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LV130

 朝食をたいらげた他の寮生たちは、早々と食堂から学院へと登校していく。

 朝の時間帯はだれしもが貴重だが、とくに女子の時間は男子のソレをも遥かに凌駕する。なんたって、髪のセットやお肌のお手入れなんて、キレーに見せるための努力や時間はいくらあっても足りやしない。

 そんな、女子族の末席に身を置く私に限れば、そんな準備に時間を費やしてはいない。ありがた~いことにボギー様が毎日、私の身支度を整えてくれるので、実質的にやることって喰うことしかない。

「……フレイの朝食の量を見たら、胸やけがするわ」と、ボギーに呆れられてるし、さすがに三人前をたいらげるってのは、ちょっと美的に問題かしらん。

 ……うん、少しはエンドロピー増大を抑えようかしらん。


「あ、フレイさんパンが焼けたそうだけど、取ってきましょうか」

「え」


 と、私の皿が空なのを見てか、上級生の寮生さんが笑顔でそう言った。

 ……え、せっかくですけど、いまは少し。


「ついでですからいいんですよ! あ、ジャムをたっぷり塗ってきますね!」


 と、寮生さんは俺の皿を取り上げ、急いで列にならびにいった。

 ……あぁ、なんだか盛大に気を遣われてるわね。



 寮のなかで、約一名だけ独り暮らしを強いられてきた私だが、実は最近になって、寮生さんたちと仲良くしていたけるようになった。

 というのもつい先日、寮生たちから食堂に集まるように、と呼び出しを受けたのだ。

 なにかな? と、突然の通達に怪訝な思いのまま、扉を開けると、全寮生たちまでが勢揃いでなにかモジモジと、こちらを見上げてる……。

 本当にどうしたの? と、訝んしんでたら、腕組みをしたボギーたんが入ってきた途端、彼女たち全員が「ごめんなさい!」ガバッと頭を下げた。

 …………

 これは、ま、まさか!?


「……ぼ、ボギーちゃんに脅されてるのっ!?」

「ち・が・うでしょ!?」


 痛い、痛い! ヘッドロックをかけるのは止めて!?


「もう! ……ほら皆から説明して」


 と、ボギー様がお怒りと腕を解くと、上級生の寮生さんに向かって言うた。


「ハイ……その、あたしたちずっと感じ悪かったでしょ。だから、一度皆で集まって謝ろうって思っていて」

「いままでフレイさんを無視してたことを、本当にごめんなさい」

「そうですか」


 べつに、そんな謝罪なんていらないのに。私、全然。気にしてなんてないよ~。

 ほら、私が食堂入ったら、一斉に黙り込むとか、声掛けしたのに戸を閉められたとか、色んなことがあったけど。うん、ほんと全然気にしてないよ?


「ごご、ごめんなさい!?」

「そ、それアタシが……」

「コラ! もう謝ってるんだから、そんな睨まないの!」


 ……むぅ。仕方ない、ボギー様の顔に免じて許そう。


「でも、どうしてまた急にわたしに謝罪だなんて。どーせ、テオドアから脅しなりなんなりが来てんでしょ?」


 適当に言ったら、寮生の子たちは目を瞠って「そうなんです」と頷いた。


「……テオドア様からフレイさんと話していたのを見かけたら、その、学院から排除する。とお達しが出ていて」

「ハァ。薄々そんなことだろうって思ってたけど……」


 あの巻き舌女。人を潰すためなら陰湿な虐めにまで手を染めるとか。マジ根性ねじ曲がってるな。


「……でも、レオナール様に毅然と立ち向かうフレイさんを見てみんな思ったんです! これじゃいけない! って、みんなで相談したら」

「――虐めみたいなマネはもう終わりにしようって!」


 と、寮生の子は、手をぎゅっと力強く握って頷いた。

 なるほど。彼女たちも意に反して俺をシカとするのは気分が悪いものだったのか。けど、いいのかね。

 俺を無視してたの、テオドアにバレたら、睨まれるのは確実だよ。

 ヘタしたら貴女たちの主にまで害がお呼びますけど……。

 と、俺がそんな不安を述べたら彼女たちは「覚悟の上ですから!」と、やけに目を輝かせて言った。え、そうなん?


「いいんです。フレイ様にはクリス様や女王陛下といった強~い味方がいるんですから!テオドア様が威張ったって、もう怖くなんてないもの」

「そうです……テオドア様には皆、頭にきてるんですよ。自分だけ偉そうに、関係ない侍女たちまで手下みたいに顎で使うんですよ? 信じらんない。いくら三侯爵家の人間だって、やっていいことと悪いことがある!」

「こうなったら、レオナール様にやったように、フレイ様の口からガツーンと言ってやってくださいませ! そして、学院の新たな秩序を、クリス様を旗印にして一緒にお作りください!」


 ……あの、皆様 テオドアへの不満と憤りはよくよく、私も頷けるものですがちょっとヒートアップし過ぎじゃないかしらん。

 皆様の言い方ですと、叛逆者テオドアを血祭りにあげることになっているようですが、私はそんな大物ではなくてですね――


「そんなことないです! フレイ様以外に、我々侍女が頼れる人はいないんです!」

「そうですとも、必ずやテオドア様――いえ、憎きテオドアに天誅を加えてその驕り高ぶった振る舞いを後悔させてやってください!?」

「ちょ、待って――」

「よーし、皆でフレイをリーダーに、風通しのいい学院に変えていきましょう!」

「「「オー!」」」


 ……コイツら。もしや、俺を叛逆のリーダーに祭り上げて、日頃の鬱憤を晴らそうって魂胆なのでは。てか、ボギーまで掛け声を挙げて、どういうつもりなの!?

 私はそんな学院のみならず、貴族全員から目をつけられるマネは、絶対にやらないんだからね!

 必死になって反乱の火種を宥めたが、寮生の皆は不満げな顔をしてだが、渋々に納得してくれた……いや、そんな残念そうな顔してもやらないよ。私はこれ以上の厄介事を抱えるなんざごめんだってば。


「ジャムを塗ってくれるのはいいんですけど、英雄みたいに祭り上げられるのは困りますよね。」

「意気地ないわねぇ。テオドアをボコしてやるって、宣言してあげればいいのに」

「……乙女の発言とは思えないわ。てか、やりたいなら、ボギーがやれば?」

「ダメよ。あたしじゃシンボルとして弱いからね」


 ……ほんとに? 燃えろよ、燃えろ。って、ギラギラした目をして、寮生を扇動しまくったの貴女じゃなくて?

 せっかく、寮生さんたちと仲良くなれても、やることが学院においての革命活動なんてゴメンだわ。増してや、あんな大人しいクリス様を担いで、革命の灯火に身を投じるって、どんだけな無茶ない期待よ。

 貴族の専横ぶりを諌めるって土台無理な話なんだから、そんな高望みはせずに穏健に暮らすのが一番よ。

 と、ボギーを諭しつつ、俺たちは寮のドアをガラガラと引き開けた。すると、


「おはよう。フレイ」


 と、爽やかな笑顔を浮かべたヒューイがいた。私はすぐにガラガラと戸を閉じた。

 ……もうひとつ抱えてしまった厄介事を、すっかり失念していたわ。





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