LV104
なんだかんだ、と不満や心配事がありつつも充実した夏休みは過ぎていった。
日がな一日ゴロゴロしたり、ボギー様と口喧嘩したりと、相も変わらぬ日常模様だ。
うだるような暑さも、ボギー様におねだりをして魔術で作っていただける氷で、暑さを退けてるし、至って快適である。
……まぁ、変わりにボギー様には氷を使った脅しにあって、毎日が頭が上がらない生活の日々なんですが。
暑いから髪を切ーろうっ、としたら「止めなさい?」と、ボギー様が氷を片手に微笑していたり、猫の額のように狭い我が領土から、安息の地を天空に見出したり――と、部屋にハンモックを吊るそうとしたら、奪い取った鋏を手に「止めなさい?」と、ボギー様が微笑されたりした。
なかなか、スリリングな日常を送っていますが、これを「夏の思い出」の一頁に加えるのはちょっと躊躇するものがある。
でも、達観するワケじゃないけども、穏やかに過ぎる日々が一番っていうか、心配事は少ない方に越したことはないよね。ボギーも気を配っていたシャナンの挙動不審っぷりも「気のせいだったかな」と、最近じゃ話題にもならず、心配もひと段落ついたってところかしらん。
いまのとこ、唯一の思い出はプリシス先輩とやくそくをした街歩きだ。
以前、トーマスさんに連れられた市場をブラついたんだけど、以前に訪れなかった下町風情がある通りに行った。そこは、日頃から王都に暮らす民が、毎日の食材を仕入れてる通りで、野菜屋はもちろん、魚、肉、パンに雑貨、床屋、と様々な店が軒を連ねていた。
「まぁまぁ、庶民風情があっておもしろいですわねぇ……オホホッ」
と、長閑マダァムぶって、練り歩く遊びはなかなかに新鮮でした。
いや、我々も立派に庶民なんですが、目にするものすべてが高級でお上品な学院に放り込まれたせいで、こういう活気と喧騒に満ちた通りは久々でしたからね。
しかも、意外なことに下町のことを、非常に無口なプリシス先輩が熟知していて「あの通りには、美味い干物がある」「あそこのパン屋はぼったくり」とか、我々が逆に案内をされてしまった。
「いやはや、先輩は詳しいのですねぇ」
と、我々が素直に感心したら、プリシス先輩は小鼻を上にして得意気に「エッヘン」と、言ってたが……それ口に出すことかしらん。
「いったい、庶民が食べる甘味物はなにがあるんでしょーね?」
と、俺が何気に漏らした言葉を、その三角巾は聞き逃さずに、近くのお店からドライフルーツを仕入れてきてくれた。
「庶民が食べる甘味物といえばドライフルーツが多い」
と、切り干しにした紫色の物を、道端で顔を寄せ合って食する。
……なるほどな~。
素材から引き出される素朴な甘さ。これが、王都の下町の味、なのですね。
タイヘン美味しゅうございました。そして、タイヘン勉強させていただきました。
しかし、奢って貰ってなんですが、私は氷やらドライフルーツやら非常に安い代物で、頭が上がらない貸しを周りに作ってる気がする……。
その後も、色んな町グルメや、魔術ショップという、いかがわしい雰囲気満載のお店を冷やかしたりした。楽しいひと時でしたが、夕暮れを迎えて「もう、帰ろうかー」とした辺り、ボギー様が、
「あ、あたしのワンピがっ!?」
と、悲鳴を挙げた。
え、なになに!? と驚いたが、そのワンピの裾がべったりと赤い色に濡れてる。
……血、じゃないよね、それ?
「……うん、ベリーの汁」
って、ボギーは紙袋をつまんで体から遠ざけた。それ、練り歩きの途中フルーツ店で買ったベリーを詰めたやつね。包みの下から、ジュースが滴ってるけど、手に持って歩いて中で潰れたのが服についたのね。なんて、人騒がせな……。
「……あたしのワンピ、お気に入りだったのに」て、やはり、ドジッ娘属性持ちはひと味違いますね……。
そんな夏休みを横臥していた時、学院のパーティまで後一週間、となった頃、姫様からお手紙とともに荷物が届けられた。
それは前に、私共が試着していたドレスたち。届けてくれた王家の直属の侍女さんたちは静々と一礼をして帰っていったのだが、しかし、ほんとに姫様にお借りしちゃってもいいのかね?
「いいの、いいの! こんな時ばっかりはクリス様に大いに甘えてしまいましょうよ!」と、ボギーはいつになく厚かましいことを言って、笑顔で姿見の前でドレスを身にあててる。
……そう。ボギーたんもパーティでは、主役の花になりたいものなのね。
俺は浮かれるボギーを尻目に、姫様のお手紙を拝見したら「ぶしつけなお届けをしてすみません。ですが、ワタシはパーティで皆様と会えることを楽しみにしております」と、腰の低い暖かい文が綴られていた。
……なんと、私共風情にも、こんな暖かな対応をされるなんて。と、姫様のその優しさに触れて思わず王城の方に合掌をしてしまった。いまは、ここよりも東方の避暑地にいるって手紙に書いてあったっけね。
しかし、パーティかぁ。
……また、妙な波乱が起こらなければいいんだけども。




