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エスカドス戦記  作者: ひび割れた埴輪
盗賊騎士
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7 接触

 すっかり俺とマイ天使リムルとの激イチャラブトークの回想に浸ってしまった。


 話を仕事に戻そう。


 三か月前、アルスの部下となったばかりの俺は、じいさんから紹介されていた盗賊宿の一つだという場所へと顔を出すことにした。盗賊宿とは別に宿屋に限らず、盗賊達が仲間内で連絡を取る際のアジトに使われる建物のことをこう呼ぶ。ただアジトとも呼ぶことも多い。

 多くの場合何か商売をしており、盗賊や盗賊上りが店員を勤めている。例の仮業を兼ねているということだ。


 俺が訪れたところは、煙草やら気持ちよくなれるタイプのお薬を扱う店を営んでおり、70歳くらいの老爺が店番をしていた。

 後で聞くところによると一応全て合法の品らしい。まぁ副業で捕まってたら元も子もないからな。

 でも店の休憩スペースでトリップしてる人何回も見るんだけど……、それって法の意味あんの?


 じいさんの知り合いを見つけて話しかけるどころか、そんな店に入っていくというのは激しく勇気がいった。というか出来なかった。

 できなかったけれど近くまでいったらいきなり向こうからそれらしい人が話しかけてきた。

 開口一番、


「お、お前さんもしかしてお頭と若頭の息子さんか!?

 いやーやっぱり来たか。こんなかわいい顔しててもやっぱり蛙の子は蛙だなぁ!

 さ、さ、きたねぇとこだが入っておくんなまし。

 おうい、おやっさん、すごい人がきたよ! はやく茶でもいれておくれや!」


 この歓待である。

 ちなみにこの間俺はまだ一言もしゃべってはいない。まぁ話が早くて助かるといえば助かるのだが。


「む、む。確かに、まさしくお頭のお孫さんに違いない。

 髪の色は違うけど、若かりし日のお頭や若頭と瓜二つだわぇ。よう来てくださったねぇ。久しぶりに、うれしいことがあった思いだよ。

 さ、クメさん、こんなところじゃいけない。どこか店屋にいこうよ。

 お若いからねぇ、アンテオでいいんじゃないか」


 下へもおかぬもてなしっぷりだ。

 こんなに無邪気に歓迎されると何もしないうちから申し訳なくなってしまう。

 ああやっぱり気が重い。ていうかこんなに人がいい俺には向いてねぇよこの仕事……。もっと僕の才能を生かしてくれる会社がとこかにあると思うんです!


 流れでアンテオとやらに連れられていき、彼らと話をする。

 ちなみに、このアンテオという店は堅気の喫茶店っぽい感じの店だが、間取りがいいとかで密談などで盗賊達御用達なのだとか。人気メニューはハンバーガーがメインのハッピーセット。


 この二人、先に俺に話かけてきた方がクメイト、通称クメさん。店番をしていた爺さんのほうがおやっさんことボウセンという。姓は知らないし本名かも定かではない。

 両者ともじいさんや親父が現役時代ともに仕事をすることが多かった仲間なのだという。ていうか舎弟?

 ボウセンの方は既に半ば以上一線から身を引き店番に収まっているが、クメイトの方はまだまだ現役だそうだ。勿論彼はじいさんから聞いていた通り本人たちのいう本格派の盗賊で、仕事は一切の血を流さず金持ちのみを標的に行っている。


 そしてじいさんとは面識がないが、その場に居合わせた賊仲間がもう一人。


「クメ、あんた何昼間っからさわいでんの。ボウセンじいちゃんまで一緒になって。

 そいつ誰よ、見たことない顔だけど、もしかして新入り?」

「馬鹿、リッ子お前失礼なことをいうな。

 新入りには違いないが、この人は伝説のミドファお頭の忘れ形見、盗賊の中の盗賊の血を引く由緒正しい盗賊の卵ソラ様だ。

 ソラ様は今まで堅気で生きてこられたから、しばらくはお頭の最後の申し付け通りお前と一緒に俺の下で勉強していただく形にはなるが、お前みたいなポッと出のはねっ返りたぁわけが違う。

 次期に盗賊を束ねられるに違いない方だ。おまえもちゃんと挨拶して、覚えていただけ!」


 伝説らしい。そして俺の知らないところで彼らの中で俺の株高が留まるところを知らない。


「知らないわよ、そんな変な名前のお頭。

 それにクメの下で働くってなら私の弟弟子じゃない。そっちが挨拶するのが筋でしょ。

 ねぇあんた、ソラって名前は今聞いたけど、あんた何なの? 歳はいくつ?」


 まあ普通はこういう反応だろうな。その方がこちらとしてもありがたい。しかし、あんた何という質問はなかなか高度だな。まさか密偵ですというわけにもいかんし。


「14だ。えーと、俺は、」

「ふーん年下か。あたしはリッシュ。16よ。クメとは2年くらい一緒にやってるけど、あたしは主に引込役をやってるわ。そのために副業はメイドかアッチの方ね。

 よかったらあんたもどう?金貨10枚で相手したげるよ?」


 アッチってドッチの方なんですかねぇ。僕子供だから難しいことワカラナイよ。

 ていうか高ぇよ。相手する気ないじゃん。

 何、こんなにかっこいい俺のこと嫌いなの? それとも超好きの裏返しなの? 意外とピュアなの?


「馬鹿、お前、いきなり若様に手ぇだそうとは何事だ! それにミドファお頭のことを知らないとは、俺の下で何年やってんだ。

 ミドファお頭のお(ツトメ)はなぁ、豪快にして緻密、どんな難航不落の屋敷でも影のごとくに入り込み、煙のように消え失せる。それでいて一滴の血も流したことがねぇときた。

 そうして得た金を気前よく、俺らのような下々へまでお配りなさる気前のよさ。あれぞ盗賊の鏡っちゅうもんだ。

 こズルく金かき集めてる悪いのの枕元に、お頭の旗頭である煙のような音符のマークが描かれた朝には盗賊だけじゃねぇ、都中の庶民が喝采をあげたもんだ。

 そうして最後まで騎士どもの眼をかいくぐりお縄を頂戴することなく、この間布団の上で大往生をとげてみせた、まさに伝説の存在よ。

 本当に、あの頃はよかった……。それに比べて最近ときたら……」


 軽口を聞くリッシュに対し熱弁をふるっていたクメイトの言葉が、最後には消え入るようになっていく。

 見ればクメイトとボウセン二人の眼はは少し涙ぐんでさえいた。

 それを見つめているとクメイトは慌てたようにそれを拭い恥ずかしげに視線をそらしていたが、やがて改めてこちらを見た。

 一度、ボウセンに目くばせし、彼が頷くのを確認すると真剣な様子で口を開く。


「なあ若様、ソラ様よ。

 お前様が都へ出てきてくれて、しかも俺達を頼ってくれたのは本当にうれしい。

 けど、今は、時期が悪い。今のこの国では昔とは比べ物にならんくらいどこも警備が厳しくなってて、特にここザーフィアスでは、金髪白服の悪魔と手下がいたるところに目を光らしてやがる。

 それもこれも、皆情け容赦もねぇ残虐非道なヘボ盗賊共がはしゃぎすぎてるせいだが、そうはいっても仕様がない。

 さっきは嬉しさのあまり舞い上がってあんなことをいっちまったが、頼りになるお頭や仲間も沢山捕まっちまったし、こんなところで若様にお(ツトメ)をさせて、もしも騎士共の手にかかるようなことがあっちゃあ、あの世でお頭に申し訳が立たない。

 お頭の遺言でお前様の面倒を頼まれはしたものの、そうおやっさんと話してたんだ」


 金髪白服の悪魔って……間違いなくアルスのことだよな……。確かにあの人くらい闘気があると鎧の防御力なんか誤差で邪魔になることのほうが多いだろうし、他の騎士と違って鎧を着る意味がないんだろう。

 しかしアルスは全然足りていないなんて言っていたが、やられている側からみると相当に厳しいようだ。

 ついでに本当に取り締まりたい過激な邪道派以上に、準備に時間をかける本格派が割を食うという状況なのだろう。


「お頭や若頭はその気になりゃお(ツトメ)なんぞに頼らなくてもやっていけたはずなんだ。

 あの人たちは、俺達が路頭に迷って難儀しないように(ツトメ)を作り続けてくれてたに違いねぇ。

 でも、お前様はまだ若いんだし、俺らに対して義理をきかせてくれる必要もない。

 お頭からお前様は相当に使えるとも聞いてるし、堅気で生きていけるんなら、そっちの方が、いいんじゃあるまいか」


 深読みをすれば押し付けられた厄介払いと取れないこともないが、おそらくそんな裏はないだろう。

 彼らは多分本当に俺のことを心配している。いくらなんでもじいさん達を美化しすぎているきらいはあるが、これまで堅気で生きてきた大恩ある頭領の孫を自分達の手引きで危険な道へと引き込むことを恐れている。

 事実、警備が強化された今の王都で、ちょっと庭先で訓練して女の子を気付かれずに一日中追いかけてただけの素人がいきなり悪事を働こうとしたら、なにか致命的なヘマやらかさないほうが珍しいだろうからな。


 じいさんも言っていたが本当に彼らは仲間と思っているもの、近い立場の者に対して面倒見がよくて優しいのだ。

 そんな彼らを欺くのは、本当に心苦しい。

 だが、今日迷いながらもここに来ると決めた時点で俺の腹は決まっている。決めたはずだ。

 それに。


「いやー、その話は聞いているし俺も危ないと思って本当のところ迷ったけど。別にじいさんや親父と違って今の俺はただの素人だし。

 でも、そんな時代だからこそ、じいさんの血を引くものとして盗賊とはこういうものだって志を示して、流れを変えていけるようにしないといかんのかなって……。何もできないのに偉そうなんですけど」


 この嘘で塗り固めた臭いセリフには、しかし少しだけ俺の本心が含まれている。


 清すぎる水に魚は住めないという。

 もしこの都にも必要悪となる淀みが一定数あるものなのだとすれば、単なる身びいきではあるがそれは彼らのような「誠の盗賊」であるべきだと思うのだ。

 アルスの言葉を鵜呑みにするわけではないが、もし彼の力をうまく使いつつ俺が世界一うまくやれれるのであれば、彼ら本格派への被害を抑え邪道派を掃討することで流れをかえることができるのかもしれない。

 いや、自信は全くないが。アルスを操ろうなんて俺には無理無理のカタツムリ。


 そんな俺の言葉を聞き、クメイトとボウセンは心配そうながらもやはり嬉しげな顔を浮かべた。

 リッシュは比較的冷めた目で見てはいるが、別に俺が世話をかけることを嫌がってはいなそうだ。


「若様、これから、どうかお願いいたします」

「こちらこそ、よろしくお願いします。それと若様は勘弁してください」


 この無条件に寄せられる歓迎と信頼を欺く代償を、果たして俺は彼らに返すことができるのだろうか。

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