ギブアンドテイク?
「おにーちゃん。ペタンちっちゃくなってる!」
「……だねぇ」
びっくりして固まる僕と、再び小さくなって抱えられそうなペタンに向かって駆け寄るミーナ。
そんな僕の妹をすっと避けてペタンが僕の胸に向かってぴょんと飛び上がる。
僕は咄嗟に腕を組んでペタンが納まる場所を作る。
「ペタン、お前。ちっちゃくなっちゃったって」
戸惑う僕の頬っぺたをぺろぺろ舐め上げて誤魔化そうとするかのようなペタン。
ミーナが僕の腕に収まって揺られる尻尾を追ってぴょこぴょこ背伸びしている。
「はぁ、ソレはひとまず置いとこう。ミーナ、ほんとにペタンの尻尾が好きになっちゃったね」
「だってふさふさなんだもん!さわると、とーってもきもちいいの!」
うーん、自分の守護獣じゃないのにこんなに入れ込んでていいんだろうか。
それともミーナも自分の守護獣が孵れば、やっぱりそっちに夢中になるのかな?
ま、今はともかくペタンの事をお父さんに聞いてみたい……んだけど。
昼間の村長の話が気になるんだよね。
これで変な守護獣、怪しい、始末……とかなったらやだしなぁ。
うー、村長が変な話しなければすぐお父さんに相談したのに。
なんて考えてると、ミーナがペタンを抱っこさせてとせがんできた。
考え事があるから、ペタンを預けるつもりで良いよって言ったよ。
そしたらさぁ。
「おとーさん!おかーさん!おにーちゃんのしゅごじゅーすごいの!おっきくなったりちいさくなったりするの!」
って大声で居間のほ方に行っちゃったよ!
ちょっと待って!それどうするか今から凄い考えようとしてたのになんてことするんだ!
「ん?なんだ、ユートの守護獣……ペタンは体格操作ができるのか」
「あら、ちょっと珍しいわね」
「たいかくそーさ?」
「ああ、守護獣の中にはご主人様といつも一緒に居たいからと結構自由に体の大きさを変えられる子もいるんだよ」
「すごぉーい!わたしのしゅごじゅーもできるかな!?」
「それはどうかしらねぇ、そこそこ珍しい力だから」
「むー。おにーちゃんのペタンができるなら私のしゅごじゅうっもきっとできるもん!」
「はは、でもお父さんのエリトとお母さんのニニルは使えないんだぞ」
「うぅぅ、でもきっとできるもん」
あ、なんか呆然として固まっちゃったけど。
珍しいけど変なことじゃないんだ。
なんだかほっと一安心。
ついでにあれだけ悩みそうだった僕と村長がバカみたいだと思った。
でも、そんなことより重要なのは。
「そうだよね、ペタンは伝説の悪い守護獣とは違うんだから。ちょっとおかしいなってことがあっても僕が気にしすぎちゃダメだよね」
ペタンをちょっとでも疑った自分を恥ずかしいなと思ったことだった。
ごめんねペタン。
僕が一番信じてあげなきゃいけないのにね。
はぁ、そこでミーナに負けるなんて、主人としてもお兄ちゃんとしても情けない。
「皆ー、なんだか楽しそうだけどどうしたの?」
「お、ユートもでてきたか。少しペタンにお願いしてみろ。体の大きさがするっと変わるぞ」
「ほんと?じゃあ……ペタン、ミーナを乗せられる大きさになって」
僕のお願いにペタンはするりとミーナの腕の中から抜け出した。
そうしてこーんと鳴くと、むくむくっと大きくなって僕の足元に擦り寄ってきた。
うわ、おっきい。
ミーナも乗れるのってこんな大きさが必要なんだ。
後ろ足で立ったらお父さんと同じくらい大きいかも。
「おにーちゃん、のっていいの!?」
あ、ミーナがきらきらとした笑顔で僕を見てる。
ミーナを乗せられるっていうの聞き流さなかったんだね。
まぁ、僕が言った事だし……ちょっと今日はミーナにペタンを取られすぎてる気がするけど。
僕はいいよと言ってあげた。
「やった!ありがとおにーちゃん!ペタン、ペタン、せなかのせてー」
「ペタン、ミーナを背中に乗せてあげてね。ずっと面倒見てもらって悪いけど」
また気軽にお願いを聞いてもらえるだろう。
そんな風に思ってた僕に、ペタンはぐわっと立ち上がってのしかかってきた。
「うわわ!?ペタン!?」
慌てる僕のことなんてお構いなし、というか。
やっぱりミーナとばっかり遊ばせてたのがいけなかったのか、鬱憤を晴らすとばかりにその状態で僕は顔をベロベロ舐められる。
顔は勿論首筋も舐められてすっごくくすぐったい。
お父さんサイズの大きさのペタンの身体に腕を廻して止め様としても、精々背中の毛並みを掻いてやるくらいしかできない。
それでもって。
「どーん!」
「う、うわぁ!やめろよミーナ!ペタンがしっかりしてなかったら僕までお前の下敷きだったぞ!」
「ん?なーに?」
「お前なぁ……」
ペタンはそのまま僕を逃す気はないのか、背中にミーナが飛び乗ってもびくともしない。
お父さんとお母さんはそんな僕らを見て笑ってる。
とはいってもお母さんは本当に仕方ないって感じだけど。
ごめんねお母さん、洗濯するのお母さんだからね。
服を汚して御免。
その後も散々舐めまわされてうへーいとなってから、満足したペタンがどいてくれて。
体を水布巾で拭いてから寝巻きに着替えて、汚れた服を洗い物の籠に入れてペタンと一緒に寝た。
ちっちゃくなったペタンが何かをせがむように宝石でごつっとした額を僕の頬にこすり付けてきたので。
なにかな、と考えた結果、そういえば夕飯の魔力をあげてないなと思い当たって、空っぽになるまで魔力を注ぎ込んであげた。
そうして僕は気絶するように眠りに落ちたのだった。
なんかこういうの多くないかな、僕。