LV115
その後、クィーンガードさんに連れられて陛下と密会した時のこと。
クリス様とのパーティでのこと。
そして、陛下に関する俺の見方や感想に至るまで、すべての事細かな点について、トーマスさんは説明を求めてきた。
トーマスさんは組んだ腕に顎を乗せながら「それはどういう意味で言ったと思う?」とか、「ちょっと待ってもう一度お願い」と、その都度、話の腰を折っては俺からの解説やら補足なんかを求めてきて、なんだか刑事の取り調べのような感じ。
その表情はやたら真剣なんで、正直に陛下への印象を語ったのだが「娘思いのいいお母さんだと思いますけどね」と、言い添えたらホラー映画に怯える子のように「ぎゃーっ!」と絶叫してたのが気になる……。
や、俺はべつに恐怖譚を語ったワケじゃないんすけど……。
そうして、すべての話を終えて、咀嚼するように目をつぶっていたトーマスさんがその重たい口を開いたが。
「ありがと。もう遅いからフレイちゃんは先に帰っていいよ」
だった。
……エー!? 人の話を根掘り葉掘り聞いといて、感想もなしって非道くない?
「さんざん、人を不安にさすようなこと言っといてこのまま帰れってんすか!?」
「そう。悪いけどこれから俺とシャナンとで大事な話があっから」
「……なんですかソレ? わたしは混ぜてくれないの?」
「ダメなんだなぁ。残念だけど、これからの話しは野郎同士でしかできないんだわ。女子のフレイちゃんにとてもとても聞かせられないのよ」
トーマスさんはシャナンの肩に手を置いてやたら重々しく頷いた。
……なによ、男同士の話しって。男の連帯というならば私も参加する資格はあるはずだ。こんな希代の紳士は他にいないんですからね。
と、不平をブーブー、言い募ったが玄関前に待機してたラザイエフ家の送迎馬車に無理くり押し込まれた。ちょ、マジでこのままお帰りっすか?
「フレイちゃんがいたら、シャナンの本音が聞けないでしょ。これは漢のプライドってもんなんだ……ほらオマエからも寮に帰るよう説得!」
「……え、えぇ。ま、まぁそういうことだから!」
「なんですかそれー!?」
漢のプライドって。なんだそれ。
男を棄てた身の私が言うのもアレだが、大して守るべき価値なんてないっすよソレ。
と、俺がツッコミを入れようとした矢先に扉が閉められ、馬車が発進した。
……むぅ。いったいふたりしてなんの秘密の話だか。
「もうどこ行ってたのよ!」
「……すみません」
自室のドアを開けた瞬間、ボギーたんになじられ、俺は即座に平謝りをした。
……ぷくっと頬を膨らませて、タイヘンにおへそを曲げられてる。意見を聞きに行ってたシャナンも空振って落胆して戻ってきたら、相談相手までいないとなれば、そりゃお怒りだよね。でもでも、私もタイヘンだったのよ!
犬っころに喰い殺されかけるわ、メイド服を着せられるわって。
……しかし、問題はそんな泣き言も言い訳も、一切合切ノーコメントを貫くしかないことなんだけどね。
「……で、あたしを置いて何処に行ってたのよ。そんな恰好で帰ってきてどういう風の吹き回しなワケ?」
「えへへ、実はトーマス様のご実家に行っておりまして」
「トーマス様の? ……それで、そういうメイド服に着替えさせられたってことね」
理解が早くて助かりますわ。そのボギーたんのなんとも言えない表情も、トーマスさんへの信頼度が、著しく低下しておられるのが垣間見えて、嬉しい限りです。
「へ~、でも良かったじゃない、そんなかわいい服をタダで貰えるだなんて。そういう女の子らしい恰好のフレイは凄い新鮮だと思うなぁ。うん、フレイも女の子らしくなってきて、あたしも嬉しい!」
「……どうも」
なんだかその褒め言葉も素直に受け取れないよね。毎朝、ボギーたんが俺の髪をセットしてくれる最中も「フレイは女子らしいなぁ、女子らしいなぁ」って、褒め殺しにしかけてくるのよねぇ。
……まさか、俺が身も心も女子になるべく、洗脳を仕掛けてきてるのか。
そ、そんな手には俺は乗らない!?
「わざわざトーマス様の御宅にお邪魔してまで、フレイの用事でなにかあった?」
「うん。実は、姫様へのお礼にお菓子でも作れないか、と思って」
「お菓子?」
実は、前々から考えてたのよね。俺が菓子を作って持ってけないかって。けど寮の厨房を生徒が使うのは禁止だからね。
以前、王城に勤めたいと希望する生徒たちが、少しでものアピールのため、寮の家事の手伝いに励んでいたそうな。しかし、次第に生徒たちのアピール合戦に熱が入ってしまい「これわたしの仕事!」「違う、これはあたしの!」と、喧嘩が絶えなくなったそうな。仕事を取られちゃ困る、との寮母さんからのクレームもあり、女子は厨房に入るべからず。と学院から通達が出たそうだ。
「だから、ラザイエフ邸の厨房をお借りしたいかな~、なんてね。ほら寮の厨房は無理でしょう?」
「あ~、確かに」
トーマスさんに思い立ったがついでに、と厨房を使ってもいいか、とお願いポーズをして頼んだら渋い顔で「いいよ」と許可をいただいた。
トーマスさんは、俺が女王陛下の専属料理人になったことは気に入らない様子だったが、文句をつけても、立場には揺るがないんだし、そんな立場にあるからには姫様へのお礼の品にお菓子を選ばぬ手はないとも言えるからね。
「新作の菓子を持って返礼に行けば、姫様にも喜ばれますよきっと! ね、ボギーもドーナッツなら作れるんだし、シャナン様への雪辱にはもってこいかと」
「う、うん、いいわねそれ!
ボギーの顔がパアッと明るくなった。フッフッフ、私の作戦に乗り気であるな。男子は元より、女子の胃を掴めば、百戦危うからずであろう。
それに、余り物のドーナッツや美味しいお菓子を寮内に配れば、その甘美な味に皆さんメロメロ。そうなれば、ぼっちな私が一躍ヒーローとして躍り出ることも可能なハズ!
クックック。我がハーレムの礎はこの寮内にて築かれるのだ!
グァーハッハッハハッ!!
「ねぇ、じゃあどのお菓子を持って行こうか。フレイのノートでドーナッツよりもキレイで見栄えが良くて、美味しいのが合ったらそっちにしたいなぁ!」
「えぇ? ……いや、ボギーの腕だと無理じゃね」
「なによ文句ある?」
……文句はないです。ただ、ソレを食した人のお腹が心配で。相手は姫様だし。
「いいから、教えてってば!」と、ボギー様に叱られて、俺様は慌ててノートを拡げた。余計な心配のタネまで抱えてしまったような気がするが……大丈夫、だよね?




