。


「姫様の努力の結果でございます。誇ってもよろしいことですよ」

「ありがとう……でも、祝福されるのは驚きますわ。それに、ワタシはフレイ様やシャナン様のように剣術のテストを受けてないのに、あんな上位にいていいのかしら?」

「べつに気に病むことじゃありませんよ。トップに立つには他のテストも均等に良くなければ無理なんですからね」


 珍しくシャナンが良いこと言った!

 クリス様はニッコリとして「ありがとう。でも、ローウェル家の方々は、皆さんとも優秀なのね」と、お褒めの言葉までいただいた。げへへ、これは照れますなぁ。


「あぁ、そういえば。先日は誕生日の菓子をありがとうございました。お母様もタイヘン喜んでおりましたわ」

「そうですか。こちらこそタイヘン光栄でございます」

「フフッ、でも「フレイがどうして帰ったのだ」と、お母様はお怒りでしたけどね」

「……はは」


 …………やはり、無断で逃げ帰ったのはマズったかしらん。

 いやしかし、顔を見せていたら、また詮索をされたり厄介事を押し付けられるのは必定。だから、なるたけ会う機会を設けぬよう務めるのが一番ですよね。うん。

 それでは、と私たちは会釈をして別れると、そのまま教室へと戻った。そして、私は次の授業に備えようと、引き出しをまさぐったら一枚の封筒が出てきた。

 ……なんだ、こりゃ。と、中身をあらためると、それは――ラブレターだった。

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