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お肉ははるか遠く

 今日は首元に感じるくすぐったさで目が覚めた。

耳元までねっとりと包む暖かい感触に目を開いて、視線を左右すると。

僕の首元に顎を突っ込んでぴちゃっと水音をさせている、青い宝石の付いた艶やかな毛並みのペタンの頭が見える。


 あ、起きなきゃ。

と思って布団の中で思い切り伸びをして目を覚ますと、珍しくまだミーナも寝ている時間だった。

あの子は結構朝早いんだけどな。


 そんな事を考えながらも既にうっすらといい匂いがし始めている居間に出ると、母さんは朝ご飯を作っているところだった。

お母さんはそんな状態でもしっかり部屋の中の気配みたいなものを察しているのか声を出す。


「ユート?今日は早いじゃない。顔洗ってらっしゃい」

「んあ、おはよ。何でこっち向いてないのに解るの?」

「ミーナなら間髪居れずに元気に挨拶するし、お父さんならドアが開く音の方向が違うし。ちょっと考えれば判るわよ」


 僕はそんな簡単に判別できないなぁ、と思いながら外に出て水瓶を持つ。

村の井戸で顔を洗うついでに水を汲んでおこうと思ったからだ。

いつもお母さんがやってる仕事だけど、早起きしたならやっておいてもいいよね。


「おいでペタン。水汲みに行くからちょっと大きくなって着いてきて。今は抱えてあげられないから」


 僕の呼びかけにペタンは猟師のラガムさんの守護獣……猟犬とか野犬くらいの大きさだ……と同じくらいの、僕の太ももくらいの高さの大きさになって。

くおんくおんと鳴きながら僕の後についてきた。

井戸に行くといつも水汲みを担当してる人達に珍しいのが来たって顔されながら水を汲んで、顔を洗ってペタンに水を飲ませてあげる。

守護獣は魔力さえ貰えば水も食べ物もいらないらしいけど、実際触れてみると生き物だし、飲ませられるなら水くらいあげたいって思ったから。

それを見てた水汲みしてる村の女の人達に、その気持ちわかる、から始まって。

旦那や子供に内緒で小さい焼き物のおやつを上げたりしてる、なんて話を聞かせてもらったりした。

お母さんもそういう事してるのかな?と思いながら、僕は水を入れられるだけ入れた水瓶を、気合を入れて家に運んだのだった。


 朝食後、ミーナは昨日たっぷりペタンの尻尾の柔らかさを堪能したからか。

お父さんと一緒に僕がお弁当を持ってペタンを連れて家を出ても何も言わなかった。


「それじゃあお父さん。僕ラガムさんのところに行くね」

「おう。しっかり守護獣のこと勉強して来い」

「うん。ラガムさんの居る森と畑は反対だからお別れだね」

「なんだ、付いていって欲しいか?」

「だ、大丈夫だよ。僕にはペタンも居るし、ラガムさんの小屋は森の浅い所だから」


 本当はちょっとお父さんについてきて欲しかったけど、つい強がった。

そしたらお父さんはいつもいかめつらしい顔をふっと緩めて僕の頭をなでた。


「頑張って来い」

「……うん!」


 なんだか、頑張れって行ってもらったみたいで嬉しかったから、僕の足取りは軽くなって、さっと駆け出してしまった。

ペタンにおいで、と言いながら早朝の村の中を駆ける。

ラガムさんのところでは何があるだろう。

楽しみだなぁ。




 ペタンを連れていちに、いちに、村を囲う柵を、門番のニクスさんに挨拶して通り抜け。

更にそこから50メルテくらい離れた森の一部を切り開いた道に入って行く。

そこからもうちょっと足を伸ばせばラガムさんが狩り小屋に使ってる、ちょっと広めの物置兼休憩所みたいな建物に辿り着く。


 そういえばラガムさんはもう来てるのかな、と思ったけど。

トントンとドアをノックするとガラガラした声ではいんな、と返ってきたきたので、僕はドアを開いて挨拶しながら入る。


「おはようございますラガムさん。今日から僕とペタンの事もよろしくおねがいします」

「おぅ。守護獣の扱いや性質なんかをとっぷりと教えてやる。まずは外での訓練より性質の勉強だ。まぁこっちに来て適当に座れ」


 剃っていると言う禿頭に毛皮製の帽子を被った、しっかりと整えられた長方形の眉毛の下に、ちょっと窪んだような目に鷲鼻の。

ちょっと怖いと子供達に評判の、毛皮製のベストに長袖のシャツとズボンを合わせたおじさんが椅子に座っているのが目に入る。

そんなラガムさんに言われるまま冬に使う火鉢の周りに置かれた四つの椅子の内、空いてる三つに適当に座る。

この狩り小屋には普段入っちゃいけないといわれているので、置かれてる棚に並ぶ見慣れない容器や、隅に積んである矢の束とかが気になる。

で、ついついそちらに目を惹かれていたらラガムさんが釘を刺してきた。


「珍しいのは分かるが下手に触るなよ。狩りで怪我した時の軽い怪我に使う薬草を使った薬なんかが入った容器もあるし、矢なんか子供が触るには危ないからな」

「ラガムさん解ったよ。それで、守護獣の性質についてってどんな感じ?」

「そうだな……お前、昨日一日でその守護獣にどんな事が出来るかどの位解った?」

「えっと、ご飯は飼い主の魔力で大丈夫、ペタンは大きくなったり小さくなったりできる、ふわふわのふっさふさ、くらいかな」

「まぁ大体普通の事だが……そうか、体格操作できるのかそいつは」

「うん」

「ふーむ。型も狐だし、狩りができるかもしれんなぁ」


 うん?体格操作と狩りってどんな関係があるんだろう。

不思議だから僕はつい口を開いて質問した。


「あの、体格操作とか守護獣の型って狩りと何か関係あるんですか?」

「ん?そりゃお前、お前ンとこの父ちゃんのエリトは狼型だがでかすぎて森の中で動くのに向かない。解るな?」

「あ、うん」

「で、お前の母ちゃんのニニルなんかはでかくて空を飛べるから空からの狩りはできる、と思うだろうが、元が雀じゃな。あんまり狩りをするっていう性格じゃないんだよ」

「へー……守護獣ってそういう向き不向きもあるんだ」

「おう。俺の守護獣ハガルは犬型の守護獣で、サイズも精々が大き目の狼サイズだ。鼻も効くから俺の狩りの補助ができるし、兎くらいならハガルに狩らせる事もある」

「すごいなぁ……」


 お肉、お肉の供給源は基本もう食べるくらいしか使えない家畜を肉に加工するのと、ラガムさん他少数の猟師が取ってくるものを物々交換ってくらい。

特に猟師の取る肉は燻製にして行商人の人へ売って現金にする事もあるから、尚更口に入らない。

そんなお肉をペタンが獲れるのはいいなぁ、と思っているとガラムさんが意地悪く口の端を吊り上げて、目を細めながら言った。


「お前今、そいつに狩りをさせれば肉食えると思ったろう」

「そ、そんなこと」

「嘘付け。締まらん顔で言ってもすぐ解る。だが、はっきり言っとくぞ」

「何?」

「村長から狩り役、つまり猟師を任されるまで守護獣に狩りは絶対にさせるな」

「なんで?」

「お前は素直に聞くからあんま脅す必要も無いと思うが……森の獲物を狩るのが危険というのもあるがな、森ってのはお宝だ。何でもかんでも領主様が権利を持ってる」

「……大きい子が木の実取ったりするよ?」

「そこらへんはお目こぼし、取り過ぎなきゃ許してくださってるんだ。木の実を売るのを生業にするなら、木の実一個いくらの税金がちゃーんと掛けられるんだ」

「うえぇ、ほんと?」

「本当だとも。当然俺達猟師だって税を取られるから色々せにゃならんのだぞ。取った獲物の数、重さ、いくらで売ったか、売ってないなら村で食ったのか。全部村長んとこで記録してる」

「それは……とってもめんどくさいね」

「そうだ。猟師の家は他の家より肉を食えるが、それなりの苦労もちゃーんとしてるってことだ」

「解った。ペタンは狩り禁止、だね」

「んむ。と、関係ない話で随分時間を取っちまったな。俺も俺で仕事があるから、お前はもう今日は帰れ」

「はーい」

「いいか、しかっと言い聞かせとくんだぞ。後、時間があったらそいつがどのくらい身体の大きさを変えられるか調べとけ、宿題だ」

「解った。それじゃあね、ラガムさん」

「おう、じゃあなユート。また明日な」


 ラガムさんに挨拶して小屋を出ると、確かに太陽は真上に寄ってきてて、結構時間は経ってたみたいだ。

でも、お昼には大分早いから、家に帰っても……お父さんの野良作業を手伝ってもいいな、とも思った。

だけどちょっと試したいことがあったので、とりあえず村の近くに戻る事にした。

きちんと大人の見ているところで試さないとね。

ねぇ、ペタン。

ちょっとした野望に燃えながら、小さくなるように言って、縮んだペタンを抱えて頭を撫でると、ペタンはくぅんと甘えた鳴き声を出したのだった。

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