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LV105

「ねぇ、これでどう、メイクバッチリだと……思う?」

「……いや、なんというか、年寄り臭いっす」

「…………やっぱ、そう思う?」


 アァ、と、ボギーは悲嘆にくれた様子で、メイクしたての相好を崩した。

 ……プッ……ちょっと、女子の顔を見て笑うなんて、紳士としてあるまじき行為だが、その、顔がべたっと白塗りなのに、唇には紅差しすぎで……まるでオバQみたいなんは、勘弁して……プッ!?


「笑うなーッ! もう人が困ってるのにぃ、なにかアドバイスしてよ!?」

「普通にすればいいでしょ。わたしに仕上げてくれたみたいに。化粧なんてパパッて仕上げればよろしい。我々の若さとモチ肌を信用して」

「うぅううっ」


 と、手負いの獣のように、ボギーは涙目で姿見に向かった。



 我が物顔で空に上ってた太陽も陰り、いまは夕暮れの桃色の空。

 俺は青の無地のドレスと、ボギーは深緑色のドレス、と姫様から届けられたドレスへとそれぞれ着替えた。あとの仕上げはメイクだけという所で、ボギーがいつまでも納得いかないのか、かれこれ一時間は姿見に前のめり。

 ……や、ミランダ女史のメイク術をほぼほぼ実践してるらしいが、年齢以上に老けて見えるのはね。俺にやってくれた時みたく、適度な感じに仕上げればいいのに……。って、べつに俺はメイクなんていらないんだが。


 慌てながら化粧を落とすボギーから、視線を寮の窓外へと目を向けた。

 遠くの向こう、学院の正門付近から無数の灯影がちらついている。きっと今日のパーティへと参列する貴族が乗り付けてきた馬車灯の明かりだろう。彼らは和やかな話声を引き連れ、校舎の脇の道を北の方角へと歩いていってる。


「もうそろそろ行きませんと。準備はいい? ……うん? 前よりも断然、かわいく仕上がってるじゃないですか」

「……かわいく、じゃダメなの。キレイになりたいの!」

「……わたしに切れられても」


 褒め方が悪かったのか。

 でも、そんなブスッ、て顔をしかめたらキレイから余計遠ざかる気がしますが。

 ボギーに姫様からの借り物の靴を履かせてやり、その深緑色の花模様ドレスを整えた。それでも、まだ不安な様子で姿見を覗いてるが「大丈夫ですって!」と、笑いかけると、緊張しながらもようやく笑顔を見せてくれた。

 そして、俺を後ろ背に「……ファイト、あたし!」と、決意を固めてる……それはいいけど、今度はシャナンの前で、私の背中に隠れないでよ?




 ようやく準備が整い、いざ寮を出でん! と、俺たちは出発をした。

 向かうべきパーティ会場は、校舎の北に位置する離れである。

 日頃、ミランダ女史の授業に使っているだけあり、元から不釣り合いなほどに絢爛豪華な雰囲気だし、二階も解放すればざっと1000人は収容できるスペースもある。

 その上、離れと公園付近は三日前から立ち入り禁止にして、王城の関係者がパーティの準備に勤しんでいた。

 彼らも手慣れたもので、パーティの前日には、離れに面する公園にまでテーブルや椅子がズラーッと並べ終え、それだけでは飽き足らず、外灯にまで飾り付けに魔術の幻想的な蒼い灯火を納入していたのだ。

 俺らは、さすがプロのお手並み、とホワァ~、とその雰囲気に見惚れつつ離れへと向かった。


「うげっ、なんですかこの人の群れはッ!?」


 まだ、離れの入り口にも差し掛かってないのに、グラスを片手にして談笑にふける紳士淑女たち、それと生徒とその両親とに溢れていた……学院のサマーパーティがこんなお祭りめいた様相になるものなん?


「……OBなら参加できるって話しだから、まさか、王都近辺の貴族様方がここに集まってるとか、じゃない?」


 ……きっと、ソレな。

 しかし、どうしよう。シャナンとは漠然と「待ち合わせは離れで」とか、やくそくしてしまったが、こうも人が多いとわかんね。

 俺たちは、辺りをキョロキョロと見回したが、シャナンの姿がない。仕方なく、離れの大扉をくぐり抜けると、そこから絢爛たる光と音の洪水がブワーッ、と溢れてきた。


 いつもは静かで冷たさをも感じた離れは、内装をソックリ入れ変えたかのように彩りに満ちている。

 ふわぁ、と、軽く感嘆したボギーの手を引き、俺たちは二階から零れてくる楽団の音色に誘われるように、抜きぬけ階段を上がる。

 と、そこも老若男女問わずの人々が溢れていて、穏やかな音色に身を任せてはダンスに高じていた。


「スッげぇ、ですわね、これ……」

「うん、ウチのお母さんとか、おじい様にも見せてあげたかったな……」


 あぁっ、と見惚れてる場合じゃないな。と、ボギーはそこの二階を、俺は吹き抜けから、下の様子を探る。

 下は食事を楽しむサロンのようになっており、湖面に浮かぶ蓮の花のように、テーブルが並び、ここから涎垂れ流しな程、美味そうな料理が並んでる。おぉ、あれはさんざんお預けを喰らってきた、ビュッフェ形式ではないか。

 ……それに、アレはもしかして牛の丸焼き!?

 おぉ、なんと豪勢なっ!?


「ちょっと、フレイ!」

「へ? なに」

「だから、シャナン様がいたわよ。あそこの柱の陰!」


 そちらに目を移せば、と人だかりが開けた空間にシャナンが佇んでいた。

 黒のジャケットを身にまとい、軽く顔を俯いている。

 ……いや、あんな隅っこにいるのに、やけに目立つな。お仕着せの夜会服だろうに光沢に濡れ輝いていて、覗ける横顔も紛うことなくイケメン……つーか、いつも以上にキラキラ輝いて見えるが……まぁ、私の気のせいでしょう。


「もう、先に見つけたんだったら、呼んできてくださいよぉ」

「…………ヤダ、恥ずかしいもの」


 ……さっきまでのあの下準備はなんのためだったんですか!

 声掛けしないでいたら、また後悔するってのに。

 ハァ。

 ともかく指をもじもじさせてるボギーを捨て置いて「シャナン様~」と、呼びかける。と、向こうはややぎこちない仕草でこっちを振り向いた。お~い、こっち、こっち! と、手招きすると、シャナンはなぜかシンクロスイミングの選手入場のように、やや斜め上を向きつつこっちに歩いてくる……なんだよ、その不審者っぷりは。やはり、さっきまでのあのイケメンっぷりは、夏の夜の幻想であったか……。

 と、がっくり首をもたげたら肩に妙な威圧感がって、俺の背がまたもボギー様の隠れ場に!? ……ちょっと、ふたりともいい加減にしなさい!


「わたしを間に置いて、なに顔を背けあっててんですか」

「……う、うん」

「……ま、まぁ」

「…………しっかりしてよ」


 と、近場のシャナンの肩を小突いたら「わ、わかってる! ……その、ふたりとも似合ってイルゾ?」と、カタコト風に述べたった。ふん、あからさまなお世辞じゃ0点ですよ。つーか、なんで最後が疑問形なんだよ。顔を洗って出直してきなさい、と、落第を申し伝えようかと思ったが、肝心のボギーははにかんだように喜んでいる。

 ……ボギー様は、主教育がなますぎやしません? 私の時にはかわいい、じゃダメ! とか、言うてたのに。まぁ喜んでるなら、いいけどさぁ。


「それじゃ、わたし共のエスコート。お願いいたしますわね」


 と、軽いおふざけにボギーのお手をシャナンの腕に組ませたら、ふたりは盛大にきょどった。慌てて飛びのこうとしたので「あ、テオドア様がッ!?」と、叫んだ。


「……え、ほんと!?」

「シッ! 振り返らず……いま、すぐ後ろにいますから。あ、こっち来た……マズイですねぇ。あ、そうだ、ふたりともしばらく踊っていてください。さすがのテオドアもダンスを止めてきたりはしないでしょ」

「はあ!?」

「いいからいって!」


 と、その背をどついて踊り場へと進ませれば、ちょうど音楽の切れ目でスムーズに交代ができた。

 シャナンは目を丸くして俺に抗議するように口を開きかけたが、俯いていたボギーが、なにかを呟いたようで、身をすくっと固めた。

 すると、即座に軽やかな音楽が流れだしたのを機に、固まってたシャナンは小さく微笑してボギーの手を取ると、ふたりとも同じリズムで肩を揺らせる。

 俺は「がんばぇ~」と、手をプラプラと振って差し上げると、やがてふたりはダンスの輪に紛れていった。

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