表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
裏通りのカミサマ  作者: 神崎みこ
おまけ
8/8

平行線の二人だった

「なお、これはどういうつもりだ?」


陶器のような肌を持つ、人間離れした美貌を持った男が、目の前に出された膳を指差しそう問いかける。

問いかけられた女は、その外見の歳に似合わない艶やかな笑顔を浮かべる。


「食べることに意味などもちませんでしょう」

「だから、そういうことじゃなくて」


男は、さらに明らかに内容の違う二つの膳を指差しながら怒気を強める。

女の前の膳には、質素だが手の込んだ精進料理が一汁三菜と並べられている。反対に男の前の膳は、大盛りに盛られた飯だけが載せられ、申し訳程度に切り分けられた漬物が、辛うじてその彩を添えている。

男の怒気が高まるに連れ、部屋の中の空気が徐々に密なる物へと変化していく。

そこここで自由に蠢いていた何か、は息を止めているかのように二人の様子を伺っている。


「おまえ、そういうところが細かい女だな」

「貴方様はそういうところが大雑把な男でございますね」


丁寧だが冷たいものを含んだ女の言葉に、男がたじろぐ。


「だーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー、俺が何したって言うんだ」


ことり、と手にしていた椀を膳の上に置き、女が微笑む。


「ほんとに、毎回毎回性懲りもなく」


椀の代わりに手にしたのはどこから現れたのか日本刀であり、その鞘をなれた手つきで抜き取る彼女の笑顔は、美しいだけに凄みが加わっている。

だが、喉笛に突きつけられた刃に目もくれず、男は困ったような顔をして女から視線をはずした。


「私が、わからないとお思いですか?」


素早い動きで振り切られた刃を避け、男が大きく跳ねて後ろへ下がる。


「あのな、おまえそういうもの振り回すのいいかげんやめろ」

「あなた様がそういうことをなさらなければ、私もいたしません!」


それを皮切りに、室内では命をかけた、はずのやりとりが行われる。

それは舞のようであり、女の剣をよける男はどこか嬉しそうである。

舞台は、室内から外へと移動し、掃き清められた神社の境内と思わしき場で、彼らの喧嘩が続けられる。


「亜衣さまをあきらめたと思ったら」

「いや、ちょっと味見?っていうの?なんか退屈だし」


段々速くなっていく剣筋に、男は慌てながらも、顔色は変えずに避け続ける。


「その結果どうなるかおわかりになりませんか!」

「やーー、おれってカミサマだし」

「いいかげんになさいませ!」


石畳に足をとられ、尻餅をついた男に、刃先が突きつけられる。


「本当にいいかげん、懲りてくださいませ」

「えええ?だめ」


小首を傾げた仕草に、女の何かが切れた。


「西に参ります!」


そう端的に告げ、刀を鞘へ戻し女が背を向ける。


「や、なお、それはちょっと」


女の背中に縋りつくような勢いで、男が彼女を追いかける。

そして、どこからかとぼけた男の声が聞こえ、女の姿が忽然と消えた。


「いいよいいよー、いつまででもいいよ」


という間抜けな男の声を残し。



カミサマと自称した男は、盛大に機嫌を悪くし、地面に胡坐をかきながら女の消えた空間を睨みつける。

そして地面を数度拳で殴った後、彼もまたどこかへと消えていった。



藤川亜衣という少女がここへ迷い込んで一年。

彼らの生活は淡々と紡がれる。

悲しいほど平凡で哀れなほど非凡な毎日を繰り返しながら。


お題配布元/a href="http://noir.sub.jp/cpr/" capriccio様

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ