LV131
「……へぇ、ラングストン家の領地がそんな王都近郊にあるだなんて、初めて知りました。それなら王都なんてとくべつ物珍しくはないんですよね」
「うぅん、そんなことないよ。ぼくの両親はむしろ王都の喧騒を嫌ってるから。他家の方々は王都に別宅を構えてる方が多いんだけど、ウチはこもりっきりで没交渉だからね。気に入らない人は、貴族でも自分のお屋敷に集めないってぐらい、偏屈なんだ」
「そうなんですか。気難しいお方なんですね……」
「人をよく見て判断するって感じ? でも、逆に気に入った方だとだれでもウェルカムになっちゃって。屋敷には旅の吟遊詩人や名のある冒険者を招いて、どんちゃん騒ぎをしたり……後、彼らから聞きかじった話を時系列を直して本に叙事するのが趣味なんだ」
「それは素敵なお趣味ですね! ……なかには東国のロマンスとかあったりしちゃったりしますか?」
「……どうだろう? むしろ血なまぐさい話しや戦場の逸話が多いかもね。あぁ、少し遠出にはなるけどうちに来てみない? 父様から直接にお話を聞けば、書いていなくてもそういう話を語ってくれるよ」
「だってよ。フレイ」
「えぇ?」
……ちょっとボギーたん。なんでそこで私に振るのよ。ヒューイと盛り上がってたのは貴女でしょう?
「いい機会じゃないの。ヒューイさんのご両親に挨拶に出向いたら?」
「……な~がいい機会なんですか」
こちとら、ミルディン卿に挨拶したばっかですよ。たまには休日のお父さんのように、のんびりしたっていいじゃない。
……てか、ボギーさんってば、さっきからニヤニヤして気持ち悪いけど、なんの妄想を膨らませてんの?
「フレイどうかしたの? さっきから眉間にシワが寄ってるけど……気分が悪かったなら鞄を持とうか?」
「あぁ、いいですいいです! 鞄ぐらいひとりで持てるから!」
と、ヒューイに慌てて手を振ったが、気遣わしげな表情で「そう?」と言った。
俺はその視線から逃れるように顔を逸らすと、気づかれぬようそっと溜息をついた。
……いや、気を遣われて悪いけど、いまの悩みのタネはキミですから。
ヒューイが毎日、寮にまで迎えにやってくるようになったのは、ミルディン卿から預かってた手紙を渡した翌日からで、今日に続いて連続10日を数えている。
いったい、なんでまた数分にも満たない登校路なのに……と、思わんでもないのだが、ヒューイの雰囲気がその時を境に明るくなったのはいいことだと思う。
以前は、話していてもその物腰はやわらかいのに、壁を感じさせられたが、それがすっぱりと消え、いまでは、遠慮がちだったボギーとも世間話をかわせる程にもなっていて、隔世の感がある。
「いいじゃないの、王都から一時間もしないで行けるのよ。日帰りでも帰ってこれるんだから、ラングストンのお屋敷にお呼ばれしたら?」
「いや、シャナン様の許可もなしに、勝手に遠出の計画を立てるなんてダメでしょうが」
「……ちぇ」
「ちぇ」
ちぇ、じゃなぇから。
……まったく、あんまり注目されたくないんだよなぁ。ヒューイって頼りない顔立ちだが、よくよく見ればイケメンだ。
故に、そこいら中の女子の注目をかっさらうワケで、隣を歩いてるだけで四方八方から視線が飛んできおる。
こんな中で、鞄を持たせでもしたら、ヒューイが即効、私の舎弟認定されてしまうわ。伯爵の子息を顎でこきつかうって、ドンダケ悪目立ちするのか、好奇心があるけれども、私は試したくもない。
これ以上の厄介事を抱えるのは、ほんと、マジ無理だってば。
……ハァ。
しかし、なんでまたヒューイが毎日、こうして顔を出すのかねぇ。本人に問いただしても「べつに、いいじゃないか。時間は有限なんだから」って、誤魔化されし。
まさか、私如きの顔を見やりに来てるのでは――なぁんて、自惚れるにも程があるわね。ハハッ。
なんて、横目でヒューイを覗けば、ちょうど目が合い、向こうは嬉しそうにニッコリと笑顔である……最近ヒューイと、よく目が合うんだよな。前は下を向いてばっかだったのに。
……いや、まさか本当に私のことを? いやいや、そんな……。
もっと他に考えられる理屈があるって。毎日、俺の顔を見に来る理由が……えぇ、と。そうだなぁ……ン?
待てよ!?
……そうか、わかったぞ。ヒューイの目的が。
たぶん、ヒューイは俺に弱みを握られたと勘違いしてんだ!?
そうだよ。
そう考えれば、こうして俺にへりくだってるような態度はそれで説明がつく。
きっとミルディン卿は俺とのやくそくを破ったんだ。
つまり、ミルディン卿は罪の意識に耐え兼ね、俺のことを拉致誘拐し、カステラを辺境伯の手に渡そうとしたのを、ヒューイにバラしてしまったんだ!
そして、それを知ったヒューイも、同じように罪の意識に苛まれ、そして恐怖したのだろう――もしも、父親が誘拐犯だ――ということをバラされでもしたら!
それは、我が身の破滅だ。と。
慄き恐怖したヒューイは、毎日いてもたってもいられず、俺へのご機嫌取りのために、毎朝、来ているのだ! そして、わざわざ、鞄をお持ちしましょう、とか、甲斐甲斐しいやまとなでしこのように振舞いつつ「ぼくはキミの敵じゃないからね!」と、必死に俺への口止めを哀願してるのね……
……クッ、どうしてだ。なんだってまたバラしたりしてんのよ、オッサン!!
俺は舎弟じゃなく普通に友達が欲しいだけなのに!?
「……ヒューイ。その、あまり無理しないでも大丈夫ですから、ね。わたしたちは大事な友達同士ですから。そんな思いつめなくてもいいんですよ?」
「……うん、わかってるよ。ぼくらはいまは友達だっていうのは。でも、これからずっとってことはないんじゃないかな?」
い、いや、そんな……私たちいい友達のままで、やってきたじゃないの!
これからずっとそれは変わらないよ!
私がそう強く慰めたのだが、ヒューイが顔を曇らせてしまった。
……どうしてだ。やはり、友人関係では不安なのだろうか?




