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物理的に大きくなってのしかかればいい

 受験開始は皆で一斉に……というわけには行かなかった。

試験の内容が試験官の現役魔道師のおじさんと、守護獣を使った試合をするというものだったから無理も無いよね。

ルールは体格操作ありで相手の守護獣の動きを感応で読み取って自分の守護獣に伝えて補助しあう、守護獣との意思疎通能力を全開にする内容だ。


 試験だから勝たなきゃいけないのかな。

そのあたりの事は領主様の所でも、試験の待ち時間に話した王子様も教えてくれなかった。

いざとなればペタンをおっきくしてドスンと踏めば……あれ?でも試験官の人は守護獣をペタンよりずっと大きくできるかも?

あわわ、どうしよう。

もしそうだったらどうすればいいかな?

降参すればいいのかな……ううー、緊張してきた。


『ユート、ユート。ガチガチだよー?』

『だ、だって試験受けるかどうか考えたら……』

『大丈夫!ユートは僕が魔道師にしてあげるから!』

『う、うん。すーはーすーはー』

『うんうん。吸ってー吐いてー。ユートが緊張で混乱しなきゃ大丈夫!』

『解った。ペタンを信じて僕も頑張る』


 念話で元気付けてもらっていると、僕達の番が来た事を告げられる。

先に試験を受けた王子様や達数人の貴族様達は別の所に行くのか、部屋の中に残っているのは僕だけ。

軽くペタンの前脚の先っぽを握って、肉球の感触に勇気を貰って僕は部屋を出て試験が行われる魔道師団の練兵場へと出て行った。


 この街では貴重な石造りの塀で囲まれた広場……家が20軒ははいるかもしれない……の中央で、自分の背より少し大きいくらいの熊の守護獣を従えた中肉中背の、ひょろりとした顔立ちをした濃茶の短髪を後ろに撫で付けたおじさんが立っていた。

つやつやと輝く半袖の金属製スケイルメイルを着こんで、太もものあたりが少し膨らんだ騎乗ズボンを穿いてブーツで足を包んだおじさんは僕を見ると良く響く低い声で言った。


「君がイルニアッド領のユートかね。もしそうなら試験を開始する。返事は!」

「はい。イルニアッド領のユートは僕です」

「では始めるが……実戦でこんな名乗りをする盲獣はいないぞ!」


 感じるた、熊型守護獣から突進の意思。

とっさにペタンに体格操作で大きくして突進してくる黒光りする岩のような熊を受け止めてもらう。

ううん、受け止めてもらうっていうのはちょっと違うかな。

一瞬で試験官の守護獣の数倍の大きさになたペタンの前脚で、潰すように押さえ込んで無力化してもらおうとする。


 でも既に駆け引きは始まっていて教官側もペタンを通した僕の意思を読み取って体を倍化させて、振り下ろされるペタンの足を抱え込んで捻るように倒れこもうとする。

僕は漠然と感じていた熊型守護獣の相手の大きさを利用するという意思を読んで押さえ込みを中断してからの振り払いにペタンを誘導してポーンと放り出す。

試験官のおじさんも即座に宙を舞う守護獣を巨大化させて、伸びた後ろ脚でがりがりと広場の地面をえぐらせながら着地を行う。


 その後は牽制合戦になって、守護獣の力だけじゃなくて僕の精神力を試されている感じになった。

守護獣の思考の起こりを感じ取って、即座にペタンにそれを伝えて任意に、もしくは僕の考える受け方のイメージを送って実行してもらう。

そんな試験がどのくらい続いたのだろう。

僕にとってはもう半日は続けてるんじゃないか、降参を言い出そうか、と弱気になり始めたところで、僕の弱気を感じ取ったペタンが一気に勝負にでた。

僕と試験官の間を全て埋め尽くす大きさになってただ伏せをする。

そんな力技で試験官の守護獣を制圧しようとする。


 当然、試験官はそんな簡単なペタンの意思は読んで居たんだと思う。

でも試験の為に受けに周る必要があったのか、下手に守護獣を退けば自分が狙われると判断したのか。

大きくなったペタンを押しのける為に守護獣を巨大化させる。


 こうなると後は、いかに相手より大きくなれるかの勝負だったのだけれど……。


「勝負あり!巨大化をやめさせてすぐに守護獣を小さくしなさい!」

「え?は、はい!」

「これ以上大きくなったら、万が一の時に施設そのものがもたない……君の勝利だユート君。多少強引な力技ではあるが」

「本当ですか!ありがとうございます!」


 ぺこりと頭を下げた僕の肩に一気に小さくなって熊型守護獣から飛び降りてきたペタンが乗って、全身で僕の首筋に擦りついてくる。

その感触が僕が試験に受かった、という安堵を大きくする。

でも、そんな僕に試験官のおじさんは一つ釘を刺した。


「一つだけ言わせて貰うと、最後の巨大化は君の弱気を感じ取った守護獣の独断のように感じた。あの判断は君が考えて指示しなければいけなかったんだ。君はまだまだ守護獣の助けが無ければいけない、一人と一匹で一人前の半人前だという事を肝に銘じて、守護獣を大切にするように」

「はい。ペタンは僕にはもったいないくらい頭の良い守護獣です」

「うむ。それでは校舎に入って試験待ち受け室だった部屋の手前にある階段を昇って、2階で私のような格好をした若い団員が扉の前に立っている部屋に行く事。そこに合格者は集まっている」

「解りました。試験ありがとうございました!」


 ぺこりと下げて挨拶した頭をあげると、なぜか苦笑しながら手を振るおじさんに見送られて僕は石造りの建物の中に入って、言われたとおりの場所に辿り着いて、おじさんと同じ格好のお兄さんに頭を下げた。

そしたらお兄さんはちょっと驚いた顔をして言った。


「お前、試験受かったのか」

「はい」

「そんな小さななりでなぁ……まぁいい、ここに入れば坊やも魔道師学校の生徒だよ。胸を張って入りなさい」

「はい!」


 思わずむふーっと鼻から息を吐き出して、自信で膨らませた胸を張って木の引き戸を開いて中に入る。

すると中から最初に僕に掛けられたのはしわがれたお爺さんの声だった。


「今年は随分元気そうな少年が入ったようじゃな。それも異例の若さで……ふむ、しかも平民。よいか生徒諸君。その少年を出自と年齢を理由に侮る事まかりならぬぞ。試験を超えてこの部屋に入った瞬間から諸君らは同じ魔道師候補じゃ」


 部屋の中の貴族様……待合室にいた人数から少し減ってる……に語りかけた後に一息、大きく息を吸ってからお爺さんは僕にも言った。


「同時に少年にも同じ生徒になった年長者を無闇に侮る事は禁ずる。多少魔道師候補になるのが早かろうと、諸君らを真に評価する時が訪れるのは魔道師になってからじゃ。それまでは皆等しくただの候補生。きちんと修練に励むように」


 話を締めくくって部屋に10個も無い僕に席に着くように僕に促して、僕が座るとお爺さんは皆に返事を促した。

お爺さんの声に、平民と僕を同列に扱う事について反論する人はいなかった。

それは試験前に僕に厳しい言葉を投げかけて、試験にしっかりと通過したらしいエヴァンさんも例外じゃない。

お爺さんはよほど偉い人なのか、皆一様にはい、と声を張り上げて返事をした。


「さて、それではそれぞれ自己紹介をしてもらおうかのぅ。皆社交界でお互いの事はぼんやりしっておるじゃろうが、同じ魔道師を志す仲間としてはそれでは足りんし、今年は平民入りじゃしの」


 お爺さんに促されて、まずは王子様が起立した。

そして貴族の人達がぎょっとするような事を言う。


「僕はレミルトス。魔道師となっても父上や兄上とのしがらみがある以上、結婚の自由は無いだろうけれど、恐らく臣籍に降りることになるので名前のみの名乗りで許して欲しい。皆、よろしくね」


 ええと、今このときから王族じゃなくてただの仲間として扱ってねって事?

僕には良く解らないけど、周りの貴族の人達は悲鳴のような声を上げたりしている。

すると、次はあのエヴァンさんが立ち上がって名乗りを上げた。


「私はエムレス伯爵が第三子、エムレス・サムン・エヴァン。魔道師となってもこの身はレミルトス様に従うものだと思っている。この場にいる子息の方々には留意していただきたい」


 エヴァンさんが王子様をそれらしく持ち上げると、教室内に落ち着きが戻る。

その後は他の貴族様達はそれぞれどこそこの領主の何人目の子供か、と名前を名乗って行く。

たしか、サンサは王族の第三子を示す言葉で、第一子がイッサー、第二子がニンサって感じだったと思う。

普通の貴族様はどんな爵位でもイムン、ニムン、サムンと続くだったかな?

ちょっと自信の無い貴族様についての知識を頭から引っ張り出していると、貴族様たちの自己紹介が終わって残るは僕だけ、となった。

なので、精一杯丁寧に僕は自己紹介をしたのだった。


「僕はイルニアッド領の民、ユートです。平民で故に失礼を働いてしまう事もあるかもしれません。その折にはどうかイルニアッド様に累を及ぼすことなく、罰は僕個人へと治めていただきますようお願いします」


 僕の挨拶に、貴族様達は可とも不可とも言わない。

ただ、見た所村なら青年と呼ばれる年頃の人達が僕の名前と顔を同じ先生に教えを乞う同輩になったという事を認識した、という感じだ。

エヴァンさんも、ここでは特に顔をしかめたりしない。

コレを見ると、魔道師同士は同格という教えの厳しさが解る。

ただ、王子様相手は普段放って置く平民相手より逆に社交界でのつながりがあるのか、その教えを実践するのに苦労しそうな反応だったな、と思った。

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