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LV123

 コボルトに怯える程度の見習い騎士様とはいえ、その助力を得たのだから肩の荷が少しは下りてもいい気がするのだが、軽くなった気がしない。

 新学期が始まり、すでに二週間が経ったのに、学院ってこんなタイヘンだったけか……と、慣れる所か日に日に疲労感が増してきてる気がする。

 私の狭い領地に鞄を放るとドッとこみ上げてくる疲労にへなへなと倒れ伏した。


 今日もジョシュアに押し付けられた制服を返却しに、三回生の教室まで向かったのだがこれでもう三度目。相変わらず、俺が姿を現した途端、ジョシュアは大袈裟なジェスチャーでのお出迎え。

 俺も「困りますんで!」と、半ば切れつつ制服を差し出しても、やたら愛の睦言めいた世迷い事を捲し立てられてけむに巻かれるし。

 かといって、ジョシュアが不在の間にその侍従に押し付けていっても、次の日には教室の机上に、バラの花束とともに制服の包みが置いてあって、まさに呪いのアイテム化してる。

 おかしいなぁ。私は一度たりとも着たことないのに、どうして呪われてるの?

 もしや、僧侶様にお祓いをしてもらわなきゃ離れないのかもねって、笑い事じゃないんだが。

 しかし、焼却処分してまおうか、と真剣に心が傾いたが、ジョシュアも毎日、私の制服姿を確認しに教室までやって来るし。弁償しろよ、と迫って来られたら、さらに面倒な事態になりかねん。

「貴方の標的は姫様でしょ。わたしに色目を使って姫様に呆れられたらどうするんだ」と、ドストレートに毒を吐いてみたが、前髪をクルクルと巻いて「いや、姫様はいつも登校がギリギリだからね。それまで他のレディの相手をするのもやぶさかじゃないのさ」と、いけしゃあしゃあと言う。

 ……オマエはもう帰れ。

 と、何度も態度や言葉にしてもいるのに、カエルの面になんとやらというのか、一向に帰りやしない。貴族は慎みと礼儀を重んずるというが、ジョシュアに限って、そんなもの皆無なのかもね。

 しかし、いい加減、私がシカトを決めこんでも、ジョシュアがひと言発する度、後ろのシャナン席から殺気が凄まじいんですがソレは……。

 なになに? シャナンとジョシュアってこんな相性が悪いの? まぁ、私もこんな軽薄な男性は、紙に包んで放り投げたいのは同じだけど、稽古以上の威圧感を醸し出すのは止めてくだされ。お願いします。

 てか、さっさと妹ともども退学の憂き目にでもあってくれろ! と天に願っている。




「……ハァ。ボギーたん、お願いわたしのためにお茶を淹れてきて」

「ンー? いま忙しいからパス」

「忙しいって、鏡見てるだけでしょ?」


 かくいう私も寝ころんでるだけだけですが。いい加減、ルクレール兄妹のことに頭を悩ますのも疲れたし、気分転換したいよ。

 同じくベッドに寝ころんでるボギーは、小さな手鏡をふしぎそうに覗く子犬のように、角度を変えては表情を作ってる。


「……まぁた「あたしがかわいく見える角度の研究!」ってアレですか」

「勝手に見ないでよ」


 ボギーは新発明を隠さんとする博士のように、姿見をぺたん、と倒してブスッと頬を膨らませた。さすがは研究してるだけあって、かわいい。


「勝手にもなにも、人に見られる研究をしてるんだからいいでしょ。効果のほどを、わたしめが判定して御覧に入れましょうぞ」

「間に合ってます。てか、フレイに先に使われたら意味がないでしょ」

「わたしがだれに使うってんですか」


 俺が呆れて見せると、ボギーはこちらの頬っぺたをむぎゅっとした。

 ……ってか、ボギーってそういう素の表情の方が魅力的だと思うのにシャナンには一切見せないんだよなぁ。

 むしろ、研究して作ってるものが時々鏡越しで映るんだが、それが笑いをこらえるのがツライものがあるんだけど。


「わたしに対しての時みたいに、普通にしてればいいじゃありませんの? 素のボギーの方が、シャナン様お茶をどうぞ。なんて、やってるよりかわいいんだし」

「素の自分なんて出せるワケないでしょ、恥ずかしい!」

「……や、でもその研究にしたって、シャナン様にお見せしなきゃ意味がないと思うんですが。そこで作った表情でも一回もお見せしたことあります?」

「…………」


 拗ねちゃった。

 なんつーか、ボギーは努力家なんだけど、いまいち自分に自信がないのよな。

 恋愛本を参考に、してあげたいリストとかまで作って、勝手に盛り上がって満足してるっていうか。現実に反映させる日がいつになるか不明なのよねぇ。


「……なんでフレイにダメ出しされなきゃいけないのよ! 自分だって男の気配がなーんにもないくせに!」


 私のなんとも言えない生暖かい目が不快だったのか、ボギーはベッドの上に立ちあがり、ビシッとこっちに指を突き付けてきた。ソレ、かわいくないわよ。


「いいわよ、もう! ……そこまで言うんだったら、フレイが自分がかわいいって、思えるポーズをして見せて。かわいかったらお茶を淹れてあげるし、あたしがソレをシャナン様にして見せるから」


 え、ンな急に、てか話しが違く……


「3・2・1 ――ハイ」

「が、がぉー?」


 …………。


 無反応。

 いや、これは違うんですよ。クマさんのように両手を挙げてわし掴みって感じにしたのは、愛らしい少女が襲いかかるっていうギャップと、レッサーパンダ的な、愛らしさの演出を……って、ボギーたん? どうしたの、なんか身体が事切れたスライムのようにぷるぷると震えてるけど。


「ぷふっ、もうダメ! アハハハッ! おっかしい! がぉーってなにそれ、アハハハハッ!」

「…………」


 ……笑いをこらえていたんですか、ソーデスカ。身体をくの字におって床まで叩いて、べつに私はおもしろいポーズをやったワケじゃないんですがね。

 てか、いつまでも笑ってんのよっ!?


「ぷくっ、ゴメンゴメン……でも、たしかに発想がかわいいかも。ぷっ、クククッ……」

「……もういいってば、もうっ!?」

「だからゴメンって、アハハッ!」


 笑いながら謝るな! てか頭をなでなでするなっての!?

 もう!

 ニヤニヤとするボギーの手を払いのけつつ、私はボギーをジト目で睨んだ。

 ……クッソ~。子供扱いしおってからにぃ。


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