輪廻かぁ
自己紹介が終わった後、僕は貴族様の皆によろしくお願いしますって改めて挨拶しに行ったんだけど。
皆王子様に釘付けで心ここにあらずって感じだった。
一人だけいた女の貴族様……確かイルナス・サムン・エリッチェンさんは僕が挨拶する間も完全に視線を王子様に向けてて、ほぅってため息ついてたからね。
あ、ため息だけじゃなくて第三王子殿下は本当に麗しいわ……って呟いたりしてたかも。
うーん。
僕の挨拶を覚えてくれてる人が王子様とエヴァン様くらいしか居ない気がする。
エヴァン様は僕が挨拶しに行くと。
「躾がなっていないな。下位の人間が上位の人間に声を掛けるのはマナー違反だぞ」
なんて言っていたけど、王子様に魔道師同格を言い含められると、難しい顔をしながら。
「……すまん。同級生になったからには自由に言葉のやり取りを出来なければ物事が滞る。先ほどの言葉は社交の場での事だ。許せ」
と謝ってくれた。
ちょっと厳しい人だけど、悪い人じゃないんだなーっていうのは解ったよ。
肩に留まってた鷹型守護獣のケイリュオンも念話で。
『すまないなユート少年。主は平民と呼ばれる人々との交流の経験が足りていないのだ』
ってフォローしてて、仲が良さそうな感じがしたし。
あれ、でもよくよく考えればあんな試験を合格してくる人は守護獣とちゃんと通じ合ってる人だよね。
じゃあそんなに悪い人なんてそもそも魔道師になれないのかも。
そんな事を考えてたらペタンが話しかけてきた。
なにかなーと思っていると、他の守護獣と交信した事について話したいらしい。
『ユート、ユート。魔道師の人っていいねー』
『何がいいの?』
『他の皆が楽しそうにご主人様の事話すの、僕も沢山ユートのこと話したよ!とっても楽しい』
『そっか。良かったねペタン。今日からは毎日できるよ』
『ほんと!?えへへ、実は前にいた所の騎士団の皆とはあんまり離せなかったから、嬉しい!』
『あ、それは言って欲しかったよ。ペタンが他の守護獣とお話したいなら付き合ったのに』
『今は守護獣の子と話のも楽しいけど、あの時はユートと一番お話したかったのー。あの時はあの時!今は今!』
『あはは、ペタンは割り切ってるなぁ』
『いつもその時全力全身!きっと僕が後悔するのは、ユートを傷つけちゃった時だけだよー』
『う、うーん。それはどうかと思うけど……』
『僕の大切なのはユートなの。他の守護獣も、皆大切なのはご主人様だけだと思うよ』
『そっかぁ……それは僕が気をつけなきゃいけないね』
『何を?』
『ペタンが他人を傷つけないように』
『ユートのいう事は聞くよ。でも、ユートを無闇に傷つける奴がいたら、我慢できないかも』
『うん、だから僕も苛められないように気をつけるよ』
『なら、全部大丈夫かも』
『だね』
ペタンとのお話でちょっと油断していたら、いつのまにか隣に王子様が座っていた。
にこやかな顔で綺麗な顔をもっと綺麗にしている王子様は、僕のつむじの辺りをとんとんと突いてから質問を投げかけてきた。
「やぁユート君。君は試験官とどんな試合をしたんだい?他の皆は教えてくれたけど、君は一向に来てくれないから僕の方からお邪魔したよ」
「あ、ごめんなさい。でも僕の試験の内容なんて気になりますか?」
「大いに気になるさ。魔道師学校の教師陣は王子である僕にも贔屓はしないと解ったからね。小さな君が如何にしてそれを乗り越えたのか、実に興味があるんだ」
「えっと、僕はペタンが頑張ってくれたんです」
「へぇ、君の守護獣がかい?」
「うん。本当はもうだめだーって思っちゃったんですけど、試験官さんの守護獣にのしかかったままペタンが自分から修練場をはみ出す位の勢いで巨大化して……そこで試験官が合格って言って試合を止めたんです」
「ほうほう、修練場全体を覆うような巨大化とは。君の守護獣は相当な力を持っているようだね」
ついっとペタンの方に視線を投げかけた王子様は、少し話を変えた。
「そういえば、ユート君は随分小さいけれど年はいくつなのかな?良ければ教えておくれよ」
「歳なら、11になりました。王子様はおいくつなのでしょうか」
「11!ふふ、僕は18歳だよ。ユート君不思議だねユート君。どうやって15歳になる前に守護獣を孵したんだい?」
美人な部分その1の釣り眼がちな目を細めて、笑いながら聞いてくる王子様だけど……。
僕の方としてはなんとも答え辛い質問だった。
だって、その原因なんて孵した僕自身にも解らないんだから。
「僕にも良く解らないんです。普通に朝は軽めに、昼と夜に意識を失うくらい魔力を全力であげてただけで、普通に魔力をあげてただけなんですけど」
「意識を、失う?ユート君。君は一体なんて無茶を……」
「無茶って。うちの村じゃ結構普通の事ですよ。昼は子供は昼寝休み替わりに、夜は当然すること無いのですぅっと寝るのにいいんです」
「ふぅん……うーん、だが条件はそれだけじゃないはずだね。もしそうなら君の村は他所より早く守護獣が孵る村として話題になって、こぞって他の街や村も真似をするはずだし」
「そう、ですね。なんでペタンだけ早く孵ったんでしょう」
「なんでだろうね……実はどういう条件で守護獣が孵るのかは解っていないんだ」
「偉い学者さんや、騎士団や魔道師団の方々でもですか」
「そう。守護獣がどこから来て、どうやって孵るのか。それについては昔話の伝説でしか語られないんだよ」
「ええと、神様は人間を作ったけれど、人の中から溢れてしまう寂しい人がいた、なので魔力と引き換えに傍にあり続ける守護獣を生まれる時に与える事にしたんですっけ」
「うん。きちんと勉強しているね。だから、もしかしたら……君の守護獣が早く孵ったのには何か意味があるかもね」
「どうでしょう。もしかしたらペタンが寂しがりで早く僕に会いたかったのかも」
「ふっ、あははは!そうだね、君の守護獣は君にべっとりだもの、そういう事もあるかもね」
長い上下のまつげ重ねてよく響く綺麗な声で笑った王子様。
絹糸のような肩までの長さの銀髪をさらりとながして顔を天井に向けて、肩を揺らしている。
僕はよくわからなくて、思わず頭を傾げたんだけど、しばらくすると王子様は閉じていたすらりと切れたつり目を開いて、僕に言った。
「ユート君は盲獣が魔道師によって守護獣へなるべく輪廻の輪に変えるというのをしっているかな?」
「んと、えっと、一度天国に行った後、今度は人の傍に生まれてくるんですよね」
「ああ、そういわれているね」
「それがささきほどまでのお話とどう繋がるんですか?」
「いや、ふとね。盲獣が輪廻という形で大地に戻ってくるならば……人も天国で魂を一休みさせたら、また戻ってきてもおかしくないのではないかなってね。君はどう思う?ユート」
「???よくわからないです」
「ええと、つまりだね。君は前の生とも言うべき人生で、ペタンのような盲獣を輪廻させて……君を求めたペタンは君の元で卵になったのではないかと言っているんだよ」
「あ、あー……なるほど、なんだか凄い話ですね」
「ま、夢物語というか、劇場向けの浪漫しかない話だよ。生まれる前から絆を結んでいる守護獣なんてね」
「んーと、実感が無くても素敵な話だと思いますよ。ねぇ、ペタン」
王子様から視線を外して、机の上で丸まっていたペタンを撫でる。
背中を撫でるその手の平を、ペタンは首を動かして鼻先でまさぐってきた。
そして念話を飛ばしながら手をペロリと舐めてきた。
『卵から孵る前の話なんてしらないよー』
『うん。それが普通だよね』
『でも、生まれる前からユートと一緒だったなら、僕は嬉しい』
『僕も嬉しいよ。ねぇペタン。でもね』
『なぁに?』
『もし王子様の言うとおりだとしたら、僕の前世の守護獣は誰の所に行っちゃったんだろうね』
『天国で次のユートの人生を待ってるかもね。だって、ユートの傍は気持ち良いもの』
そういうと、ペタンは机の上から、椅子に座る僕の太ももの上に移動してくるりと丸まってしまった。
丸まったペタンの背中を僕が撫でていると、王子様も自分のミャルクにちょこちょこっとちょっかいを出されてそれに構い始めた。
あ、王子様を放置しちゃった……大丈夫かな。
ちょっと不安になって王子様の様子を伺うと、ミャルクを構う合間に僕を見て、気にしなくていいよ、というように微笑みながら頷いた。
ん……?なんだか周りの貴族様が僕を凄く見ているような。
この感じは、えっと、ペタンと遊ぶ時にあぶれてた子がずるいずるいって言い出す前の眼と似てる。
王子様、他の人も話したそうですよ。




