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LV94

 プリシス先輩を悩ますその主をひとめ拝見したくて、放課後を彼女の主様捜しに付き合うことにした。

 よく昼寝されてるという公園のベンチや、立ち入り禁止されてる屋上を見てまわったが、お目当ての人影はなかった。

 むしろ、他の生徒たちがお休みしてるとこに立ち入ったりして、無駄に怪訝な目で見られるわ、顰蹙を買うわ、とタイヘンな骨折り損である。

 ……ネコミミ先輩、日頃からこんなタイヘンな捜索をしておったのね。


「ンー、次はどこ行きましょうか。あらかた捜しましたよね」

「図書室はまだじゃない? それとも公園とか」


 ……そっちまで広げちゃう?

 湖畔とか公園なんて広すぎるから、しらみつぶしにして捜してたら夜になるけど。


「……お付き合いしていただいておきながら、心苦しいのですが今日はもうよろしいです。随分経ちましたから、きっとご自宅に帰られてるかもしれませんので」

「でも、帰っておられるかわからないのは、不安でしょ?」

「そうそう。ヘンな遠慮しないでも、最後まで付き合いますよ。ネコミミ先輩のためですから」

「あ、いえ。その点はご心配には及びません。自宅は一緒でございますから」


 自宅は一緒?


「て、えっ!? 主様と同棲してんの!?」

「それがなにか?」


 ……進んでおられるな。

 ヤ、隣からはいっそ輝かしい物を見るような羨望の眼差しが。ヤーね、ボギーたんってば。そんなに羨ましがらなくても、すでに清純な同棲交友を私としてるじゃないの!



 ともあれ、俺たちは捜索を打ち切り、鞄を取りに校舎へと戻ろうとしたら、


「ねぇ、見てあの人!?」


 と、ふたりの侍女生徒が、俺たちを指さしてきた。

 ン? なにか用? と、振り返ったら、彼女たちは泡を喰ったように互いの肩を叩いて、俺の視線から逃れるように走ってった。

 ……はぁ。まーだ、俺っちは怖がられてるのかなぁ。

 アルマから聞いたけど、俺に関してはテオドア一派からお達しが出てるらしくて、そのせいで周りの子たちには話しかけてこないみたいらしいのよね。シャナンの学院デビューのみならず、この俺様の輝ける生活をも破壊するとは……。つくづく罪深いヤツ!


「ちぇっ、もう行きましょうよ――て、どうしましたプリシス先輩?」

「……あの、もう私と一緒に行動するのは、最後にしませんか」


 え、突然なに言ってるんですか? まさか、友達を解消したいってこと?

 ……そりゃそうか。先輩も俺と付き合っていたら、評判が悪くなるもんね。


「いえ、その逆でございます。前から思っていたのですが、私などのような獣人と一緒にいては、皆様方の評価にも関わるかと」


 と、プリシス先輩はいつもの無感動な口調で、そんなことを言った。


「……獣人だから、って。そんなに反発を買うこと? 気のせいじゃないの」

「いいえ、この学院におられる獣人は私独り。そしてこの学院の生徒では、歴代初めてのことだ。と、前に生徒様から教えられました」


 ……ちっ、それ「オマエみたいなんが生徒だなんて前代未聞だ!」みたく、非道い言いがかりつけられたってこと? あ~、マジムカつくなそれ。


「ふん。わたしたちがいまさらそんな評判なんて気にしませんよ!」

「……いえ、それでは皆様の将来が……」

「将来もなにも、どーせ王城なんかに興味も未練もございませんから」


 むしろ、あまりお近づきにはなりたくはない。

 というか、縁切りを申し出たいくらいだが勇者の宝剣が……クー、つくづく邪魔だな、アレ! もし、あれが原因で私の首が飛ばされたりしたら呪いの宝剣として甦り、かの持ち主が指のささくれに悩まされるよう祟ってやるわい!


「フレイの言う通りですって。むしろあぁいう風に後ろ指差されるのって、もうひとりの問題児にあるかもしれないんだし?」


 ……ボギーたん。それはいったいだれのことかしら?

 ふん、まぁ私も気にいられたいなんて、思っていたけどもう諦めましたわ。

 初めは気に入られようと、貴族生徒や侍従とか関係なくのべつ幕なしに声掛けしたけど「え、あ、あの!?」と、多いに戸惑われたり、さっきみたく逃げられたりして、自分で心に拭い難いトラウマを作るだけでした。

 あ~あ、ダメね私ったら。きっとシティのナウなヤングたちにバカ受けされようと、狙いすぎたのが失敗よね。背伸びしてトレンディさを醸し出そうとしたって、無理した自分の滑稽な姿が他人からは透けて見えるものよ。むしろ、自分ってものを大事にしなくっちゃ!


「ね、いいでしょべつに……それとも、わたしたちと話すのはつまらない?」

「いいえ、それは楽しい、です」

「なら、いままで通り! ときおり会ってお茶して駄弁りましょうよ!」


 プリシス先輩は、ボギーの笑顔をしげしげと眺めるとやがて瞑目して小さく頷いた。

 よし! さ、もう遅いから帰ろう?





「獣人かぁ。なんだか以外な盲点というか、言われてみればこの学院にはプリシス先輩、以外、ひとりもおられないですよね……そんな、差別的な扱いを受けてるとは思わなかったなぁ」

「街に出てみれば獣人も普通に暮らしてるものね。そういうのって目につかないから」


 ……だよな。たぶん名家の出、だからこの程度の反発ですんでるのかもね。しかし、あんなにかわゆい先輩が俺と同じようにハブられるなんて。許しがたい所業だわ!


「ま、フレイの場合はひと当たりの良さと、変人度合いを抑えておけばちゃんと話をしてくれる相手ができるってわかったでしょ? 後は、そーねぇ~。いい感じに髪が伸びてきたから、もっと伸ばしていこっか」


 ……私が髪を切ろうとしても、貴女が妨害してくんでしょうが。

 俺はボギーに後ろ髪を引かれながら、女子寮へと帰り着いた。すると、そこの門前には女教諭さんと、壮年の男が佇んでいた。

 ……いったいなにやったの? と、いうボギーの半眼を軽やかにスルーして「なにか用ですか?」と、俺は優等生のように微笑んで機先を制した。


「あぁ、よかった。ローウェル家の方はもう帰ったって聞いて、ちょうど訪ねに来た所なのよ。こちらは女王陛下のクィーンガード様でいらして、フレイさんに用事があるそうなの……」


 と、寮の門柱に背を預けた壮年の男が、ムクリとこちらに鋭い一瞥を投げてくる。

 ……うん、腰に獲物を差してるし先生には醸し出されぬ雰囲気だな。

 しかし、一応ここは男子禁制のはずなんですがね。


「えぇ、でもぜひに陛下からのお話しがあるの一点張りだからって……あ、それじゃあ、後は……」と、女教諭は、紹介するだけして去って行った。


「ど、どちらさまですか。いったいフレイになんの用事です?」


 すっかり警戒しきったボギーが男に喰ってかかるが、男はソレを無視して「陛下がオマエをお呼びだ」と、俺を指さして言った。


「だから、その陛下がお呼びって。いきなりなんなんですかいったい!」

「いきなりではない。前にも校舎で会った」


 と、男は憮然として言い放った。あ、どっかで見た気がすると思ったら、入学式の時に校舎で会いましたね。あの時は無礼討ちされかかったけど、そっかあの護衛の……。と、俺が合点がいったのをボギーはめざとく気づいてか、俺の肩を軽く小突いた。


(……ちょっと、貴女はどういう付き合いしてるのよ!)

「えぇ? わたしに言われても。その、陛下が、なんでわたしなんかをお呼びで?」

「知らぬ。オレは連れてくるように仰せつかっただけだ」


 えー、いきなり説明もなく王城に出向せよ、って、それありなんですか? 仮にも学生の身の上なんですから、勉強に忙し――って、ハイハイ行きますから、そんなに凶悪に睨まないでって。


「……ほんとに行くの?」

「大丈夫ですよ。少し話をつけてくるだけだから」

「……だから、なんでフレイがそんなことできるのよ! 相手は女王陛下なんでしょ。なにか、また危険なこと……」

「おい、早くしないか」

「あ、ハイハイ。心配しないでってば。きっと大したことないから、ね?」


 こちらの袖を掴んだまま、不安げな顔をしてるボギーに安心させるように笑って別れた。そして、男に伴われた校門の前に赴くと、馬車が待っていた。それに乗ると間もなく馬車は王城へと向かっていった。


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