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LV122

 ……完敗だった。

 愉悦に満ちた表情で離れを出て行くテオドア。

 セコンドたるボギー様に慰められて去る私。

 いったい、どちらが勝者かなんて、傍目から見ればおよそ明らかだろう。

 ……クッ、あんな風に陛下のお叱りを逆手に取って解釈し繕うなんて、俺も思わなんだな。改めて、巻き舌を蛇笛のごとくクルクルに巻く恐ろしさやら、貴族の口八丁ぶりにはめっちゃムカつく、めっちゃ腹が立つ!?

 アーッ!

 思い出しただけで、ムカムカしてきた!?

「フレイがパーティで注目されてたから、嫉妬してんでしょ?」て、ボギーたんは慰めてくれたが、あのテオドアの言葉はそうじゃない「ドレスに着られてんな。プッ!」って、せせら笑った上に、クリス様との関係にまで口を挟んできやがった。それはシャナンに対する牽制でしょう。

 シャナンの婚姻相手は――このワタクシだ。とね。


 ……フン、ひと夏過ごしても、ターゲットは変わらないってことなのな。

 しかし、いくら、俺に嫌味を言い募ったって、シャナンがテオドアの掌中に収まるはずもないし”勇者の嫁”って立場にはなれないよ~。

 ――とは思うけど、どうにも不安だ。

 だって、そのことをあんだけの性悪が失念してるとは思えない……。

 シャナンの意思なんぞどうとでもなる、と洟を括っているだろうが、その上になにがしかの罠を張りめぐらせてくるのではないか。そして、こちらが穴に落ちるその時を虎視眈々と狙ってるような気がする……。


 ……あんなのが次期ローウェル子爵夫人に収まるとか、考えただけでもマジ地獄じゃないか。

 俺らに対する態度を見れば明らかで、村の開発や村民の生活だなんて、テオドアの眼には映りやしない。そうなったらば、村の10年先、20年先、100年先――と、その未来がどんどんと暗くなっていくだろう。

 そんなことにはさせてなるもんか! こうなれば徹底抗戦だ!!

 と、その意を固めた私は、性悪女に対抗するべく舎弟たちに召集を命じた。




「……それで。オレたちをこんなとこに連れ出したりして、なんだってんだよ?」

「うむ。ヤル気が満ちてるのはいいことですね」


 放課後。俺は正門前の茂みに隠れ、呑気な面で帰ろうとしていたジャンとニコラの首根っこを背後から捕まえた。

「ヤメテ!」と、悲鳴を挙げるふたりを、校舎裏にまで引っ張りこんだはいいが、ふたりはまるで初々しい恋人のように互いの不安げな顔を眺めつつ、なにか居心地が悪そうにしている。

 いや、怯えることはない、安心したまえ。キミたちから協力資金を得ようとカツアゲを目論んでたワケではないのです。

 俺は率直に、テオドアが強引に嫁入りしようと企んでることを暴露し、その企みを粉砕するために協力して欲しい。と、頼んだ。


「ふ~ん、つまりオレたちに、そのルクレール嬢の邪魔をさせようってことか」

「そういうことです。しかし、話しの理解が早くて助かりますよ」

「うん、まぁね……シャナンの周りって前から女子の数がやたらと凄かったから。そんな目論見があるんだろうっていうの、学院では結構な噂になってるし」

「……へ~」

「ンでも、オレらもシャナンのダチやってるし? 勝手な噂してる連中に逆にムカついてたから。はなっから信じねぇ、って決めてたがまぁさか噂通りだなんて、思わなかったよなぁ……なぁ、もしかしてシャナンの嫁さんに立候補してるのって、テオドアだけじゃなくてクリス姫様も~、とか、マジ?」

「…………」


 思わず言葉に詰まって視線を外したら、ジャンが「マジかー!」と、頭を抱えて絶叫をした……そうしたいのは俺も一緒ですよ。クリス様がテオドアとの競合相手だなんて、学院の生徒ですら噂になってるって。俺ぼっちだから、てんで気づかなんだな……

 いや、これ、マズくね?

 ふたりには、俺が陛下のスパイ(仮)であることはボカしておいたのに、この調子じゃそのことまで噂になる日が近いよこれ。ましてや、テオドアや陛下の企みが、万が一にもボギー様のお耳にでも入ったならば……血の雨が降る。

 ……と、とにかく、そんなことにならんよう祈りつつ、シャナンの防備を固めなければ。


「ンでもよ~、協力するのはするけど、具体的にオレらがなにをすりゃぁいいんだ?」

「そうですね……具体的には、お昼休みや授業終わり休み時間が、一番テオドアが絡んでくるので。その間を潰すために、ふたりに休み時間毎に来てほしいのですが」

「……エー」


 ついさっきは協力するって、格好つけてたくせにもう及び腰か?

 アンタはそんなんだから、コボルトに尻尾を巻いて逃げる子犬ちゃんなのよ!

 と、俺が世にも冷たい三白眼をしたら、ジャンが逆切れをした。


「ンな目でオレを見んなよ! あのルクレール兄妹に目をつけられるって、ガチで洒落になんねぇんだって!」

「……ぼくもそうだね。あの兄妹に逆らって非道いめにあった令嬢や家の数はいくつもあるんだ。協力するのはいいけど、もっと目につかない方法にして欲しい」

「…………」


 コボルト退治なんて無鉄砲なことやるくせに、こんな所では慎重だな。でも、たしかにルクレール家にそんだけ力があるってことは、増長してる兄妹を見てればわかるか。自分の取り巻きに対してだって、顎で使うだけだものね。


「うん、だけどキミとテオドアとの諍いは注目されてるんだ。彼女の前では皆は頭を低くしてるけど、内心じゃキミを応援してるんだから」


 二コラはやけに頬を上気させてそう言った。

 ……応援してくれるのはありがとう。でも、要は手は貸してくれないのよね。薄情だなぁ、皆。てか体の良いエンターテイナー扱いされて消費されてるだけじゃないの。ワロエナイよ、ソレ。

 ……って、待てよ。

 そうか。俺が背伸びして、テオドアを相手にしなくてもいいんだ。

 息をひそめてる貴族たちと同じように、俺も他のだれかをテオドアにぶつけて、戦わせれば! と、俺は思いついたことをふたりに相談をしたが、ジャンは頭を振り絞ったように唸った。


「……テオドアに対抗できる相手ねぇ。あ、エミリア・ハミルトンはどうだ? 三侯爵家には三侯爵家って感じ?」

「あのボクッ娘ちゃんか」


 たしかにルクレール家主催のぱーちぃの折に、飲み物をぶっかけるという掣肘を喰わらせてくれたが、あの変わり者っぽい少女も腹に一物抱えてそうですからねぇ。ヘタに恩にきせられることしたら、後々の返済にそちらのシャナン君で。と、こられたらマズイからなぁ。

 俺がそういうと、他に思いつく手もないのか、ジャンも二コラも押し黙ってしまった。

 ……あ~あ、いい手だと思ったんだけど、結局頼れるのは自分だけ、か。


「いっそ貴方たちでルクレールの屋敷に潜り込んで、弱みのひとつやふたつ取ってきてくれません?」

「無茶言うなっての! 仮にルクレール家の弱みなんて持ってきたら、オレらの命がいくつあっても足りないってばッ!?」

「友人ためなら命のひとつやふたつ張ってくださいな」


 と、白けたように俺がそう呟くと、ジャンは手で顔を覆ったままに出てこない。どうも、白眼視を向けられるのが、耐えられないご様子だ。軟弱者めが。


「当事者のシャナン君はどう考えてるの。ぼくらが思案しても、彼の意志も無視して事を運ぶのはちょっと気が引けるな」

「えぇ? な~んだか、軽く考えてんですよねぇ「僕は絶対に結婚しない!」って。当人のご意志が反映されるんなら、いいけど。その意思に反するような事態に追い込まれぬように、ってわたしが心を砕いてるのが、わかってないんですよ。まったく!」

「「…………なるほど」」


 なんでハモッてんのよ。

 まぁ、いいや。この話はこれでしまいですね。


「あぁ、そだ。貴方たちは来年、妹さんが入学するんでしょ。もしよければ、ジョシュアから貰った制服――」

「いらねーよ」


 と、言葉を叩き落とすように、ジャンが渋い顔で言った。

 ……ンでも、制服がアレば貴方たちは危険な仕事を受けなくてもいいでしょう。


「そういう問題じゃねーよ。ルクレール家が怖いのはそーだけど、ヤツらから物を恵んで貰う程に落ちぶれちゃいねーよ」

「……ジャン。あの、ゴメンね。フレイの厚意はわかるけど、ぼくも同じ気持ちだから」

「そっか。まぁ、そうですよね」


 はぁ~。となると、ジョシュアの元に返しにいかなきゃならんのかぁ。

 ……気が重い。

 ふたりのウチどっちかでいいから、付いてきてよぉ。


「まぁな。それぐらいなら付き合うよ。これじゃシャナンがあんまりだし?」

「ジャン!」


 と、ニコラが叱責するようにジャンの口を押えた。

 ……あら、なぁに、その反応。金魚が飼えるほど、盛大に目が泳いでるじゃない?

 気になる~。ふたりで隠し事なんかしちゃって。お姉さん――否、お兄さんも知りたいなぁ、ほら、一切合財ゲロしてくれない?


「ねぇ、教えてくれませんかね。その内緒の話し……でないと、コボルトに怯えた少年の話が学院中に広まりますよ?」

「ちょ、ソレ忘れるってやくそく!?」

「ン~? そんな怯えるってことはやっぱ隠し事があるのかなぁ。教えて欲しいなぁ」

「い、いや、その……」


 あ、そ。言いたくないんだ。

 つかぬことを伺いますが、学院長のお部屋ってどこだっけ?

 俺が校舎に向かいかけたら「わ、わかったってば、言うよ言いますから!」とジャンが大慌てで俺の袖をふん掴んだ。よろしい。では要点をまとめた報告を頼むよ、ジャン君?


「……チッ、シャナンが冒険者の仕事に出た理由! が……その、オマエの制服を買うってことなの!」

「ハァ?」


 制服を買う、って女子用の? なんでそんなことすんのよ。私が女子の制服を嫌ってる、てシャナンも知ってんじゃないか。


「いや、だから女子用の制服を持ってるけど着ないっていうのと、持ってないから着れない、ってのは大違いでしょう? だからフレイにプレゼントしてあげよう、って……ねぇ、意味わかる?」


 元から気弱そうな顔を、さらに小さくしたようにニコラがそう訊ねてきた。

 ……ふむ、意味、とな。

 フゥ。そんなのわかりますよ。

 私だって伊達にシャナンとの付き合いは長くはないんだから。

 シャナンは日頃意識しないが、一応は男であり貴族なのだ。自分の侍女に満足に制服を用意してやれんのかい、と侮られては、やはりメンツに関わるのでしょうね。

 そんな気にせずとも、私は男子用で満足してるんですけどね。シャナン様もそんな細いところに気遣いをしないで、もっと大局に目を向けて欲しいわ。

 ……って、あ、あら。ふたりともなぁに? 憐れな小動物を眺めるような眼は。い、言っておきますけど! 貴方たちも妹に制服を用意できないって点では、シャナン様と同レベルなんだからね! 違う? ……ちょ聞いてるの? だから、そんな白眼視して、私のこと見るなしぃ!?


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