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気さくな王女…じゃなくて王子様だった

 周りに人がいるのに気分はペタンと二人きりな寮生活を過ごして一週間たった。

今日は魔道師学校の受験日。

この一週間を使って自分の足で街の作りを覚えた僕は、ペタンをはぐれないように肩に乗せて受験会場でもある魔道師団の本部に向かう。

魔道師団の本部は王都の外れにあって、大きかったイルニアッド様のお屋敷をさらに何倍にもしたような場所だった。

魔道師団に所属する先輩魔道師の殆どは国内を巡回してるから、人間の使うスペースは併設された、あまり人数のいない魔道師学校の生徒が使う寮と教室くらいなんだけど。

守護獣関連の訓練で、巨大な守護獣を使うことの多い魔道師団の施設は大掛かりになりがちなんだって。

スペースの殆どは人間用じゃなくて、守護獣用ってこと。

それくらい、守護獣は大切なんだな、と僕は思った。


 早めに到着した試験の待合室はそんな広くなくて、最初に入ってきたのは女の人みたいに髪の長い金髪のお兄さんで、肩には雀サイズの鷹の守護獣を捕まらせていた。

そのお兄さんは僕を見るなり、少し眉をしかめて視線を逸らすと空いている席に座ってしまって、会話は無かった。

微妙な雰囲気がしばらく続いたけど、2人目に入って来た人の登場で部屋の中の空気は一変した。


 二番目に入ってきたのは最初の人の服も仕立ての良い服だなーと思ってたのに、そこに更に華麗で豪奢っていう領主様の所で憶えた修飾語が付くような銀髪を肩までの長さで切りそろえた。

結構な美人の……あれ?男の人かな?じゃあ美男子の、肩にふわふわの毛玉みたいな四足の守護獣を乗せたお兄さん。

お兄さんはまず最初に入って来たお兄さんに声を掛けたんだ。


「やぁエヴァン。君のケイリュオンの調子はどうだい」

「はっ!レミルトス様、今朝も十分な魔力を私から渡しましたので、快調であると思われます」

「それはなにより……ところでそちらの小さな受験者君。僕はアーダイン・サンサ・レミルトス。君の名前を教えてくれないかい」

「レミルトス様!その様な平民に!」

「エヴァン、もし試験に受かればこの子の出自がどうあれ同じ魔道師。そんな相手に高圧的になるのはいただけないね。お互い合格したら様付けもやめてね」

「レミルトス様!そういうわけには参りません!貴方様はアーダインの第三王子様であらせられるのですから」

「僕に言わせれば第三王子程度でしかない、とも思うのだよ。国を継ぐのは兄上で、僕はその内臣籍に移されるだろうからね」

「それでも貴方様が尊いお方である事に変わりは……」


 王子様ってこの国の一番偉い人の子供の人だっけ。

エヴァンという人の態度を無視してみても、さすがの片田舎の村人の僕にもその偉さはなんとなく解る。

え、こんな偉い人とも魔道師になったら対等なの?


「ふうっ、エヴァンは真面目すぎるね……さて坊や、エヴァンが酷い事を言ったら私が叱るから。名前を教えてはくれないかい?」



 えっと、偉い人に名前を聞かれたら丁寧に……だったよね。


「お初にお目にかかりますレミルトス様。ぼ……私は辺境の村のユートと申します。御目汚しをお許しください」


 精一杯アレクさんに教えてもらった丁寧な言葉遣いを思い出しながら挨拶すると、王子様は僕の隣に座って頭を撫でてきた。

その手の動かし方はとても優しくて、髪の毛を乱されない程度に擦られるのはなんだか安心した。

あ、この王子様は本当に優しい人なんだなって。


「良く挨拶できたねユート君。お互い試験を頑張ろうね」

「は、はい。もったいないお言葉です」

「ふふふ、是非合格してそんなに畏まらない君の言葉が聞きたいね」

「レミルトス様、その様なお戯れはお止めください。おい、ユートといったな。第三王子であらせられるレミルトス様にお声掛けをしていただいただけで大変な栄誉なのだから、勘違いはするなよ」

「はい。貴族様」

「こら、エヴァン。仮にも貴族の伯爵家の人間がこんな子供を苛めるようなことを言うものではないよ」

「で、ですが」

「ですがも何もないよ。全くしようのない幼馴染だよ。ま、それはそれとして僕の肩に乗っている猫型守護獣はミャルク。ユート君の守護獣の名前も教えておくれ」

「えっと、こちらの狐型守護獣はペタンと申します」

「ペタンか。良い名前だね。ここで一つ提案なんだけれど、試験までお互いの守護獣を入れ替えて少し触れ合って見ないかい」

「畏れ多い事ですが、王子様のお望みとあらばどうぞペタンをお手におとり下さいませ。ペタン、大人しくしてね」


 王子様にすっと肩から持ち上げたペタンを差し出すと、王子様はふんわりした手つきで、綺麗な顔と比べると意外なほどしっかりとした広い手の平にペタンを受け取って抱え込む。

そして、ミャルクの前に空いた腕の手の甲を出してチチッと舌を鳴らした。

この合図にミャルクは慣れたものなのかな、すっと手の甲にしなやかにお座りして、僕の方へと差し出された。

僕はアレクさんに偉い人から物を受け取る時の作法として教えられていたように、両手で捧げるようにミャルクを受け取り胸元に収める。


 ミャルクの毛はほわほわした見た目どおりの真綿のような感触で、とても気持ち良い。

王子様の守護獣だから遠慮して毛並みだけを流すように触っていると、ぶなっと鳴いて自分を撫でる僕の手に体をこすり付けてきた。


『おいぼーや。むずがゆいさわりかたするなよな。なでるならもっとしっかりなでろ』


 頭の中に響く声にミャルクを撫でる手が一瞬止まると、王子様が快活に笑った。

ペタンの額の宝石の周りを人差し指でまさぐりながら笑みを浮かべる王子様は言ったよ。


「ふふふ、もしかしてミャルクの声が聞こえたのかな?子供くさい喋りなのに態度は偉そうだろう。面白いよね」


 これって素直にそうですね、と言って良い事なのかちょっと迷いながらも頷くと。

王子様は目をつぶって更にペタンの宝石を弄りながら言った。


「ん……そちらは簡単に交信してしまったようだけれど、ペタンは気難しいのかな……僕にはまだ声が聞こえないね」

『ペタン、王子様とお話できるのにしてないの』

『んー。ユートはした方がいいと思う?』

『王子様、良い人だと思うからペタンがその気なら返事してあげたら喜ぶと思うよ』

『はーい。じゃあそこそこお相手してあげるよ』

『ペタン。王子様は偉い人、だからね』

『ふぅん。僕達守護獣には人間が決めた誰が偉いとか、あんまり関係ないからね。王子様しだいかなー』

『ペタンはなんていうか、凄いね』

『え、凄い?えへへー、それじゃあ後で一杯褒めてー』


 う、うーん、これは褒めてもいいのかな。

でも褒めないときっと後でむくれるよね。

僕が念話を終えると、王子様が顔を綻ばせてペタンを撫でる位置を頭の宝石から喉元に変えたりしてる。

一応、ペタンは王子様と話をすることに決めたみたいだ。


 一方僕はと言うと。


『んにゃぁ……はらのまんなかじゃなくて、わきばらの……そうそう、そこそこ』

『ここかな?ここがいいのかな』

『んー!くるしゅうにゃい!』


 ミャルクの王子様よりえばりんぼうな指示に従って、その白い体毛をふわふわっと掻き撫でるのだった。

……なんだか貴族様の視線が少し変わったような?

じーっと見つめてるのは変わらないんだけど、小汚いものを見るような眼から、なんだか僕の様子を伺っている、そんな雰囲気になったきがする。


 この後も守護獣を交換しての王子様との交流は残りの5人の貴族様が入室して、試験が始まるまで続いた。

皆が皆、王子様を見ると頭を下げて、次に僕を見てミャルクと遊んでるのを見て困惑する。

最後にはすっかり僕に慣れたのか。


「おい。レミルトス様が御自らの守護獣を触れさせる栄誉を平民のお前に与えたのはここが守護魔道師団の試験場という特別な場だからだ。お前が特別なのだと思いあがるなよ」


 と釘を刺した後は後から入って来た貴族様と軽く挨拶を交わしただけのエヴァンさんだけは、何とか平常心に戻ったのかな、って感じ。

他の貴族様はなんだか上の空で、試験大丈夫なのかな、ってちょっと心配になった僕だった。

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