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ジュナイさんとアレクさん、ありがとうございました

 春、すっかり冬の気配は去って僕もペタンも白い吐息を吐かなくなるのも間近。

そんな感触を味わっていたその時期に、僕は正式に守護魔道師団へ続く魔道師養成学校への入学推薦状をと路銀を渡されて、王都への旅にでた。


 旅とは言っても、この時になるまでに野外訓練も繰り返した上に、風よりも早いペタンに騎乗する僕にとってはあまり長い旅じゃない。

予定としては1週間もかければ終わる旅になると思う。

もしそれより伸びたとしたら、太陽と星の並びを読み間違えて道に迷ったという事だから、少しばかり恥ずかしい思いをすることになると思う。

旅程と入学試験までの期間には余裕を持たせるけど、僕自身に自分の失敗は隠せないからね。


 こうして旅立つ事になった前日、領主様は小さな宴を開いてくれた。

宴とは言っても見習いの為に領主様自ら出席するようなしっかりとした格式ばった席じゃなくて。

僕がお世話になったジュナイさんを初めとした騎士団の人達やアレクさんのような礼儀作法を教えてくれた執事の人達。

皆が大小なりと僕の先生をこなしてくれた人達とのお別れと、成功を祈ってくれる、そんな小さなお祝いの席だよ。


 皆が僕に一言、二言、王都での暮らしに関するアドバイスをくれたんだけど。

ジュナイさんとアレクさんは長くなった。

二人揃って。


「いいかユート。王都の女には気をつけろ。あいつらは猛禽よりも鋭い眼で出世する男ってネズミを獲る生粋の狩人だからな」

「ジュナイ様。その様な言い方は少々品がありませんよ。ですが、不実な女性というのも居るのが都会というものです。入学できて浮かれる同期に着いて色街などにいってはいけませんよユート君」

「おま、アレク。お前の方が品がないわ!色町とかユートの年で連れて行く奴がいるか!」

「解りませんよ。学校の生徒は多くが都会で遊びなれた貴族の子息です。悪い遊びの誘いも多いでしょう」

「だからってお前、ユートに色街の話はないだろ」

「そうでしょうか。私は短い間とは言え素直に成長してくれたユート君が女に溺れて道を誤る姿などみたくありませんね」

「……?色街ってなんですか」

「あ、いやそれはだな」

「男と女が金銭を持って肉体関係を持つ店の並ぶ区画の事です。この街にも小さいながらありますよ」

「肉体関係っていうのも良く解らないです。なんで関係って言葉の前に肉体がつくんですか?」

「大人の、繰り返して言いますが大人の男と女は肉体的な接触を持つのですよ……ああ、失念していました。こういった教育もしなければいけませんでしたね。明日には出発ですが今夜教えられる限りの事を教えて差し上げますよユート君」

「お、おい。アレクお前酔ってないか」

「素面ですよ。ジュナイ様は大事な弟分のようなユート君が分別の無い悪い遊びを覚えてもいいと思うんですか」

「いや、そういうわけじゃないが。あんまり生々しい話は……子供相手だぞ」

「子供相手だからこそしっかりと、その行為の意味と責任を教えないといけないのです。まずは女性との性的な接触によって起こる結果について……」


 なんていう具合に、なんだかアレクさんが熱の入った最後の授業を始めて。

ジュナイさんがそれを時々引きとめるかのように口を挟むという感じで夜は更けて……。

僕は少し大人になった気がする。




 一夜明けて、ちょっとだけ残る眠気を振り払おうとしたら、ぴょこんと飛び上がってきたペタンがちょこちょこくるくると僕の首周りを踏んで柔らかい毛と肉球の感触でくすぐって眠気を払ってくれる。

ありがとうの念を送ってから、旅装束に着替える前に調理場に行く。

そこで特別に早めに用意してくれた朝ごはんと今日のお昼を貰って部屋に戻る。

ある程度の保存食は部屋にある旅の装備の中に入ってる。

まぁ、一応騎士団の人達にはペタンの足なら野宿する必要があるとは思わないとは言われているけれど、念のためにね。


 部屋では、旅装束である生成りの長袖のシャツとズボンに着替える。

シャツもズボンも、袖口が絞ってあって中に風を入れない標準的な服だね。

ペタンは僕が着替えて、着替えや食料を分けて入れたいくつかの背嚢、それに水を入れる水筒を身に付けるのをちょこんと座って待っている。

全部身に付けて、最後に外套を羽織ったらペタンに念を送る。


『準備できたよ。行こうかペタン』

『うん!ユートの行きたいところ行こう!ユートの行きたい所なら、どこへだって連れて行ってあげる!』


 ペタンと静かに屋敷の裏口を出る。

既に活動を始めている屋敷の入り口は、使用人や騎士が使う場所は開放されてる。

だから僕はすんなりと外に出ることが出来た。


 そこにはジュナイさんとアレクさんが待っていた。


「やあユート。俺達が皆を代表して見送りだ」

「こほん。昨日は色々と申し訳ないことを……それはとそうと、道中お気をつけて」

「……はい。お気遣いありがとうございます。きっと魔道師になってきます」

「領主様からの言付けも伝えておくな。『王都で魔道師になって、王命が下ったら無理にこの領に戻る事は無い。全力で魔道師としての責務をまっとうしなさい』だとさ」

「余裕が出来たら、帰ってきます。この街には居ないけれど、お父さんとお母さん、妹のミーナにも会いたいですから」

「ああ、そういえば妹を村に残してきたんだったな」

「はい。ジュナイさんが来たときには顔をみせなかったですけど」

「そうか……じゃあ、魔道師ユートの帰還を待っておくか」

「そうですね。ユート君。次に来る時は私からはユート様と呼べるようになっていてくださいね」

「はい!それじゃあ、行ってきます」

「おう、行って来い」

「いってらっしゃい。ユート君」


 後は言葉は要らなかった。

さっと頭を腰に対して90度の角度まで下げて、ペタンの背中に乗る。

鞍は着けない、鞍が無くてもペタンが僕の事を感じ取ってバランスをとってくれるから、いらないんだ。


 僕がペタンの上をまたぐように立って、ペタンが大きくなって自然と僕を背中に乗せて。

すぅっと走り出せば後はペタンと僕の世界が基本になる。

時折街道を行く守護獣に荷車を牽かせる人と挨拶は交わすけど、基本的な会話はペタンとの心のやり取りだ。


『ねぇユート。ユートは何で盲獣を気にするの?』

『えっとね、盲獣って土地の精気を奪うっていうよね』

『そうだね。盲獣は人に魔力を貰えないから。無いものはどこかから持ってこなくちゃならないねー』

『だよね。でもさ、盲獣はそれで満足してるのかなって』

『んー。してるんじゃないの?僕も良く解らないけど、ユートから魔力がもらえればそれで満足だもん。盲獣の大部分はお腹がすいたから食べる、くらいじゃないかなぁ』

『そうなのかな……どこかに、勝手に身体が周りの精気を吸って、土地が死んでいくのを見て、こんなことしたくないのにっていう子はいないのかな』

『……そんな分別があるなんて、よっぽど強力な盲獣だよ。それこそ西の大盲獣くらいじゃないの』

『そう、なのかな』

『ユートの授業のお話聞いてたけど、大多数の盲獣はお腹を魔力で一杯にすると満足して転生するんでしょ?そんなに難しく考えてる子は少ないと思うなぁ』

『うーん。そっか……西の大盲獣、会って見たいな』


 僕がぼんやりというと、ちょっとペタンからむっとしたような感覚が伝わってきた。


『ユート。盲獣のことばっかり考えてちゃダメだよ。ユートの守護獣は僕なんだから』

『うん。解ってる。それとこれは別の問題だよ。僕の一番傍に居るのはペタンだよ』

『んへへー、やっぱり?それならいいんだ。ユート大好き!』


 王都までの旅は終始こんな感じでペタンとお互い好き好き言ってる状態で。

止める人がいないからついついペタンの要望で大きくなったペタンの毛並みに包まれて野宿とかしてしまった。

おかげで街道の分かれ道ではいつも地図と立て札を見て、太陽で方角を見て照らし合わせて間違えないようにと気を使ったよ。

……もしかして僕とペタンの旅って結構不真面目かもしれない。

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