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LV98

「おふたりとも、今日はようこそ、お越しいただきましたわ」

「ごきげんようクリス様」


 次の週末、クリス様のおやくそくをした通り、姫様のお部屋へと招かれた。

 招かれたお部屋に入ると、クリス様はわざわざ椅子からお立ちになられて、いっそ神々しい笑顔で出迎えてくれた。

 ボギー共々、お招きされたお礼とご挨拶を難なくこなしたが、内心ではガチガチに緊張したね。

 その招じ入れられた部屋は、日当たりもよくてフローラルな香りまでするし、なんたって向こうの壁際にある天蓋付きのベッドまでが遠い遠い。たぶんうちの寮部屋三つか四つは楽々入るよ……。

 いや、ここまで来るまでにも、寮に王家の馬車を乗り付けられたり、王城内を20分程を歩いたりと、その豪華さにふたりして絶句してきたが……今更ながら、俺らみたいな侍女風情が、こんなVIPのお友達をしていて大丈夫なんか、大いに不安だ。


「でも、こんだけ広い部屋があるって良いですねぇ。素直に羨ま~。てか、明日からでも、そこの隅っこを間借りしたい気分です」

「ねー。いまのフレイの領分をトイレ砂で埋めても、まだお釣りくるわよ?」

「だから猫じゃねぇから!」


「猫だったら可愛げがあったのにねぇ」って、残念がるなよ。つーか、私の髪色からして金色の猫ともなれば、尚早、猫又様であらせられるわよ。もっと、私に畏敬の思いを持って、崇め奉りたもうれ。


「その、散らかってるようでお恥ずかしいわ……こうして、人を招いたことはなかったから、如何しましょう、アルマ? まずはお茶でも……」

「いえ、クリス様がそのようなお気遣いなど……」

「そうですとも。散らかってるなんて、むしろ片付いてて、ステキなお部屋で。あの天井近くの吊り戸棚は、わたしのベッドに欲しいなぁ。なんて」

「ダメですよぉ。あれは、アルマの監視スポッ――」

「監視?」

「あ、いぃいえ!? そ、それより、まだ驚かれるのはお早いでございますですよ~」


 アルマはせかせかと、手を振ると隣の続きのドアをがちゃっと、開けた。

 げげ、部屋一面にドレスがっ!? まさかこれ全部が姫様の持ち衣装なの?

 ……ひぃ、ふぅ、みぃ。って眼で数えるのが無理な程、ドレスで埋め尽くされている。それに乙女スイッチがONしたのか、ボギーははしゃいだ声をして、


「スッゴーイ! これ、全部が試せるんだ。もう一日掛かりでも試せないわね。こうなったら、早速フレイの衣装を見繕わないと。さぁ、フレイ、いますぐ脱いで!」


 ……ヤダ。

 と、ぷいっとソッポを向いて渋ってみたけど、当然そんな言い分は怖い眼をしたお姉さまには通じず、その場で裸にひん剥かれた。すると、私の服に手をかけていた皆さんが、なぜか感嘆したように呻いて、その手を止めた。え、なに?


「……いえ、フレイ様はキレーですねぇ。出るとこは出て減っこむとこは減って」

「……理想的な体系ですね」

「……毎日、あれだけ食べててどーしてこんな体形が維持できるワケ」


 ……ちょっと、あの皆さん? そんな羨望の眼差しで見られても、気恥ずかしいというか、あのですね。人の身体だと思って、うなじとかお腹回りとかペタペタと触らないでくださる?


「でも、フレイ様にはどれがお似合いになりまするでしょうか~」

「クリス様のお見立ては如何です?」

「……ワタシ? そう、ですね、フレイ様は健康的に日焼けしてるから、暖色系はあまり適さないでしょうから……まずは清潔感のあるホワイトで」

「ワァ、姫様は王道を行きますね」

「ふふっ、姫様こそホワイトがお似合いなのですよぉ。清純な雰囲気は、姫様にしか出せない。と、王城の侍女たちもよくよく評判なのです」

「ワタシが、ですか?」

「それわかる~! でも、フレイの場合は、儚い系の落ち着いた色だと、逆に目立たなくなるかも……逆にブラックとかは如何でしょう? この艶やかな衣装に、唇にグロスを塗って大人の雰囲気を演出してとかおもしろくない?………………」


 ……キャッキャ、と騒いで楽しそうですね。こちとら、パッパッと衣装を身体に当てられるだけなのに。いくら夏だといっても半裸待機は寒みぃんだけど……。

 なんだか、ぼくのかんがえたサイキョウのすらいむ。みたいに、手足を生やしたらいいかも! って、夢想をされても、現実の私に似合うのはやはり、ドレスではなくフンドシでは?

 私は沈痛の思いで騒いでるお三方を眺めていたら、皆さんはキラキラとときめいたお顔で突如振り向き「ハイ、これを着て」と、白のドレスを手渡された。

 ……マジかよ。


「きゃーっ! やっぱ姫様の見立ては良いですよぉ。フレイ様の雰囲気に似合うー!」


 …………なんで、私はいまこのような仕打ちを受けているの?

 私がフリフリのドレスを着せられなきゃいけないって。どんな罪を犯したっていうの?


「ほらフレイも顔上げて、姿見を見てよ!」

「やっぱり、フレイ様にはあまりお気に召さなかったのですか?」

「そ、そんなことありませんですわぁ! まぁ、なぁんてステキな衣装デショウ!」


 …………泣きたい。




 あーだ、こーだと、相談しながら二時間がかりで選ばれた。それはシルクのレース編みの青地のイブニングドレスで、スカート丈は白。

 これを選んだ皆さんの言い分をまとめると「フレイはせっかく細くて筋肉質だから、その肉体美を見せるべく、身体のラインがしっかり見える風にしたの」だそうだ。

 ……まぁ、たしかに身体にフィットして、袖がないのは助かるかな。料理のソースをつける心配がないものね。でも、鎖骨まで見せるのは、出しすぎな気が……って、そんな台詞を吐こうものなら、あたしたちの見立てのなにが気に入らない? と、詰められるのは明々白々なんで、しょーがないんだが。

 さんざん悩んでいたボギーも、同じぐらい時間をかけて、色違いの同じイブニングの、色合いはグリーンに決めたようだ。

「あたしってば、似合うかも!」と、上から羽織ったシフォンのレースを、両手でかき抱くようにして、キャッキャウフフしてたが、まぁ、いんじゃないの。

 本人は白か赤を選びたがっていたけど、姫様とかぶるし赤はテオドア一派のシンボルカラーなので、泣く泣く諦めたみたい。

 ……ハァ。それにしても、この苦行がようやくに終わったのね。と、お茶休憩を挟んで、ぐでっ、と気落ちしていたら、ボギーや姫様たちは、衣装の話から今度は身に着けるアクセサリーのコーデ相談に夢中だ。

 休憩を終えると、今度の標的は私の髪型から化粧に話題を移して、姫様が直々に私の髪をセットしてくれてる。

 ……誠に畏れおおいことですが、シャナンの朝稽古並みに、精神を削られるんですが、ソレは。もう、勘弁してください。


「いいえ、ドレスだけ整えても、パーティでは壁のお花になりかねませんから。化粧もアクセも、しっかり合わせないと」

「……ですが、わたしは髪はセットするまでもなく、短いし邪魔にもなりませんから。なんのために、なんのためにわざわざ髪をアップするのです?」

「美のためです」


 そうですか。

 ガクッ、と首が折れたら「じっとしてください」と、優しく叱られた。

 あい。

 セットし終わった後に現れた、姿見の自分は、かわいい系というよりむしろ美人系?

 元々、短い髪だけども、襟足もアップにもなれ、うなじ部分が露わになっては、余計にふつくしい……って、自分に見惚れてどうするのよ。

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