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LV132

「えっと……王国に貢献した騎士の名を、赤薔薇、白薔薇、とそれぞれの勲章を授かった者たちを書きなさい――って、こんなんわかるかーっ!?」

「……フレイ、図書室では静かにしなさい」

「へ~い」

「ハイ、でしょう!」


 と、ボギーが怒り顔をして叫んだが、不意に「あ」という風に口を押さえて、睨まれた周りの生徒たちに身を縮めた。そして、ボギーは頬を染めて唇を尖らすと「もう、フレイのせいで恥かいた」と、小声になって怒られた……それ、私のせいなん?



 秋も深まり乾燥した空気の中に、そこはかとなく冬の気配を感じる。こうなると否が応でも、麗しの冬休みが近づくのに、キャッキャと胸を躍らせるものがあるのだが、その前にはテストという名の壁を乗り越えねばならない。

 私たちは教科書と筆記具を携え、埃っぽい図書室に押し寄せたのだが、同じように自習をしようとする生徒たちでごった返してる。

 なにも、こんなに集まらんでも。とは思うが、きっと自室にこもってたら遊びの誘惑に負けてしまうんだろうね。

 ……俺も、苦手な暗記物と対すると、ついボギーと話し混んじゃうもの。


「……えっと、赤薔薇はヴィオラ・カランドロ氏でいっか、白薔薇はなんだっけ?」

「フィデロ・メルローズ。アルドゥス・ハーディング……とか、色々いるだろ」

「うわ、シャナン様ってばさらっと出るんですね」

「当然だ」

「そうだね。でも、名前だけ暗記して喜んでたらダメだよ。冬のテストだと、その故人が残した業績も併記しないと、加点されならないからね」

「ソレ本当?」

「本当」

「……おい」

「ン? なに」

「……オマエは勝手になじんでるんだよ、ヒューイ・ラングストン!」

「え?」


 シャナンが険しい顔でそう突っ込むと、ヒューイは目を丸くした。


「なんで、って、ほら、苦手な教科を教え合った方が、実りは多いかなって思って」

「……僕はキミの助けなんて求めちゃいないぞ」

「あぁ、わかってるよ。でもフレイは暗記が苦手なんでしょ。だからぼくが教えてあげたら捗るかなって」

「……そんな手助けは要らないよ。自分の勉強をちゃんとやった方がいい」

「連れないこと言わないでよ」


 と、ヒューイはにっこりと笑ったのに、シャナンは邪険そうに顔をしかめている。

 ……やっぱこのふたり相性悪いな。

 この勉強会を企画したのはシャナンや、ボギー、ジャン、ニコラ。といったおなじみの面々に加えて、ヒューイまでついて来たのは、放課後にバッタリ出会ったからだ。

 その際にも「オマエは、ついてくるな」と、野良犬を相手にするようにシャナンは邪険に扱っていたのだが、ヒューイの方はどこ吹く風とばかりに、ジャンや二コラとも挨拶をしあって勝手に仲良くなってる。


「ふたりともいがみ合うなら後にしてくださいませ。時間は有限なんですよ」

「フレイの言う通りだぜ。なぁなぁ、手助けならオレの国語を教えてくれよ。この文法なんだけど――」

「あぁ、どれどれ」


 って、ジャンにノートを押し付けられたヒューイは答えを教えてるが、シャナンはケッ、という風に顔を背けた。

 ……喧嘩の仲裁も楽じゃないね。

 しっかし、この面倒なテスト期間は始まったばっかりだ。筆記以外にも、剣術テストに、ミランダ女史の授業も採点されるっていうから、気を抜く暇もないぐらい忙しい。

 ンでも、貴族様は学業で順位を決めるなんて、粗忽な振る舞いは好まず、テスト前にやきもきしてなんていない。すでに身分差の序列が付いているので不要だと思ってんだろう。


 テスト間近で、自習に励む侍従たちでも官吏に進む生徒は法理、騎士になりたいと思う

生徒は剣術――と、それぞれが、すでに進む方向に特化した勉強しかしておらず、図書室にこもる生徒とは逆に、訓練所で剣を振う生徒。って形に別れている。


 私はそんな頭でっかちでも、剣術狂いでもないんで、貴族様のように、のほほんとしたいものだが、しかし、陛下の宝剣に相応しいと認められなければ、その首元がお寒くなるので、大人しくがり勉に励むしかない。


「だぁー! もう、わっかんねぇー!?」

「……ちょっとジャン。迷惑だから静かにしなよ」


 顔をノートに突っ伏して頭をガリガリやるジャンに、ニコラが迷惑そうにペンで突っついた。


「痛てぇよ、ソレ! ……ったく、どうしてオレだって同じ勉強してんだってのに、シャナンとこーんな差がつくんだよ、おかしいだろ!」

「……そりゃ頭の出来が、ねぇ」

「あぁん?! そういうフレイこそ何位だってんだよ!?」

「ですねぇ。わたしも、40番をキープするのがやっとでございますから」

「…………こいつ、侍従でトップだったか」


 ジャンが失望も露わに事切れた……フッ。ジャンとは肉薄しそうな成績ですが、いや~、いくら頑張ってもジャン様を追い越すことができないのよねぇ。残念~。


「それ厭味かっ! えぇ、オレに対する盛大な挑戦だなおいっ!?」

「まぁまぁ落ち着いて……ジャン様は成績なんて、他の貴族様とは違う意味で気~にしてないでしょう。そんないきり立たないでもいいでしょうが」

「そうもいかねぇんだよ! 世の中には通知表っていう、嫌な物があってだな……」

「情けない成績で実家に帰れない。だって」


 なるほどな~。

 冬休み前のテストには本気で当たらざるを得ない理由があったとは。道理で普段のテストだと貴族の姿はろくにないのに、今回バッカリは多いワケだ。

「……もういい! オレは剣術に賭けた! これだけは自信があっからな」と、ジャンはすっかり息巻いてるけど、でも一回戦でシャナンにあたったら、目も当てられない成績になりますよ?


「現実逃避されてる方は置いておいて、今日はこの辺で終わりにしましょうかぁ。ふー、暗記も楽じゃないわぁ……」

「そうねぇ。試験日は明日だし、いま覚えたのを忘れないよう後で予習しとこ」


 トントン、と教科書を片してボギーはそう言った。

 ……そうか。今日は一夜漬けだね。


「シャナン様の調子はどうです? また一位を取れそうですか?」

「……まぁな」


 と、ヒューイをチラ見した。あぁ、ライバルの動向次第ってワケ?


「あ、そうだ。ねぇもし良かったら、テスト終わりに皆でぼくの屋敷に――」

「却下だ」


 と、指を立てたヒューイに、にべなくシャナンは言った……いや、話の途中なんだし、最後まで聞いてあげなってば。

 と、シャナンのに突っ込もうとした矢先に、ちょいちょいっと肩を叩かれた。


「あの~、フレイ様」

「あ、アルマじゃないの。どーしたの?」

「いえ、少し姫様からお話しがございましてですね……」


 クリス様からお話し? と、畏まった感じで、おずおずとしてるアルマの視線を追えば、図書室の入り口に、クリス様が待っておられた。おわ、す、すぐ行きます! と、慌てて小走りに駆け寄ると、クリス様が「ごきげんようフレイ様。テスト勉強中にすみません」と、会釈してくれた。


「あ、いえ、ちょうどおしまいにしていた所ですから。それで、突然どうしたのです?」


 と、訊ねると、姫様は少し迷ったようなそぶりをして、


「実は少し相談したいことが……」

「相談?」

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