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LV112

「……終わった?」


 そんな俺の呟きは、その場にポカーンと浮かんで消えた。

 先に襲われてたふたりは答える気力もなく茫然自失としており、平気な顔のアイゼンもはなっから答える意思もなく、斧を静かに懐へと仕舞った。

 途端に、俺は腰から力が抜けへなへなとその場にへたり込んだ。

 ……もう、ダメだ。緊張が今更やってきたのか、膝がカタカタ笑ってるよ。

 そのうち、妙な薄笑いがこみ上げてきた。

 とにかく血に濡れた剣を手から放ろうとしたが、手が妙に強張っててうまくいかず、片方の手を使って指を一本ずつ離していった……ハァ。この服はもう血でべったりで着れないわね。まぁ、命があるだけよかった。これで安心して帰れ――


「って、そういえばシャナン様は!?」


 と、俺と同じように呆けていたふたりの少年に問いただした。

 ふたりは一瞬顔を見合わせたが、顔を俯かせた。

 ……おいっ、なんだよその反応は。

 まさか――


「ふたりともなにか知ってるんでしょ? 答えてくださいよねぇ!?」

「…………」

「黙ってないで! シャナンが何処にいるのか教え――」

「どうしかたのか?」

「へ?」


 ガサガサッ、と茂みをかき分ける音がしたかと思えば、腰に剣をぶら下げたシャナンがひょっこり顔を覗かせた。

 そこで、コボルトの死体を睨み、大体の事情を察したようだが、こちらを見た途端に、怪訝な表情を引っ込めて「なんでオマエがここにいるんだ!?」と、仰天していた。

 …………。




「こっちの台詞だこのバッカ主ーっ!!」


 俺はあんぐりと口を開いてるシャナンに突進すると、その首根っこを捕まえて引き摺り倒した。そして、顔面や胴体もお構いなしに握り拳を振り下ろしてやる。


「ちょ、オマエ、殴るのは、止めっ!?」

「うっさい!」


 この、人に心配かけて、阿呆、バカっ、マヌケがっ!?

 と、シャナンを殴りつけてたら、ふたりに後ろから引っ張られた。ちょ、オマエら人の身体に触んなっ!


「お、オマエいくらなんでも殴り過ぎだって!」

「い、いいから落ち着いて」

「うっさい! 貴方方もこんなとこで、なにしてくれてんですかっ!?」

「……なにって、ぼ、冒険者の仕事に決まってんだろ!」

「なぁにが冒険者の仕事ですかっ! そこで尻餅ついて腰ぬかしてたくせに!」


 と、俺はそばかすの少年に激昂をしたら、相手は顔を真っ赤にした。


「う、うっせぇな! アレは……お、驚いただけだよ!」

「驚いたじゃないっての! ヘタしたらふたりとも死んでたんですよ!?」


 と、俺が被りを振って叫ぶと、そばかすの少年はぐっと言葉を詰まらせた。


「こんなの遊び感覚でやることじゃないことぐらいわかるでしょ!? 小金を稼ぐつもりなら、もっと他に仕事を選べばあるでしょうが! それをこんな危ない森なんかに入って、バッカじゃないの!?」


 ひと息にそう捲し立てると、思わず酸欠で頭がクラッとした。それに、シャナンが心配した素振りで手を差し伸べてきたが、手を払いのけた。俺は額を覆ったが、その向こうから小さく「悪かった」と、声がした。


「……オマエに心配をかけたことも、黙っていたこともすまないと思ってる。でも、これは必要なことだったんだ。もし、止められていても、危険なことにあっても、僕は同じことをする」

「はぁ!?」


 ふざけてんんですか、と怒声を浴びせようとしたが、


「すまない」


 と、声がした。振り返れば消えてしまいたいとばかりに青い顔をした大人しそうな少年が頭を下げていた。そばかすの少年が「ニコラ!」と、声を強めたが、止められた少年は小さく首を横に振った。


「ジャン、いいんだ。ボクがふたりを巻き込んだから、ちゃんと彼女に説明させて欲しい。……恥ずかしい話しだけど、キミの言う通りだ。実力もないのにこんなことしてバカだったと思う。でも、金が欲しいんだ。こうでもしないと、とてもお金が足りなくて……」


 二コラはぐすっ、と鼻を泣かすと、語尾が震えて俯いていた。ジャンはばつの悪そうに彼から視線を外した。


「……オレもこいつん家も、来年は妹が入学すんだよ。オレは取りあえずはひとりだけど、二コラの場合は後、三人も続くんだ。そうなったら、学費やら制服費用からなにまで、色々と金が必要で……でも、実入りの良い仕事なんざ、こういうのしかないわけよ。だからオレがシャナンに泣きついたんだ。前の剣術試験の結果を見て、ダンチなレベルだってのが、知ってたからさぁ、これならイケンじゃね? って」

「…………」


 それで人の良いシャナンがホイホイ付き合って、こんな危ない橋を渡った。と。

 ……悪いけど、そんな泣き言を語られても、腹の虫は収まらないわ。

 貧しい身の上には、共感も同情もするけど、他にいくらだって手立てがあるでしょう。わざわざウチの主を巻き込んで、それで死にかけて……バッカじゃないか。理解できないし、面倒も見きれないよ。


「そうですか事情はわかりました。貴方方がシャナン様を巻き込んだ、と。しかし、今回の痛い目を見てわかったでしょ? ……金輪際このようなふざけたお遊びはお辞めくださいませ」

「……おいっ、オレらがいつ遊んだっつってんだよ。てか、なんだよ侍女のくせに自分の主に暴言かましやがって」


 と、ジャンがねちねちと言ってきたのに「ハァ?」と、彼を睨んだ。さっき、だれ様に命を救われたってんでしょ、このおばかさんは。


「外野は黙ってていただけません? 貴方たちもさっきので十分に懲りたでしょ。お金を稼ぐつもりなら、もっと他に安全な方法はいくらでもあるんですから。シャナン様を妙なことに付き合わせるのはお辞めください」

「違うよ。僕は僕の意志で彼らに付き合ったんだ」

「……あっそ? 固い意志がおありならなにしてもいいと? その無思慮な行動の結果が、さっきの顛末じゃないんですか? ヘタしたらそこに転がってるのが、自分たちだったと想像できませんか。まさか、勇者様にはこんな依頼は楽勝だとでも言う気?」

「僕は至らない人間だってわかってる」


 シャナンは真顔のまま、そんな弱音を静かに淡々と告白をした。


「こんな危険な場所にオマエを引き摺りこんだのも、僕のせいだ。僕は勇者なんかには、程遠い。けど、だからって困ってる友人を見捨てられないんだ。困ってる人がいたら、その人の力になりたい。助けてあげたい」


 と、透き通るような真っすぐな目で、俺の眼を据えるように、シャナンは言った。それにばつの悪い思いで視線を外すと、馬乗りにしたシャナンから下りた。すると、俺の背中に「フレイ。そう思うことはダメなことか?」と追いかけてくる。

 ……ダメ。

 なんて言えるかっての。そういう無思慮に突っ走るキャラだ、ってわかってるから、私が歯止めになってんじゃないか。


「……力になりたいってんなら、他の方法があるでしょ。今度は危なくないことでなんとかしましょう。わたしも力になりますから」

「ありがとう」


 と、シャナンが優しく微笑んだ。

 ……べつにお礼なんかいらないっつの。ってか、俺をそんな目で見んなし!




「おい話は終わったか」

「は?」


 と、俺らがあんぐりと振り返れば、いい加減に待ちくたびれた、と言わんばかりにアイゼンが身体を預けてた木から身を起こした。


「ンなバカ話よりやることあんだろう。怪我もしてねぇんだから、さっさと穴を掘るのを手伝え」

「穴? ……ああ供養しませんとね」

「阿呆。てめえのペットじゃねぇだろ。他の魔物のエサにならねぇように、だ」

「なるほどなー」

「あ、その前に耳を取らないと。退治したっていう証しがないと報酬が」

「だな! こんな苦労してタダ働きなんて割に合わな過ぎるって」


 と、ジャンとニコラが揃って顔を緩めて言った。

 ……腰を抜かしていただけのくせにちゃっかりしてる。前世はちゃっかり八兵衛か?


「……な、なんだよその目はッ! 依頼を受けたのは俺たちだろっ!?」

「はいはい、もういいから手を動かして穴を掘ってくださいよ。また犬っころに襲われたくはありませんでしょ」

「お、おう。って、それ俺の剣だろっ!? スコップ代わりに使うんじゃねぇよ!!」


 ギャーギャー、うるさいなぁこいつ。いいから黙って穴を掘れってば。

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