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LV114

「……ふぃ~、生き返る……」


 お湯をたっぷりなバスタブはなんていう心地よさだろう……こんな広い湯船に良い香りの薬湯まであって、なんという贅沢か。一日の疲れが抜けていく~。


 

 あの後、俺は嫌がるシャナンの首根っこを捕まえ、トーマスさんご実家のラザイエフ邸に身を寄せることにした。

 今回のことは無事に一件落着はしたけれど、トーマスさんは元より、クライスさんにも報告をしないとマズイだろう。俺も管理不行き届きでお叱りを受けるだろうが、俺がギャーギャー叱っても次にシャナンを止めれるかわかんないからな。

 久方ぶりにお会いしたトーマスさんも俺の血みどろ姿に驚いた様子で、挨拶もそこそこに「お湯に入れてあげて!」と、メイドさんに申し付けてくれた。

 いやぁ、有難いっす。

 街では血濡れた冒険者に見慣れてるのか、俺の姿に驚きもなかったが、さすがにボギー様の前に赴く勇気はない。命からがらコボルト退治を終えたのに「なにがあったのよ!」と、首を絞め殺されかねない。


 ……ハァ。いつまでも浸かっていたいけど、のぼせる前に出ないとね。

 しっかし、ラザイエフ邸は王都でも有数の政治商人というだけあって、外観もそうだけど浴室にも金がかかっているのねぇ。蔦模様の真っ白な壁紙にも、金色の縁が入っていたりしてなんとも高級さを演出してる。

 鼻歌まじりに外に出でて、用意されていた服を拡げると、それはメイド服だった。

 …………。




「わぉ! フレイちゃんの格好、とってもキュートじゃないか!」

「……やっぱ貴方の差し金ですか」


「なんのこと?」と、顔を綻ばせつつトーマスさんは小首を傾げてる。

 ……いもうツッコム気力も失せましたわ。

 俺はゲンナリとしつつ、そこの赤絨毯で正座してるシャナンに目を向けた。


「ってか、なんでシャナン様がそんなとこで正座してんですか?」

「決まってんでしょ、罰だよ罰! ちったぁ反省したか、コンニャロウ」


 と、トーマスさん三人でもゆったり座れるソファにふんぞり返って言えば、シャナンはしょぼんと肩を落とした……罰か。まあ、俺的には正座ぐらいじゃ生ぬるいって感じだけどね。そこの冷たい、木目の上でやらせた上、ハリセンボンを尻に敷けと言いたいよ。

 ケケケッ、と小悪魔のごとく笑うと、優雅にスカートを翻しつソファに座ろうとした。が、何故かしら俺の着地点に、トーマスさんがスライドしてきた。

 俺は中腰のままに不機嫌に後ろを睨みやると、トーマスさんはなんら疑問を抱かぬ顔で「どうしたの座りなよ」とぬけぬけ言う。


「……トーマス様、退いてくださらない? それだとわたしが座れないのですが」

「いや、座れるでしょ俺の膝に?」


 ……私はいったいいつ鏡餅の上のみかんになったのかしらん?

 この方は私にメイド服を着させるだけで飽き足らず、ナチュラルにセクハラをかますだなんて。かつては英雄としてたたえられたお方も、落ちるとこまで落ちたと嘆きたい思いがします……。


「いやいや、これがキミへのお兄さんからの罰だってわかんない? 軽挙妄動は正座してるおバカさんにバッチリ当てはまるけど、そいつについてったキミも同罪だよ? 俺に相談もなしに危ないとこに出かけちゃダメじゃないか」

「しょーがないでしょ? 時間がないって迫られたんだし」


 ブスッと反論すれば「ダメ! そういう時こそ、他の人に頼る!」と叱られた。


「っていうか、罰ならシャナン様と同じく正座で構わないですよ。どーしてトーマス様の膝に座るんですか」

「アイツにはその方が堪えると思って~?」


 と、シャナンを向いたが、向こうは即座にソッポを向いた……なんでそんなことがシャナンへの更なる罰になるんです? まぁ、いいけど、女子っぽく語尾を伸ばすなんて気持ち悪いっすよ?

 と、そのスキに隣へ移ろうとしたが、お腹が腕でロックされてる。

 ……ぬぅ、トーマスさんも調子乗りな態度とは裏腹に怒ってるのかな?

 やっぱだんまりに決め込んでた方がよかったかしらん。でも、あんな血みどろの格好で寮に帰れないし。しょーがない。と、観念してトーマスさんの膝にソロ~っと腰を下ろした……うん、座りが悪いことこの上ないね。


「いや~、俺の膝にフレイちゃんがいるだなんて感激!? 少し見ない間にフレイちゃんはぐぐっと大人っぽくなったね。かわいいというかむしろ美人系? 髪も伸びて女子っぽくなったし。ねぇキミさえ良ければウチで働かない。給金もたんまりと弾むよ!」

「……いやです」

「釣れないねぇ……でも、無理だって知ってると余計に欲しくなるなぁ」


 ぐわっ、ちょ、人の頭に頬をこすりつけるのは、ヤメンかコラッ!?

 えぇい、いい加減にせぇい!




 やれやれ、と。俺は大きく嘆息してゆったりと、ソファに足を組んでふんぞり返る。

 そして、眼前の先には冷たい板目の上に、正座する阿呆男子がふたり。

 ふむ。やはりこの方がしっくりくるよな。


「……あの~、フレイちゃん? ちょっとお話をしてもよろしいでしょうか?」

「どーぞ。寛大な心で許して差し上げます」

「……はい。その、フレイちゃんが湯に入ってた間に、こいつと話し合ったんだわ。それで、君がここに居る事情とか、姫様周りのきな臭い話しから、コイツのいまの立場とかもこの際、全部話しちゃったんだ」

「ホントに?」


 目をパチクリとしたら、トーマスさんは頷いた。

 ……俺のいぬ間にいつの間に。て、勝手に話していいんですかソレ?


「いや、キミらから預かって手紙があったでしょ。それを届けについ最近またクライスんとこに邪魔したんだ」


 あぁ、そーいや、トーマスさんに手紙を預かって貰ってたっけね。結局「村に帰る」と、書こうとしてもことごとく筆が折れるんで、諦めて「父さんへの絶縁状」って、タイトルだけを送ったんだが、まぁいいや。

 いずれにしろ、私の栄光への扉が三年後に開かれるのだからな!


「前にいつか自分で気づいたらって言ってたけど、そうも悠長なこと言ってられねぇ事態になってきたから……ま、キミには後出しみたいで悪いけど、これ以上は隠しておくこともね。ほら、ここでは俺が父親代わりぶって甘やかすのも、違うでしょ。サッサと自覚を促すって意味でも伝えたほうがいいかな、と」

「そうですか」


 そういう考えなら俺が異論を差し込むことじゃないよね。それよりも、トーマスさん?正座が崩れてますよ。


「……あい。でも、帰ってきて早々にこれだもんなぁ……自覚してもらうのがひと足遅かったよねぇ」


 トーマスさんは隣の頬っぺたをつんつんしたら、シャナンは邪険そうに振り払うと不満げに頬を膨らませた。


「今回のことは反省してます……けど、自分のことなのに、なんで僕にはずっと話してくれなかったんですか! フレイにまで僕の尻拭いみたいなマネをしていたっていうんでしょう? それなら、僕にもちゃんと教えてくださいよ!」

「そうだよ、これはオマエ自身の話しだ。けど、この問題はオマエだけに関わらず、周りの人たちの多くを巻き込んでいるワケ。今回の冒険についても、ソレは同じことが言えるように。だから、ヘタに暴発されても困るんだってこと」


 不満も露わに捲し立てたシャナンに向かって、トーマスさんは静かに諭すと、シャナンはなにも言えずに首を垂れた。それにトーマスさんは居住まいが悪そうに頬を掻いている。


「まぁ、お説教は止めよう。それよかこれからの話だ。俺が仕事で出かけてた間に、色々あったの噂に聞いてるよ。フレイちゃんが陛下の専属料理人になったとか? パーティでの演説とか?」

「あぁ……なんか、いまとなってはいい思い出ですね」


 そういえば、ボギーと姫様へのドレスの返礼を考えていた時、ネコミミ先輩がやってきたんだっけ。今頃、ボギーたんは「どこ行ったのよ!」ってお怒りかもしらない。


「ちょっと、呑気なこと言ってないでよもう! フレイちゃんも、シャナンも自分の立場をわかってるのかい!」

「えぇ? シャナン様はともかく、なんでわたしまで……」

「だ・か・ら! フレイちゃんも十分巻き込まれてんだよっ!」

「そうなんですか?」


 俺が素直に聞き返すと……ハァ。と、トーマスさんが大きく嘆息すると「あのさー」とダウン系なテンションで続けた。


「俺言ったよね? 陛下に不用意に近づいたら危険だって。だのに、陛下専属の料理人に取り立てられた。なんて話を聞いた時には俺ひっくり返って卒倒したよ」

「いや、わたしも最初は断ったんですよ? なんですがつい押し切られちゃって……」

「つい押し切られちゃって。じゃないよもう~!」


 と、トーマスさんは女子のように可愛いこぶりっこしつつ頭をかきむしった。

 ……さっきお説教は止めよ。と言ったのに、そんな怒ることですかね。なんてシャナンとこっそり腐してたら「いいから! キミが陛下と会った時の話しを、つぶさに説明して!」と、カリカリ怒られた。

 ……へいへい、わかりましたよ~。



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