LV107
パーティ会場にはいくつもの氷の彫像が置かれている。
それは暑さ除けのために据えられた物だが、パーティの熱気に煽られたように、すでに原型をとどめず、台座の上でぐしゃりとひしゃげてる。
まだまだ、熱気に満ちた宴のなかに、ポツンと置いてけぼりにされた私を哀れんでか、何人かの男子が「ぼ、僕とダンスを一緒に?」とどもりながら誘われたが、あいにく両手が料理で山盛りの皿で塞がってるので無理です。てか、男はおととい来やがれでございます。
そういったやり取りをウザったく思いつつ、何度となく続けつつ身を落ち着ける場所を捜していく。
もう腹もペコペコだし、この料理を思う存分に喰らいつきたい……!
だが、宴もたけなわなところで、ゆっくりしたいと思うお客が多いのか、目に付く座れる座椅子はほぼ満席。……くぅー、ビュッフェ形式だから、片手で摘まめるのが多いのに、欲張ったのが失敗か。
取り過ぎた挙句にお預けって我ながらバカ過ぎる……まさか両手に盛った料理をわんこ喰いするワケにはいかんしな。そんな所、ボギー様にでも見られたら「コラーッ!」と、そうそう。こんな風に叱られる。って、あら。
「もうやっと見つけた! どこ行ってたのよフレイ!」
「ボギー、にシャナン様も……あら、どうしたのです疲れた顔して」
ボギーとシャナンは、揃って上気した顔をして近寄ってきた。なにやら、不満げな顔ですがどうしたのです?
「ずっと、オマエを捜していたんだよ。まったく、ダンスを終えたら、どこにも姿が見当たらないし……
「まぁまあ、心配をおかけして」
と、料理皿でバランスを取りつつ、ぺこぺこ謝る。
しかし、だれにも探されぬ花よりも、だれかに探される花にこそ価値があるでしょう?――って、言ったらキザに過ぎるかしらん。
「見つかって良かった。また面倒事に巻き込まれたりしてたら事だしな……」
シャナン様ったらそんな。別れて一時間も経ってないのに、面倒に巻き込まれるなんて、それってどんなトラブルメーカーさんなんざましょ。オホホッ……。
「……その顔、またなにかやらかしたろ」
「いやいや、わたしはなにもしてないですって!」
ただちょっとペンダントをお返しに上がっただけなのに、この言われようはなぁに?
疲れているだろうおふたりのため、料理を見繕ってただけなのに!
私の善意が、どうしてこうすべて裏目に行くのかしらん?
「……ただ単に、思いつくまま取って両手が塞がっちゃった。てだけじゃない?」
フッ、さすがはボギーたん。私の行動パターンはお見通しね!
しかし、私は図星を的確に突かれた動揺をおくびにも出さず、シャンデリアを見上げていたら、ボギーは呆れたように溜息をついた。
「料理のことは置いといて。今度はフレイの番だから、上で踊ってきなさい」
「えーっ、いいですよぉ。さんざんボギーとは寮で踊ったし」
「なに寝ぼけてるのよ。お相手はあたしじゃなく、シャナン様と!」
「「え?」」
……コイツ、と? と、俺とシャナンは互いの顔を揃って覗き、ついで「そう!」と、深々と頷いたボギーを見た……や、どーして、俺らが仲良くダンスなんて。
「パーティにきて踊らないなんて、選択肢ある? それにフレイは「夏の思い出が~」っていつも騒いでるじゃないの……ねぇシャナン様もよろしいでしょう。フレイと踊ってあげてください!」
と、いつにもなくボギーがお願い! と、手を合わせて言うと、シャナンは戸惑った風に眉間にシワを寄せてた。どうします~? と、俺が顔を向けてたのに気づいてか、その身を少したじろがせ「ま、まぁ。一曲ぐらいなら」と、ボソッと言った。
「……マジですかソレ」
「マジです!」
……なんで、ボギーがそんな鼻息を荒くしてるのよ。
俺が渋々頷けば、えらく満足そうに、フーッと頬の熱を下げるように大きく嘆息した。ふん、夏の思い出か。それならいいけどね。
でも、それよか両手盛りの料理を片づけませんと、踊るのは無理ですね。
「あっ、とそうだった。じゃあシャナン様、少しお行儀が悪いですけど、フレイのお言葉に甘えて、ここで頂きましょうか」
「そうだな」
おいーっ! それ俺のローストビーフッ!?
ぐぬぬっ! なんということかっ! これじゃ、俺だけがお預けでしょうっ!
そんな殺生なことありますかっ!?
ど、どっちかひとつでいいからどうかひとつお皿を持ってくださいよぉっ!?
と、俺らがお皿の押し合い圧し合いをしてたら、
「シャナン様~!」
……今日は厄日かよ。と、振り返れば、テオドア一派が小走りにきてる後ろからにも、阿呆兄貴のジョシュアまでセットである。
……なんて、面倒な。
俺は落胆して首を垂れると「……もう、フレイがごはんに夢中になってるから!」と、ボギーは怒った風にギロッ、とこちらを軽く睨みすえて、やってきたテオドアたちには、侍女の仮面である無表情を取り繕った。
「ふぅ、やっと見つけましたわ。こんばんはシャナン様。今宵はとてもステキな姿ですわね……」
「……あぁ、テオドア様もステキな衣装で」
「ふふ、ありがとう。お久しぶりですがお元気そうようでなによりですワ」
と、ふたりで恒例のお世辞の投げ合い合戦だ。
夏休みに入ってから、その巻き舌ボイスも懐かしいけど、聞きたくもなかったな。
取り巻き一派も含めて、今日も賑やかしご苦労様です。その左右別々のコーラカラーのドレスとか、長い赤髪をゆるふわっと巻いてるお嬢様コーデとか、相変わらず派手仕様ですね。
「やぁシャナン君も久しぶりじゃないか。いつも妹が世話になってるのは聞いているよ。ハッハッハ、私もと君とは妙に近しく思えてね。本物の兄だと思って、私に頼ってくれて構わぬよ?」
「……はぁ」
……なにが、本物の兄だよ。
と、快活に笑うジョシュアに呆れていたら、ジョシュアは愛想笑いで顔が硬直しているシャナンの肩を抱くと、
「すまないが妹と一曲相手を頼めないかな。妹はシャイで、他の男子を誘うなんてハードルが高くてね。さりとて、壁掛けの花のように待ちぼうけをされるのも、兄と踊るというのも、体裁が悪いことはできないだろう?」
「まぁ、お兄様ったら……!」
テオドアはキャッ、と恥ずかしげにジョシュアの肩を小突き、阿呆兄貴はハッハッハ、と「じゃあ頼んだよ」と、シャナンにウィンクした。
……なにをやるか、と思いきや、兄妹で寒~い小芝居をやりやがって。
な~にがシャイな壁掛けの花よ。その化粧のごとく厚かましく獲物を捜し求める食虫花のくせに。俺が筆誅の口撃の加えてヤロウ、と身構えたら、
「いえ、それはお断り致します」
と、一歩前に出てお断りをいれたのはボギーだった。
え、ボギーたん?
「シャナン様はそこのフレイとダンスをする予定ですので。残念ですが、テオドア様とは出来かねます」
「侍女風情の無様な踊りなんてだれも見ないわよ」
と、テオドアがボギーに一瞥をくれるでもなく吐き捨てると、シャナンにゆるりと笑いかけてその腕を引いた――が、シャナンはその腕を外すと、テオドアは怪訝に視線を上げた。
「シャナン様?」
「すみませんがボギーの言う通りです。先に、フレイとやくそくをしておりますので」
「……侍女とのやくそくの方が、ワタクシのお願いよりも大事だというのです?」
「ハイ、僕もフレイと踊りたいと思っていましたから」
シャナンは言い含めるように、その眼を見つめて言えば、さしものテオドアも返答すらできずに、その言葉を噛みしめるように小さく頷いて身を引いた。
それに「まぁ、待ちたまえ」と、ジョシュアが、慌てた素振りで割って入ってきた。
「ウチのテオドアを後回しなど、そんな話があるかね。家同士の関係を考えてくれたまえよ君。そうだ! 君がウチの妹を相手してる間は、そこの侍女とはとくべつにこの私がダンスの相手を…………」
ダンスの相手を、ってな~に勝手に話進めてんだよ。こら。つーか、阿呆面をこっち向けたまま固まるなってば。おーい、生きてるか?
「…………美しい」
……ふつくしい?
俺のみならずテオドアまで怪訝に眉をひそめると、ジョシュアはなにをとちくるったか、その場に跪いて俺に手を差し伸べた。
「失礼、君の名はなんと仰るだろうかお嬢さん? よければ私に教えてくれないかな?」
「…………」
……このニヤケ面に飛び膝蹴りをお見舞いしてよろしいかしら?




