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ビッグ・ペタン

 僕は村の森側門番のニクスさんが見える場所に戻って大きく手を振った。

ニクスさんも僕を見て手を振ってくれる。

よし、ここなら大丈夫かな。


「ねぇペタン。君は今どの位大きくなれるの?見せてよ」


 ペタンを地面に降ろしてなでながらお願いする。

するとペタンはこんと鳴いてから、見る見るうちに大きくなって、大きくなって……。

えええ!?ちょっとまって!家よりおっきいよ!?僕の家が2メルテ50サントくらいだったと思うんだけど、優にその三倍はある。

思わずニクスさんの方を見ると、村の中でも体の大きい1メルテ90サントの身体を持った彼も、あんぐりと目と口を開いて驚いている。


 そして驚く僕らを知った事かと言わんばかりにペタンは僕にその湿った鼻先を押し付けてきた。

顔だけでなく半袖から出た腕まで感じたひんやりぺったりしたその感触に思わず僕はおおぉぅ、と声が出てしまった。


 そのままとすんと鼻先で座り込まされて、全身べろんべろんにされると。

これはやっぱり村の中で試さなくて良かったと本気で思った。

いくらうちの村が家と家の間が離れてる土地だけは余ってる田舎村でも、これは大きすぎて困る。


「あぷっ、ペタン、小さくなって。僕の懐に納まるサイズまで小さくなって」


 そのお願いを聞いてか、ペタンはじーっと僕の事を見つめている。

あ、あれ?小さくならないのかな。

そのまましばらく待ったけど、ペタンはふすふすと鼻息を鳴らしながらその巨体で僕にのしかかろうとしてきた。

こ、これじゃれてるんだろうけど、乗っかられたら死んじゃうよ!


「と、止まれペタン!死ぬから!今のペタンに乗っかられたら死んじゃうから!」


 僕が叫ぶと、ようやくペタンは僕から離れてどでんとした体を縮めるように僕の様子を伺った。

その瞳にはダメ?ねぇダメ?って書いてあるように見えるけど、ダメなものはダメだ。

さすがにこんなので死ぬわけには行かない。

とはいうものの、ペタンはおっきいままで遊びたいという態度を崩さない。

じーっと頭を下げて、首からあごの先までを地面に着けて僕をジーっと見てる。


 結局根負けしたのは僕だった。

ペタンの鼻先をぺちぺちと叩きながら僕は言う。


「解った、解ったから。 遊ぶからもうちょっと小さくなって。はぁ、ペタンがどうしたいのか、僕にもわかれば良いんだけど……」


 瞬間、僕の脳裏にペタンに乗った僕の姿が過ぎる。

ちょっと驚く。

それでどういうこと、と思いながらペタンの目を覗き込むと、静かに見つめ返された。


「僕を乗せたいのペタン」


 不思議と、すとんと心の中に落ちるそのイメージのままに問いかけると、ペタンはぺろりと僕を舐めた。

それがなんだかおかしくて、僕は少し笑った。

でもそれだけじゃ僕はペタンと遊べないから、僕はもう一度お願いをした。


「ペタン。もっと小さくなってくれないと僕はペタンに乗れないよ。このくらいの大きさになれない?」


 感覚だからちょっと適当だけど、ペタンに手で僕の胸くらいの高さを指し示して大きさをイメージしてもらう。

するとペタンはするすると小さくなって、荷馬に使うような高さ低めの馬くらいの大きさになった。

そうして僕を誘うようにくぉんと鳴くとぺたりと腹ばいになった。

ここまできたら僕も乗らないわけには行かないわけで。

ちょっと堅めの金毛の背中に乗って指示を出す。


「えっとねペタン、あんまり遠くに行っちゃダメだよ。森の中もラガムさんの許可がないからダメ。森と村の間の草むらで遊ぶ事、いいね?」


 僕の指示にこん!と答えるとすっと立ち上がってペタンはゆっくりと歩き始める。

これが結構揺れるので、僕はペタンの背中に腹ばいになってしっかりと毛並みを掴む事にした。

ちょっと毛に癖がついちゃうかもしれないけど、僕が落ちて死んじゃうとペタンも危ない。

だからしかたないんだ。


 それからしばらくペタンの上で上下に揺られてちょっとくらくらきてたんだけど。

不意に気づいた。

ペタンはある程度以上の速さを出さないんだ。


 僕はしっかりとペタンの毛並みに掴まる力を込めながら声を張り上げて聞いてみる。


「ペタン。もしかして僕が落ちないようにしてる!?」


 僕の言葉に対する答えは鋭いくぉん!という一鳴き。

ううーん。

ペタンってもしかしなくても凄く頭いい?

昨日生まれたばっかりだっていうのに凄く聞き分けいいし……それとも守護獣って皆こんな感じなのかなぁ。


 そんなこんなを考えているうちに、僕もペタンの上に乗るのに慣れて来たのかな。

ちょっとずつ周囲を見る余裕が出てきて、ちょっと驚いた。

自分の足で歩くのとは違う、高い目線で見る世界。

それは普段よりちょっと広くて、僕をわくわくさせてくれた。


 守護獣が孵るように魔力を注いでいた日々もわくわくはあったけど。

なんていうのかな、ちょっとそれとは違う感じ。

出来れば、このままペタンに乗っていけるところまでいっちゃってもいいかもって思ってしまいそうになる。

そんな開放感を付け足したドキドキ。


「ペタン、凄いよ!ああ、守護獣と暮らすってこんな素敵なんだ」


 流れる景色は同じ場所をぐるぐる回っているだけだけど。

それでも金の毛並みの間から見るそれは僕の好奇心とか、そういうものを刺激したんだと思う。


 だからかな、ペタンの気が済むまで駆け回らせて、ニクスさんにお前の守護獣凄いな、といわれながら門を通って。

家に帰ってお昼を食べたら、お母さんにお父さんの手伝いに行くように言われて。

うん、その、お父さんに言ったらきっと怒られるけど。

守護獣に乗って出来る仕事に就きたいなって、ちょっと思った。


 でも守護獣に乗ってやる仕事って、郵便屋さんか行商、ちょっと偉くなると守護騎兵団か守護魔道師団かな。

守護獣は皆持ってるから、意外と思いつかない。

僕が知らないだけかもしれないけど。

守護騎兵団なんてペタンに乗るまで全然興味なかったけど、あの感覚を味わったら凄く興味が出てきた。

守護獣と人が一体になって大地を駆ける。

きっと、すっごく楽しいんだろうなぁ。


 こうして、ちょっとした夢にひたりながら作業した僕はちょこちょこお父さんに怒られながら午後の仕事を終わらせて。

夕飯の後はミーナにペタンを撫で回させて、今日もたっぷり魔力を注いで上げて眠りに就いたのだった。

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