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LV135

 ようやく剣術テストの結果が出たのは、日も落ちた夕方のこと。

 真っ赤な日没に追い立てられるように、訓練場には慌ただしく仮説の表彰台が設えられ、集まった全校生徒を前に、学年毎の優勝者の名を呼び上げられている。


「それでは、一回生の部男子優勝者――ヒューイ・ラングストン!」

「は、ハイ」


 カチコチに緊張しまくったヒューイが、表彰台の段差に踏み外してこけた。

 ドッ、と生徒たちがわくと、ヒューイは照れたように頭に手をやり、師範から首にかけられたメダルを大事そうに両手に包んでる。その姿に、パチパチ、と拍手が贈られる。


「ヒューイ、様だったっけ……ほんとにあんな大人しそうな顔で、勇者様に勝ったよね」

「ねぇ。よく見たらカワイイ感じなのに」

「ワタシもそう思う! ……ヒューイ様って、結構いいかも?」

「なに? 貴女ってシャナン様贔屓じゃなかったの」

「勇者様が素敵なのはそうだけど。相手がテオドア様や姫様だと、ねぇ。現実的にはヒューイ様の方が――」


 ……なんだか、ヒューイが一躍有名になったせいなんか、キャッキャと周りの女子たちもテンションが高いな。

 確かに「カワイくて強い」って、ギャップに女子はイチコロなのかもしらないが、それなら、私も同じようにキャワイクて強いはずなんだが、また女子への表彰は省かれていて、私の名前が出ることすらないし賞賛もされやしない。

 なんなのこの理不尽!

 メラメラと恨みの炎を燃やしつつ、拍手をしてたら肩を落としたボギーが戻ってきた。あ、どうでした、シャナンの様子?


「……わかんない。すぐにどこかに行っちゃって、声をかけられもできなかった」

「そう」


 まぁ、シャナンだったら、落ち込むことがあっても引きずらないから、放っておいても大丈夫でしょう。

 ……でも、また突飛なことしでかさないともわからないから、目が離せないんだが。


「しっかしヒューイのやつあんな強かったとはなー。てんで見かけに似合わねぇよ」

「ぼくらが毎日稽古しててもシャナンに敵わないのに……」


 それ以上、か。と、どんよりとした呟きが、絶望のほどを物語ってる……その気持ち、私も大いに共感いたしますわ。

 噂をすれば影が差すとやらか、はにかんだ笑顔のヒューイがやってきた。その後ろにはおまけのように、ざーとらしくハンケチで目尻を抑えてるクルトワまでもいる。

 私たちはそれをシカトして「おめでとう」と、優勝を労うと照れたように襟足に手をやった。


「皆ありがとう……後、フレイもおめでとう。女子の部の優勝してこれで二冠でしょ?」

「えぇ、だぁれも褒めてくれませんけどね」

「女子を虐めてるだけだし、当然だろ?」


 んだと! 一回戦で負けたヤツのどの口が言うかねッ!?

 私がジャンを睨んでたら、ヒューイはキョロキョロと辺りを見回した。ひょっとして、シャナンのことが気になるの?


「あ、うん。落ち込んでたように見えたから、気になって……」

「そんな、ヒューイが気にしないでも大丈夫ですよ」

「そうです! シャナン様は、そんな一回負けたぐらいで気落ちなんかしませんから!」


 と、ボギーがムンッと胸を張って答えると、ヒューイは少し目を瞠って「そうだね」と、頷いた。

 ……けど、ボギーたん、睨みながら唸るのは止めてあげて。ヒューイも額に青筋を立ててタジタジって身を引いてるから。


「でも凄いよヒューイは、あのシャナンに勝つんだぜ。オレまだ信じられないよ」

「……いや、そんな。ただ運が良かっただけで、彼が足を滑らせなかったら、真逆の結果になってたよ」

「運も含めて強いってことだよ……ほら、周りの女子たちもヒューイに注目してるし」


 ニコラが最後の方を声を落とし目にした。

 ヒューイってば何気に伯爵家の人間だし、このイケメンで武術も強いともなれば、俄然女子から注目されるでしょう……羨ましい。

 ン、でもそう考えれば、これはこれで良いことだわ。シャナンへのアプローチが減れば私の苦悩も軽減されるんだもの。ヒューイの活躍には益々もって、期待したい。


「良かったですね。ヒューイはこれからきっとモテますよ~」

「……え、ぼくはそんなモテたくなんて――」

「またまたぁ。男の子なら女子にチヤホヤされて、嬉しくないわけないでしょう?」

「そ、そんなこと!」


 少し揶揄っただけなのに、ヒューイの顔がすでに真っ赤だ。この年頃だったら、だれもそう思うことだし、恥ずかしがらなくてもいいのに。と、笑っていたら「ねぇ!」と、興奮気味のエミリア嬢が、向こうから走ってきて、ランランとした目でヒューイの首に手を絡ませた。


「ちょ、な、なにキミは!?」

「ヒューイ・ラングストン、だよね。ボクはエミリア・ハミルトンっていうの。ねえねえ、さっきの試合、凄かったよ! バーッて、あの剣捌き! キミって流派はどこに属してるワケ!?」

「きゅ、急になんなのキミは!?」


 矢継ぎ早にまくしたてるエミリアに、抱き付かれたヒューイは眼を白黒させきょどった。ほら~、言った傍からモテモテじゃないの。

 ウシシッ、と含み笑っていたこちらを見ると、ヒューイは慌ただしい仕草で、エミリアの手を外そうともがいてる。


「……ちょっとなに見てんの? ボクはヒューイと話すんだからキミらあっち行ってよ」

「ハイハイ」


「ひぃ」と呻くヒューイに、エミリアは頬すりをしながらその猫目を唇を尖らして言った。

ハイハイ、悪うございましたね。ふたりの邪魔をする程、私も野暮じゃないよ。寮に帰るから。お達者で~。と、手を振った。

 なにか、ヒューイは声を枯らしるけど、モテ男の戯言など、聞くに堪えませんよ。




 テスト期間が終了をして、重圧からの解放感に浸りたかったが、ボギーには他の心配のタネが出来てしまった。

 昨夜、帰ってからも「大丈夫かな、シャナン様……」と、眉根を寄せて心配してたが、翌朝になってもまだ気掛かりらしい。

 私がのろのろと、朝稽古の出支度をしてると、手早く着替えたボギーは玄関に出てきて「ほら、行くわよ!」と、稽古にまでついて来るつもりっぽい。


「……そんなに心配しないでも。昨日ヒューイにまで強がってたんじゃないのよ」

「それはそうだけど。でも気になるの!」


 と、ガンと譲らない様子で靴をつっかけて、先に行くから。と寮の外まで出てった。

 ……ちょっと、待ってよ! と、私も後に続いた。

 こりゃ相当気掛かりだったのかな。まぁ、ボギーが心配になる気持ちのはわかるけどね。シャナンって、負けたことなんて数える程もないだろうし、口惜しさの処理方法なんての知らなそうだから。

 いや、べつに私は心配なんてしてませんけどね。ただ、ボギーの気持ちが落ちたり、また前みたいに無茶されたら、困るってだけだから。前の枕をされたお礼程度は、返してあげるのも、やぶさかではないってだけです。

 ボギーの後に小走りで赴けば、シャナンは公園待ちくたびれたように木剣を片手に素振りしていた。


「おはようございます、シャナン様!」

「あぁ、おはよう……ボギーも一緒なんて珍しいな。なにか僕に話でもあったのかな?」

「い、いえ、ちょっとフレイの散歩に」

「犬じゃねぇからっ!?」


 いい加減、ペット扱いはヤメレっ! と、激しくかみついたのだが、ボギーはスルーして照れ照れ、と両手指をもじもじしてる。

 ……まったく、シャナン様の様子が気がかりで、なんにも手につかない~、って、素直に言えばよろしいのに。

 てか、シャナンのやつも思ったよか元気そうだね「ふたりとも寒くないか?」と、落ち込んだような素振りもなく、やけに優しい。それにボギーはホッとしたのか、嬉しそうに白い息を弾ませて頷いた。

 それに満足したのか「あ、あたしも瞑想をしないと」と、ペコリと、頭を下げて寮へと走って行った。


「いや、落ち込んでなくて安心しました。なんでしたら膝枕ぐらいしてあげよっかな~、なんてボギーと相談してたのに」

「……い、いるかそんなの!」


 と、シャナンはソッポを向いた。あ、そう? でも、ほんと落ち込んでないみたいだし、よかったわぁ。


「べつに、落ち込むなんて、敗因はわかってるから改善につとめるだけだよ。あれは冷静さを欠いたことと、無理をして足を滑らせたのが悪かった。後もう少しだけ剣の長さがあれば、二段突きでの当たりが向こうの腹に当たってはずだ。それに加えて、やつの短所を見抜けなかったことにある。それというのも、やつはカウンターを狙ってるのが明白なのに――」

「……いや、もういいですって」


 敗因分析を聞かさないでも。てか、昨日から延々とそのことばっか考えてやしない?

 これは相当に悔しかったみたいですな。

 ジャンや二コラの姿が見えませんが、と聞けば筋肉痛で寝込んでるそうだ。

 ……だからダメなんだよ。あのふたり。


「まぁ、ヒューイがあれほどに強いなんて、思いもしませんでしたよ。ふたりとも自信がなくしたのかしらん?」

「あのふたりはべつに強さなんて求めてもないからな。むしろ、お金が欲しいって、切実に考えてるよ」

「まだ妹さんたちの制服代金が貯まらないのですね」


 前に、なんとか工面できないかな、って頭を悩ませていたから、私が辺境伯からパクッてきちゃったお金を融通してあげようか。と、申し出たんだけど、トーマスさんには逆に「そんなのダメ! 君はなんでもかんでも口を出し過ぎ!」とか、怒られちった。

 おかげでジャンも二コラも、休日にはトーマスさん家のご実家で安全な仕事に精を出してるっぽいんだけどね。


「そう。人それぞれ、剣以外のことで勝負をしてるんだ。勝っても負けてもそれは時の運。ヒューイに剣で負けたって、僕は最後に負けなければ、それでいいんだから」


 そうそう、その意気ですって。

 ……ン? てか最後に負けなければってなんのことっすか?

 と、私が怪訝に目顔をして聞いてみたら、シャナンは含み笑った笑顔をして「なんでもないよ」と、肩に木剣を担いで、背を向けた。

 ちょっと、なによその意味深な台詞! 気になるじゃないか、私に教えてくださいよ!

って、私が両手を突き出してシャナンの顔を見ようともしたが、「ダーメだ」と、呑気にも視線を合わそうともしない。

 ……まったく、人が心配したらこんな調子ではぐらかしちゃって。

 てか、心配なんぞしてないっての!

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