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貴族様って、大変だ。ペタンの機嫌を直すのよりずっと。

 僕は昼食の時間に思いきって他の皆に、ペタンと遠乗りの約束をしていた事を話した。

そしたら約束を忘れるなんて子供だな、とちょっと叱られた後、どうせなら皆で行こうっていう事になって。

なら王都から歩きで半刻もしない所にある守護獣触れ合い広場へ行こうとレミルトス様が決定を下す。

この時、エヴァンさんがさりげなく広場へ移動する為に守護獣に騎乗する組を二つに。

僕とエヴァンさん、レミルトス様とエリッチェン様に分かれるようにした。

レミルトス様には守護獣に二人以上騎乗するサイズにするのは大きくしすぎだし、体格操作できる3人の内鞍の必要ない四足の守護獣は二人だけ。

だからレミルトス様はペタンに乗らずにエリッチェン様を乗せてあげてくださいねっていう感じに話を進めていた。


 そんなわけで、ペタンの背中の上に未練を残している様子のレミルトス様に、そっと寄り添ってなんだか顔を赤くしているエリッチェン様を任せて。

いつもどおりの僕とエヴァン様に分かれて触れ合い広場へと向かったんだ。

僕は前々から気になっていたレミルトス様と一緒に居るとぼうっとしてしまうエリッチェン様はどうしてなのかな?ってエヴァンさんに聞いたら。

エヴァンさんにお前にはまだ早いか、とくしゃくしゃと髪を撫で回されちゃった。

んー。

どういう事なんだろ。


 まあ、そんなわけで僕達は広場につくと思い思いに守護獣を遊ばせ始めた。

ミャルクはペタンところんころんと小さい状態で絡まりあって金と白の毛玉みたいな状態になってじゃれあっている。

エレミータはそんな2匹を見て笑っているレミルトス様を見てほわぁぁってなってるエリッチェン様の傍を離れようとせずにどっしりと座り込んでいる。

ケイリュオンは普段エヴァンさんから離れないのが嘘のように遥か遠くの空に向かって飛んでいった。

僕、ケイリュオンがエヴァンさんの周りから目に見えないほど離れるの初めてみたかも。


「うーん。それにしてもエヴァンさん」

「なんだ」

「レミルトス様と一緒に居るエリッチェン様って、なんだか近寄りがたいよね」

「まぁ……たしかにな。今だけでも夢を見たいのだろう」

「夢を、今だけって?」

「レミルトス様には婚約者がいらっしゃるのだ。魔道師団に籍を置いてから、頃合を見て正式に御成婚なされる事だろう」

「婚約者って、将来奥さんになる人だよね」

「その通り。レミルトス様と並んで見劣りしない素晴らしい佳人だぞ」

「エヴァンさんは婚約者さんに会ったことあるの?」

「これでもレミルトス様とは親しくさせていただいているからな。レミルトス様がご出席なされる宴席で傍らに立たれていらっしゃるのを何度も見た」

「ふーん……婚約者さんがいるのに、エリッチェン様があんなに傍に居ていいの?」


 僕がちらりとレミルトス様達に視線を向けた後にエヴァンさんを見ると、難しい顔をしてため息をついた。

そしてなんともいえない表情で目を瞑ったままいったんだ。


「憧れはいつか美しい記憶に変わるだろう。そう信じるしかないな」


 なんだか気まずい雰囲気になってしまったなぁ、と思う。

レミルトス様はもう他の女の人と結婚するのが決まってるのに、レミルトス様の傍にいたそうなエリッチェン様。

なんか、大人の人って大変そう。

そう思っているとエヴァン様が僕に聞いてきた。


「まだお前には早いかもしれないが……お前には好きな女性はいないのか?」

「それってお嫁さんにしたい人はいないのかって事ですか?」

「まぁ、そうなる」

「んー。解んないです。昔は村にいたレシヌお姉ちゃんっていう人にお嫁さんになってとか言っては居たんですけど」

「過去形か」

「嫌いになったわけじゃないです。でも村の小さかった子……僕と同年代の、レシヌお姉ちゃんに面倒を見てもらった子達は皆同じようなこといってたなーって」

「ふむ。なんとなく好きだっただけで、特別好きだったわけではないと」

「こういうと薄情かもしれませんけど、大きくなるたびに大好きから普通の好きになっていって……レシヌお姉ちゃんも、年上のお兄ちゃん達の誰かと結婚するんじゃないかなーって」

「姉離れ、のようなものかな」

「解らないです。でも、今は女の子とどうこうっていうのはないです」

「今はペタンが大事か?この守護獣バカめ」

「あ!酷いですよエヴァンさん!エヴァンさんはどうなんですか」

「私か?私も婚約者が居るからな」

「ええ、エヴァンさんもなんですか」

「それはそうだろう。貴族なんてそんなものだ」

「そんなものなんですか」

「そうだ。私は決まっているのが結婚相手だけな分、自由だがな」


 その後、一番上の兄上は将来の仕事まで決まっていて夢を持つことも許されず、厳しく躾けられていたっていう思い出話をエヴァンさんは始めた。

僕はその話を聞いて、ぼんやりと大変じゃない人っていないのかも、って思いながらちょっと固い話を続けた。


 と、そんな事をしているとミャルクと遊んでいたペタンとエヴァンさんのケイリュオンが僕達のところに戻ってくる。

ああ、そういえばお昼の魔力をあげていないな、と思ってペタンの埃を軽く払い落としてあげてから魔力を注いであげる。

いつもどおりの感覚ですぅっと意識が遠くなってきて、僕は広場の草原の草の上に寝そべる。

そんな僕を見てエヴァンさんが慌てた声で何か言ってきた。

でも僕の意識はもう外を認識しなくなっていて……ペタンに辛うじて何時もみたいに寝てる僕をよろしくね、とだけ伝えて眠りに就いた。




 僕が気づくと、意識を失う前には頭の真上にあった太陽が幾分傾いた位置に移動しているのに気づいて……僕を囲む三人のお兄さんお姉さんに怒られた。


「ユート君。守護獣に愛着を持つのはいいが気を失うまで魔力を注ぐのは感心しないよ」

「そのとおりですわ。貴方私達が居なかったらどうするつもりだったの」

「ユート。約束しろ。これからはペタンに与える魔力の量をきちんと考えると」

「ごめんなさい……」

「ペタンは強力な守護獣だけれど、それに甘えて完全に無防備な状態を外で作るのは感心しないよ」

「イルニアッド領から王都に来る間はペタンの方がストップしてくれたんですけど、王都暮らしでちょっと気が緩んでたかもしれません。周りに一杯守護獣もいるし」


 そう、こんな風に集まってる周りにも結構人が居て、守護獣と遊んでいる。

寝込みを盲獣に襲われるっていう事はない、と思う。

あ、でも……エレミータを見て気づいた。

逆だ、こんなに守護獣が沢山いる場所で寝てたらうっかり大きな守護獣に踏み潰されちゃうかもしれない。


 すっと背筋が寒くなる。

ううん、本当に気を抜きすぎてたなぁ。

旅の間は大部分僕とペタンが自由に場所を取って、僕が寝てる間はペタンが大きくなってお腹に抱え込んでくれたから平気だったけど。

今はペタンも小さいもん。

万一の事がある前に皆に叱ってもらえて良かった……僕一人だったら絶対気づかなかったよ。

危ないね、そう思った。


 でもペタンはちょっと怒っているように僕に念を送ってきた。


『なにさ。僕がいればユートは絶対危なくないのに』

『そんな風に言っちゃダメだよ。皆僕達の事を心配して言ってくれてるんだから』

『むー。僕が居ればユートは大丈夫なのに』

『そうかもね。でも、心配してくれる人がいるのはとっても嬉しい事だから、それを嫌がってもしょうがないよ』

『僕はユートが僕以外の人に怒られて嬉しそうなのがいやなの!』

『そ、そんなこと言われてもなぁ。怒らないでよペタン』

『ふーんだ』


 つんと鼻先を逸らしてしまったペタンに僕は少し困ってしまうけど。

機嫌を直してよと抱き寄せると本気の抵抗はしないので、ちょっと僕に構って欲しいだけなんだろう。

もう、しょうがないなぁペタンは。


 あの後僕はペタンの機嫌が良くなるまでお腹の柔毛をくしゃくしゃしてから、皆で門限までに魔道師団の宿舎に帰った。

その日はさすがに外泊許可を取った人は居なかったのか、ここ一ヶ月で見慣れた顔を全部見られて一安心。

皆故郷の味食べてきていいなーと思って、その日はお母さん達の夢を見た。

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