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LV93

「なにそれ? お貴族様の間じゃ、あたしたち鑑賞品みたいに思われてたの!?」

「ボギー様は知らなかったのでありますか~? 上級貴族様方のなかには、侍従を着飾っては評判を買って、みたいな? そんな奇抜な趣味にふける方々が多いのでございますですよ」

「……知らなかった」


 ボギーはどんぐり眼を見開いて唖然としていた。

 ……いや、私も右に同じく。

 昼休みを迎えたばかりの侍従用の食堂にて、ときおり妙な敬語交じりに喋るアルマと、黙然とパンをちぎってるネコミミ先輩こと、プリシスと、久しぶりのランチ。

 皆は、それぞれ名家だから、抜け出すこともままならない程忙しいんだけど今日はレオナールの一件もあって、無理言って集まってもらったのだ。

 いや、最近はろくに会えていなかったけど、友達のピンチ(私)に駆けつけてくれるなんて……さすが心の友だわ!


「レオナール様も昔からパーティで気に入った侍女がいたら「譲れ~」と、強引に迫っておられたらしいです」

「あのマッシュルームカットといい、相当に趣味の悪いですね」

「そうでもないですよぉ。主様方も、だれかにお世話をされるんだったら、白磁のような美しいお肌のお姉さまや、キラキラとした王子様のような……あぁ、そんな方々と一緒に、わたしもお仕事したいです」

「……へぇ」


 この娘、見た目をしっかと裏切らずミーハーなのね。

 ……しっかし、貴族たちにそんな妙な生態を持ってる輩がいるとはねぇ。いや、アルマが教えてくれたおかげで、レオナールがあんな勧誘を持ち掛けてきたか、よくわかったよ。

 オマエの侍女を寄越せ! なんて高圧的にきたから、てっきりローウェル家への雪辱? と、思ってたけど復讐にしては、私が歓待されるだけだし、持参金まで渡すとか言うてたから。妙だと思ったのよね。

 でも、アレは単純な性格だから、前の一件について持ち出してきたりして、ねちっこく絡まれるかと思ったんだがな……いや、あの調子じゃ辺境伯とのいざこざを知らない可能性もありうるな。ま、そりゃそうよね。「お土産を女王陛下に渡しそびれました」なんて、赤ッ恥を息子にまでは知られたくないだろうから、必死にひた隠しして当然だわ。


「教えてくれてありがとねアルマ。あの後、シャナン様も相当に機嫌悪くなっちゃって、皆して心配したの。フレイもこんな性格だけど、一応乙女だからあたしも心配で……」

「いいえ~。お役に立ててなによりですです」


 ちょっと、待って。

 ばあちゃんの知恵袋みたいに教えてくれたのは感謝してるけど、こんな”性格”って、どういう意味よ? てか乙女じゃねぇから。


「わたしも、当事者に話を聞けてよかったでございますですよぉ。なんたって、いま学院で一番にホットな話題は、フレイさんがレオナール様から「俺の侍女になれ!」っと迫られたことですからね!」

「いや、それもちょっと待って」


 無礼なバカを語り尽くしていただけなのに、どうして語尾が跳ね上がる余地があるの?迫られた、の意味合いがぜんっぜん違くない?


「けれど向こうがそういう意味で迫ってきた、って可能性が無きにしも非ずではございませんでしょうか?」

「…………」


 ……そういった可能性は考えもしなかったな。


「いやぁ、ないでしょそれー。向こうはこっちの顔なんて覚えてなかったんだし」

「だからそれがフリですよ。つい好きな女子の前に来たら……っていうか?」


 アルマは「キャッ!」と、とある御殿に住むネズミが現れたように喜んだ。

 この娘、見た目を上回る程かなりのミーハーらしい。

 ……しかし、照れ隠しねぇ。

 そんなかわいげのある輩だとは思えなかったけどなぁ。いずれにしてもあんな俺様アプローチは、マジないけど。アレでぐらってなびく女子がいたら、両肩をがたがたさせつつ「目を覚ませ!」と、雪山遭難ごっこして起こしてあげる。


「ボギーはどう思います?」

「なんであたしに聞くのよ」

「乙女センサーに察知がデキておられるかなぁ、と思って」

「あはは、おもしろーい」


 ……すみませんでした。その固めた拳を解いてください。


「ふん……でもあたしの感想だと、シロね。あれは恋する男子って目つきでもなかったわ。もっと、あの娘に会えて、嬉しい! みたいな、ときめいた感じが欠片もなかったもの」

「……やっぱり察知してんじゃないですかっ!」

「プリシス様はどう思われますか?」

「さぁ?」


 アルマが、話しの匙を向けたが、プリシス先輩はまぶたを閉じつつぬるい茶を啜って言うたった。

 ……ネコミミ様。そんな興味ないって顔しないで……アルマが、困ってるよ。


「で、あ、だ、だったら、その、プリシス様ご自身はどうなんですかぁ!? き、気になる男子とかいたりしちゃったり?」

「それならおります。ウチの主です」

「ぇ、ほんとに!? それは、それは爆弾発言というか、熱愛発言ッ!?」


 アルマは思わぬ拾い物に興奮したように身を乗り出した。ボギーも、興味津々といったように、耳をダンボにしてる。やっぱ乙女じゃないのよ。


「えぇ、アシュトン様は、いま何処におられるのか心配で……」

「……ですか」


 単なる、迷子扱いですか。

 場の空気が瞬間冷却されたし、ま、そろそろ潮時かね。

 俺はにっこり微笑むと、落ち込んでるるアルマに「それじゃあ本題に入りましょうか」と、切り出した。


「本題?」

「やだなぁ決まってるじゃないですか。次は姫様のこ・い・のお話しの番ですよ」


 と、言うとアルマは急に青い顔になった。


「そ、それは、その固く口止めされていましてですね!」

「そうなんだ。でも~、まさか人の話を根掘り葉掘り聞き出しておいて、肝心なところは話さない。な~んてことはありませんですよねぇ?」


 わたわたと腕を振るアルマに私は下司――否、アリ地獄にはまった獲物を観察する純真な幼子のように微笑んだ。


「ね。こういう時だけかわいく笑うんだから。それだからフレイは怖がられんのよ」

「言えておりますね」


 ほっといてちょうだい。

 私だってただの野次馬根性で聞き出すつもりはないんよ。

 貴族内で、もしシャナンに敵対行動を取ってきたときに、相手がだれか検討もつかないんじゃ困るだろ。最低でもだれが姫様に懸想してるかわかれば、それが手掛かりにもなるだろうし。

 まぁ、こんなこと正直には言えんから誤解してくれたままで結構ですが。

 ――って、ダメダメ。アルマちゃんってばもう、さりげなく遁走しようとしないでよ。ね、リラックスして、すべて吐けば楽~になるから。


「ひぃ、は、話すもなにも、姫様は、その……そういった色恋には、わたし共にも、話をされる機会はないでございますですよぉ!」

「や、落ち着いて。敬語がヘンになってるよ?」

「いつも、こうでございます!?」

「……ショーがないなぁ。姫様にはどのようなお方がアプローチされているのです?」

「……それは、その、色々な方で」

「具体名」

「うぅぅ…………絶対。ぜぇったいナイショにしておいてくださいね!」


 快く頷くと、俺たちはぐっと卓子の上に身を寄せた。アルマは緊張した震え声でささやくように語りだした。


「あ、あの姫様には数多くの生徒が出入りしてるんで、あくまでもあくまでも、わ、わたしの見た上でのお話しとして、あ、あとは秘密に」

「大丈夫ですって、ここにいるのは口が堅い人ばかりですし」

「そのぉ実は……軍務卿や、その内務卿のご子息様がご熱心に通われておりましてです」

「へぇ、軍務内務って、それぞれ国の建国者たちですよね。ハミルトン家やルクレールの方々です」

「二親ともに王党派の大物でございます」


 ……あたし言っちゃった。と気落ちしてるアルマに代わって、プリシスがサラッと割り込んできた。

 赤毛の改造制服のジョシュアと、あの片眼鏡の神経質っぽいヘンリー君か。

 そっか、あのふたりは王党派、って部類なんだっけね。連中も共和派とはソリがあわないってだけで、陛下に全幅の忠誠を誓ってもいないし、いつでも隙あらば、ってやつ?


「え、ええ……ご両名とも、二回生でございますですから。学院に残られるのも、後一年と半年しかございませんでしょう。だから、最近では毎日のように花束を自ら持参して教室にまでやってきてまして」

「……うわ、一回生に対して連日の詣。そりゃしつこい!」


 と、ボギーはだれかの特定の妹を思い出したかのように、げんなりと呻いた。


「学院にいられる時間も少ないし、躊躇してる暇もないっと――で、他にネタは?」

「うえ、ね、ネタ……え、えっと、そのぉ! そ、そのいつもお二人とも花束や贈り物であたしたちの部屋にまでこーんな大荷物になっておりましてでございましてですね!」


 ……やけくそ気味に打ち明け話を語ってる興奮からか、さらに妙な敬語がこんがらがってるよ。


「それだけならまだいいのですが、そのぉふたりともじつに情熱的でございましてですね。……いつも、顔をあわすたびにどことなく喧嘩を始めてしまって」


 はぁ。連日下級生の下に通いづめて、前のぱーちぃみたいに喧嘩してるのか。

 かっこ悪すぎやしないか……どちらも恋する以前の問題でしょ、それ。


「で、姫様はそのどちらかにご執心なのですか」

「まさか! あ、いえ、……その、贈り物にはいつも感謝の言葉をお送りされておりますですけど、その時以外に姫様からふたりのことなんておあがりになられませんです」

「ふーん。まあ、妥当な判断ですよね」


 姫様もあの聡明な陛下の血を引いてるんだし、そんなあからさまなハズレを引くような人じゃないか。


「じゃあ、姫様に想い人はおられない、と?」

「うえっ!? は、はい。それはもうございませんです」

「……その感じなにかありますね」

「い、いいえっ、もうこれ以上はぜぇっったいに、喋りませんからねっ!」


 ちっ、さすがにもう突っ込めないか。

 ……まぁいい、なかなか参考になるお話が聞けて、有意義な時間でしたわ。てか、アルマ涙目になってない? そんな落ち込まないで、ここにおられる方は皆、口が固いから大丈夫。まぁ、どこかに漏れても保証も尻拭いもできかねますが。


「根掘り葉掘り聞いちゃって、可哀想に……まったく、フレイってば」

「行儀がよろしくございませんね」

「……いや、貴女たちもしっかり聞いてたじゃないですか!」

「シッ、お、お声が大きいですよぉ……と、ともんかく、絶対にぜっったいにナイショにしておいてくださいね!」


 と、アルマは頼みますからぁ、と、全身で表現をして哀願すると、その場から逃げ出すように、サッと走っていった。

 ……うん、あれだけ念押しをされちゃうと、逆に喋りたくなっちゃうんだけどなぁ。や、言わないけどね?

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