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LV13

 ついカッとなってやった。いまは反省している。どのくらい反省してるかといえば家で布団を被ってがくがく震えるぐらいに。


 うぉおおおおッ!? どうしよ~ッ!!

 ヘタレきったシャナン相手とはいえ、封権社会でお貴族様を批判ってマズすぐる!?

 上から目線で村を見下すんじゃねぇって、オマエがお貴族様を見下してる件……いや、ガチで洒落にならなくね……不敬罪ってどの程度の罪なん? ま、まさか、一足飛びで、この世からサヨナラしちゃうぐらい重たくないよ……ね、ギロチンとか鉄の処女とか……。

 うぉおおおおッ!? どうしよ~ッ!!


 と、とにかくやるべきことをやるしかねぇ!

 そう、あれだ。名付けて「昨日の敵は今日の友」――作戦!?

 つまり、俺の商売を軌道に乗せりゃいいワケよ。


「えへへ、ほらボクの言った通りだったでしょ? ね、ね」って向こうは俺の働きに感心。

「君の意見は正しかったんだな、僕が間違ってたんだ」

「いえ、わたしも言いすぎましたわ」っと、仲直り握手のコンボ。少年漫画にも少女漫画にもよくあるテンプレだ

 ……うん、いける。いけるぞこれ! てか、そう信じなきゃやってらんねぇ!?




「父さん大事な話がありますッ!」


 尻に火がついた俺は子供の仮面を脱ぎ捨て、夕飯の済んだ食卓でくつろいでる父さんに切り出した。


「ど、どうかしたのかいフレイ?」


 いつになく理知的な口ぶりな俺に、父さんは晩酌のつまみを取り落として困惑気味。

 こういうのは勢いが大事だ。率直に行こう。


「ズバリ言います。父さんには商売の才能がないんじゃないの」


 父さんはガーンと傷ついた顔で固まった。

 あ、やべ。率直に行きすぎたかしらん。ちょっと切り口を変えて再トライ。


「あ、いえ。そういうつもりではないんです。きっと父さんは優しすぎるのでしょう。だから、金貸しという商売には向いてないと思います。でも、これは雇用のミスマッチというか、業種のミスマッチというやつでですね。うん、だから思い切って商売を畳んで新たな商売を始めてみようじゃないか、と提案しているのです」


 父さんは俺の話を力のない笑顔を浮かべて最後まで聞いてくれた。そうして一つ大きく頷くと、首を横に振った。


「……話はわかったよ。オマエなりに考えたことなんだろうが、商売を変えればいきなり状況が好転するような、楽な仕事は転がってはいないよ。しかもこんな田舎では、やれる仕事なんて限られているからね」

「ですがいまの仕事を続けても状況は好転しませんよ。領主様が心変わりなされば別ですが、意志の固いお方を説得することは並大抵のことではありません」

「しかしなぁ」

「毎月、赤字ですよね」

「うっ」

「家の家財はどんどん少なくなってますよ」

「うぅっ」

「ふぅ……母さんと愛想をつかして出ていくのはいつになるかなぁ」

「そんな悲しいことを言わないでおくれ!」


 父さんは泣きながらひしっと俺の手を取った。

 堕ちたな。


「ならば商売を変えましょう。そうすれば破滅の道から外れることができるのです」

「ほ、ほんとうにっ!?」


 ええ、大丈夫ですよ。

 父さんの肩をそっと抱きながら悪魔――否、慈母のように慈しみに満ちた笑顔で言った。


「わたしにいいアイデアがあります」




「もう私もずいぶん待ったじゃないか。これ以上お金の支払いが滞られたらうちもやっていけないんだよ!」

「いやぁ……もう少しだけ待ってもらえりゃ払えんだがな」

「だからもう十分に待ったじゃないかっ、返してもらわないとうちも困るんだよ!」


 牧歌的な草原の風景が広がるここゼーマン農場で、オッサンふたりが口角泡を飛ばして激論を繰り広げている。そんな醜い大人たちを、家畜たちがつぶらな瞳で興味なさげに見守っていて、俺も囲いの柵に腰掛けながら遠い目で初夏の日差しに焼かれていた。

 俺と父さんは、ここゼーマン農場の持ち主であるゼーマンさんに借金の取り立てにやってきた。が、悲しいことにかれこれ三十分以上も続く議論に進展はない。


「いい加減に返しておくれよ! ウチもいつ払われるのかがわからないのはホント困るんだよ!」

「つってもねぇ。ウチも払いたいのはやまやまなんだが、まとまった金がなけりゃねぇ。ない袖はふれないってやつ?」


 いや、明らかにそれ嘘でしょ。

 ここ最近、羽振りがいいって噂はちゃんと聞いてますぜ?

 しかし、父さんは青い顔して迫ってるのに、ゼーマンさんはカエルの面になんとやらでヘラヘラ笑って余裕だ。いったいどっちが借主なのよ。

 いざとなったら勇者様に泣きついて棒引きしてもらおうって、考えなんだろうけど……まったく、勇者ブランドをこんなしょうもないことに使うなっての。


 その魂胆に呆れながら、膝に顎をついて見守ってたら、お互いに段々とヒートアップしてきた。「金返せっ!」と、俺の目を気にしてか、いつになくしつっこい父さんに、ゼーマンさんの茹蛸みたいな禿頭に青筋が立っている。

 このまま放っておくと掴み合いになりかねないな……。

 やれやれ、俺の出番かな。


「ねぇお父さん、お腹へった」


 俺は父さんに近寄ると、掴みかかろうとしていた袖口を引っ張った。


「ふ、フレイ! い、いま父さんは大事な話をしているところなんだよ」

「でも。ひっ、ぐ……お腹へったー」

「あぁ……フレイ泣くのはよしなさい」

「ひっ、ぐ……でも、お金、あれば、ごはん、食べれるんでしょう?」


 チラッと俺は涙に濡れた顔をゼーマンさんに向けるとギクリと身震いした。


「…………いや、ない袖は振れぬというじゃろ、な? うちもかつかつでな、頼むから嬢ちゃん、泣き止んでくれんかね」

「……ごはんは」

「ご、ごはん? ……そ、そうだなぁ。あ、ちっ、ちちょっとそこの物を持っていきゃいいさ。な、あれなら食べれるぞ!」

「ホント? じゃああの卵もちょうだい!」

「お、おお、いいともどれでも好きなの選んでいきな」

「やったー!」


 じゃ喜んで。ひい、ふう、みい、よお、とお――っと。


「ちょ、おいそんな持ってく気かよ!?」

「おじさん嘘つくのー?」

「…………」

「おじさんくれるって言ったよねー。あれうそだったの? お金を返すって約束もぜーんぶうそだったの? おじさんは約束をやぶってもへーきな人なのー?」

「嘘じゃない嘘じゃないよ!? 確認しただけだからぜんぶ持って行っておくれ!」

「わ~い、ありがとうおじさん!」




「心にもないいいわけって見苦しいよね~。世の中ってけっかがすべてだってえらいひとが言ってたよ~?」

「借りたものを返すってひととしてあたりまえのことが、どーしておじさんにはできないの~?」

「誠意ってことば知ってる~、ねぇどういういみなの~? 教えておじさ~ん」




 さて。


「ずいぶん集まりましたね」


 小麦粉三袋、蜂蜜2ビン、砂糖200g。鶏卵20個。

 まあ、一日ではこんな物だろうな。


「なあ、フレイ。やっぱり商売をつ――」

「続けません」


 却下。


「父さんお一人でこれだけの仕事成し遂げられませんでしょ?」

「うぐっ。し、しかしなぁ。フレイの言う”新しい商売”をやるにしたって先立つものがないとなぁ……なのに、借金のかたに食料を差し押さえてしまっては、開業に必要な家具だったりが揃えられんじゃないか」

「だ~いじょうぶですって。前に言ったでしょ? これは新たなる商売のための、まぁ、デモンストレーションに必要だって。ちょっと娘を信じてください。わたしには秘策があるんですから!」


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