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ペタンクリーン作戦

 舞い散った巨大羽毛を、僕とエヴァンさんの二人で修練場の隅へと片付ける。

ペタンとケイリュオンが押して返しての訓練をした際にケイリュオンが目潰しに意図的に撒き散らした羽根なので、責任をもって片さなきゃいけない。

といっても修練場の隅に置いておけば羽毛を買い取る業者さんが引き取っていって、羽毛を編んだ鍋敷きを作ったりするらしい。

ケイリュオンがもっと柔らかい質の羽毛なら、ベッドのクッションに使えたらしい。


 実を言うとペタンの尻尾の毛を刈らせて欲しいっていうお願いが時々あるんだけど、僕は断ってる。

ケイリュオンの羽毛みたいに守護獣が自分から抜いたりしたような部分以外をお金の為に弄りまわすのはどうなのかなって。

ペタンと一年過ごしてきたけど、ペタン普通の動物みたいに夏冬で毛の生え変わりしないしね。

どうもペタンには季節ごとの寒暖ってあんまり関係ないみたいで。

ただ僕に抱っこされてたりする時に毛皮越しに感じる温もりっていうか、魔力の波動?みたいな物は気持ちいいらしい。


 さて、羽毛の片付けは僕とエヴァンさんが一抱えして、大きくなったペタンにも一山咥えて運んでもらってすっきりしたって言う所で、レミルトス様が来た。

どうもエヴァンさんに話があるみたいで、軽い調子で少し相談があるんだ、と言って二人でどこかに行ってしまった。

そこで気づいたけど、明日は始めての休息日で、今日の訓練はもう終わりだ。

……どうしよう?


 魔道師団の入団候補生として実地訓練……王都周辺の盲獣狩りの実習にでて、慈悲の灰っていう、盲獣を輪廻させた後に残る灰を持って帰ればお金にしてくれるらしいんだ。

それというのも盲獣の体は周囲の精気を吸う一方で、死んだ時に残す灰は大地に精気を与えるもので、肥料代わりになるらしい。

なんで精気を奪う一方の盲獣の灰が肥料になるような効果があるのかは不明らしいけど、一般的には盲獣の贖罪の証らしい。


 と、こんな話をしているのはなぜかといえば、僕は休日だからって街で遊ぶようなお金は無い。

イルニアッド様は学ぶのに十分な援助金は送ってくださるけど、王都にある芝居小屋やお茶と軽食のお店を楽しんだり、お菓子屋さんで食べ歩きなんてことをする余裕は無い。

でもしかたないんだよね、イルニアッド領は地方の特産があって栄えてる領なわけじゃないから、魔道師育成の為とは言ってもそんなに一人にお金を集中させるわけにはいかないんだ。

たしか、魔道師学校の日程とは少しずれるから僕とは一緒に出なかったけど、騎士志望のお兄さん達が数人、同じ王都の騎士学校で頑張っているはずだし。


 イルニアッド様は僕が魔道師になれば、国から魔道師育成の報奨金がでるって言っていたけど……。

それって僕を2年間王都で生活させたお金に見合う金額が貰えるのかなぁ。

そこも僕には良く解らない。

ジュナイさんやアレクさんは報奨金そのものより、イルニアッド領から魔道師を出したという名誉が大事って言っていたけど。


 まぁ無いものは無いし、ペタンに乗って遠乗りに出かけるくらいは……いやいや、それは明日の休日本番に取って置こうなんて考えながら宿舎棟に戻った。

するとクラスメイトの貴族様が見覚えの無い、でも僕と同じ若草色の背広型の制服を着たお兄さん達となんだか楽しそうに話していた。

なんだろう、と思って近づくと、ちらほら聞こえてくる色とかしょうかんとか、良い店とかいう単語の数々。

ちょっと気になって肩のペタンを手で支えながら駆け寄って。


「こんにちは貴族様。楽しそうにお話なさっていますけど、なんのお話ですか?」


 と聞いたら、なんだか皆慌てた様子で。


「いや、明日休日だから外泊届けを出して誰かの別宅に遊びに行こうかとかさ」

「そうだよ。後はちょっと酒の飲める店を紹介してやろうかとか、後輩に話してただけだ。お前はまだ大人じゃなからダメだな」


 っていう感じで、ちょっと僕からは遠い世界の話をしてるなーと思ったので。

お話の邪魔をした事を謝ってから部屋に戻って、制服から寛げる平服に着替えて訓練で埃っぽくなった制服の手入れをした。

それが済んでから、後ろ脚で立って僕に前脚を掛けてくると丁度肩くらいのサイズになったペタンが僕の顔をペロペロと舐めてきた。


『あ、こらっ。まだ顔洗ってないから埃っぽいよ』

『大丈夫!守護獣は埃平気。それよりユートはさっぱりした?』

『ちょっとベタベタ、拭かなきゃ』

『じゃあ僕の毛皮で拭いてあげ……』

『ペタンの毛並みは今埃っぽいでしょ!洗い場に行こう。お湯で洗ってあげる』

『ほんと?ざぶざぶってしてわしゃしゃーってしてくれる?』

『するよー。ペタンの毛並みが綺麗になるように徹底的にやってあげる』

『やったー!ユート大好き!』

『うんうん。僕も大好きだよ。それじゃあ行こうか』

『うん!お湯浴びお湯浴び楽しみだぁー』


 機嫌の良さにぱさぱさ揺らそうとするペタンの尻尾の根元を、きゅっと掴んで抱えて運ぶ。

するとペタンはちょっと不機嫌そうになるけど、埃を立てるのは良くないからね。

それにしても、毛並みは柔らかくてすべすべだけど、その芯はかっちりしてるなぁ。

手で弄ってあげると曲がるんだけど、基本ピッと一筋芯が通ってる感触がする。


 僕に尻尾を根元から押さえられて大人しくしているペタンを連れて、魔道師団兼魔道師学校の外にある守護獣の洗い場に到着。

そこは木の囲いで段差が作られて、石造りの内部の床は濡れていると滑って気をつけなきゃいけないけど、魔力でお湯を出し続ければ汚れがぜーんぶ排水用の穴から、王都から少し離れた細い川の支流に流す下水に流れていく。

ペタンは小さいからあんまり恩恵は感じないけど、大きな守護獣の飼い主さんにはありがたい施設らしい。


 領主様のところで過ごした時に桶にお湯を張らずに洗う練習もしたけれど……僕は洗い場の隅にある小さな桶を借りて、その中にたっぷりのお湯を注ぎこむ。

そして小さくなったペタンをゆっくり漬けていって、くっと顔を立ててお湯につけないようにするペタンの、ゆらゆらとお湯の中で揺らめいて指に絡みつく毛並みをまさぐる。

もっさりと生えろ揃った毛の森の中の埃をこそぎ落とす為に、しっかりと洗う。


 ペタンは気持ちいのか、逸らした首から上、口をかぱっと開いてのどの置くからくあぁぁ~って声を出して目を瞑ってる。

とても可愛いので、ちょこちょことここが気持ちいいの?と念話を送りながら各所を弄り回す。

その扱いにペタンもご満悦の意思を返してきてとても楽しい。

程よく埃を落としてお湯が汚れてきたら排水溝にざっと流して、桶の中をお湯で濯いでまた注ぐ。


 それから、ペタンを桶の中には入れずに平服のポケットに常備しているペタンを拭う為の布を取り出してお湯に浸す。

ペタンは顔から上がお湯に浸かるのを嫌がるから、コレで埃を拭ってあげるのだ。

顔はやめよ?って念を送ってくるペタンにダメダヨと念を送って埃っぽくぱさついた頭部の毛並みをつやつやにするべく濡れ布巾で拭っていく。


 くにくにと顔を拭われる時に嫌そうに顔をそむけようとして、ペタンが抗議の念を送ってくるけど、良く絞った布巾で耳の柔毛まで綺麗にしてあげるとふりふりとまだ水気を含んだ尻尾を振りはじめる。

こうなるとペタンも腹を括って大人しくして綺麗にされるの待つ。

何度も濯いで絞って優しく擦ってを繰り返して、お湯に汚れが出なくなったら完了。

桶のお湯を排水溝に捨ててペタンを抱き上げる。


『はい、綺麗になったよペタン』

『ユートー、気持ちよかったよー』

『あ、しまった。着替えるときに僕も埃洗えばよかったかな』

『ユートは別に大丈夫じゃない?そんなに埃被ってないでしょ』

『うん、まぁそうなんだけど』

『それよりユート、何して遊ぶ?』

『そうだなぁ……折角綺麗になって外で汚れるのもやだし、部屋でゆっくりペタンの尻尾をブラッシングしてあげようか』

『ユート、それ遊びじゃないよー』

『明日になったら一緒に遠乗りに行くから。今日はゆっくりしよう、ね』

『しょうがないなぁ。それじゃあユートに尻尾を好きなだけ触らせてあげる』


 僕の腕の中で、僕の胸元に鼻を突きつけてすぴすぴと言わせながらえらぶるペタンを。

はいはいという感じで背中を撫でてあげる。

そうして部屋に向かい自分の部屋に入って思う存分、中型犬サイズになったペタンのふわふわの腹毛を枕にごろごろする僕だった。

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