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イルニアッド様

「魔道師は守護獣との動きを同調させる姿が美しいと言われています。さ、お互いの息を合わせて礼をして下さい」

「はい」


 仕立てあがったばかりの、僕には大分多きめに作ってある、若草色のブレザーっていう形式の折り目正しい制服を着てお辞儀の練習。

ペタンに1、2の合図を送ってお辞儀をする前にしゃなりとお座りさせて、僕自身もしっかりと背筋を伸ばして両腕を肘がお腹の前にでるようにつけて交差させる。

それから、心の中でお互い合図を送りあって揃って頭を下げる。

特にペタンはすぅっと前脚を地面につけて、腹ばいになる感じでペタンと姿勢を下げる。

それを見たアレクさんから指導が入る。


「はい、ペタンさんは問題ないです。ユート君は少し頭を深く下げすぎですね。深く謝意を表すのに深々と頭を下げる、ということはありますが、なんでもない時に深く頭を下げすぎるのはへりくだっているように見えますよ」

「へ、へりくだ……?ってなんですかアレクさん」

「へりくだるというのは、力の強い人に自分は全面的に頭を下げて恭順……貴方のいう事を聞きますという態度……を示すような感じです。守護魔道師団は讃えられるべき方々。礼儀を守るべき見習いも必要以上に自らを低く見せるのはいけません」

「解りました。うーん、感覚的にはどのくらい下げるのが丁度いいんでしょうか」

「では相手の偉さに合わせた角度を私が付けてあげましょう。体で覚えてくださいね」


 こんな勉強を毎日するのは、正直に言って息苦しいものがある。

でも、ちゃんと気分が晴れる勉強もあって。

それは大体守護獣関係なんだ。


 守護獣の扱いについてはもう合格できるくらいしっかり出来てるって言われたから、後はペタンといかに仲良く、スムーズに意思疎通を図るかなんだ。

だからペタンとの訓練の時間はもうペタンと僕が相手の守護獣を盲獣に見立てた守護獣同士の戦いの経験を積むだけ。

人からの指示は最低限に、騎士団の人達の守護獣とペタンを戦わせる。

僕の仕事はめまぐるしい守護獣同士のやりとりを見て、常に走り回ってペタンがカバーできる位置を僕が取る。

これが結構忙しくて、一試合の間ずっと駆けずり回りっぱなしなんていうこともザラで、終わると思わず地面に大の字になったりしちゃう。

ラガムさんとの訓練の時はペタンも相手のハガルもそんなに大きくなかったから動く距離も小さかったんだけど。

ここで相手になる騎士団の人の守護獣は皆体格操作が使えるか、使えなくても平気で家並みの大きさの守護獣を友にする人ばっかりだから。

自然とお互いに移動する距離は大きくなるんだよね。


 でもそのおかげで僕の体力は結構あがったと思う。

騎士団の人達が10歳にしては馬力のある坊やだっていうから、あくまで僕の年にしては動けるって言う程度なんだけど。


 後は、日常でペタンと色々話すこと事態が訓練って感じかな。

ペタンとは話すたびに言葉に乗るお互いの感情とか、そういうのを感じる感覚が鋭くなっていって。

最終的にふわふわした、大まかな指示なら言葉より感覚の伝達の方が速いって言う所まで言っちゃって。

僕とペタンは結局の所、言葉を交わすのが少なくなって言った。

そして交わす場合といったら、こんな具合だ。


『ねぇユート。背中かゆい』

『どのあたりかな、具体的にわかる?』

『わかんなーい。全部さくさくしてー』

『仕方ないなー。毛並みに櫛を通して欲しいだけじゃないの』

『そんなことないもん。ほんとにかゆいもん。さくさくしてー』

『解ったよ。こっちにおいで』

『やったぁ!さっすがユート、話がわかるッ!』


 人によってはもっと真面目な話をしてるのかもしれないけど、僕とペタンはコレで良いと思う。

守護獣と主の関係は色々、仲良くなり方も色々。

これが絶対正しいなんて無い、それぞれが絆を深くする道を探すしかない。

と、騎士団のお兄さんおじさん達が言っていた。


 皆それぞれ、俺の守護獣は体格操作できなくていつも一緒にいられるわけじゃないから甘えん坊だとか。

昔はしつこく構いすぎて嫌われたりしたぞーとか。

その人と守護獣なりのあれこれ、こういうのを来歴っていうらしい、があるんだなって。

そういう話をする時の人って、とっても優しい顔をするんだよね。

でも解るな、僕もペタンの事を話せって言われたら嬉しくて笑顔になると思う。


 あ、そうそう。

村じゃまだ子供には早いって教えてもらえなかった基礎の魔法も教えてもらってるんだ。

暖かい空気を纏う魔法とか、火種に火をつける程度の小さな火を起こす魔法。

一番ありがたかったのは水かお湯を出す魔法かな。

お湯を出す魔法は結構魔力を食うんだけど、ペタンを洗ってあげる時に凄く気持ち良さそうにくぅって鳴くからやめられないんだよね。

僕自身も冬の時期には大分お世話になった。

真冬に冷たい水の濡れ布巾で体を拭くのは結構きついから。


 そういう魔法を身に付けると、見習いって言う立場と沢山の魔力を持ってることが知られてる僕のところにはお湯を貰いに来る人が結構居たんだ。

騎士団の人達は勿論、屋敷の小間使いの人達が冷たい水だと手がひび割れるような水仕事用のお湯を貰いに来たよ。

さすがにいくらでも、っていうのはペタンに上げる分の魔力が必要だから断ったけど。

自分以外への用にも魔法を使うって言うのは、魔力をどの位使うのかとかの感覚の把握にとっても役立った。

最初の内は張り切りすぎて屋敷中のお湯を一人で賄おうとしてペタンにご飯がなくなるよー!ってとめられたりしたけど、今はそんなこともない。

本当に、僕は領主様のお屋敷で沢山の事を勉強したと思う。




 学ぶ日々を過ごして、秋だった季節は冬になって、雪解けを迎えて春。

僕は領主様に呼ばれた。

ノックをして、部屋に入るのを促す声を待ってから扉が開いて入って、呼び出しに応じたことを宣言してから地面に対して斜めになるように頭を下げて領主様の言葉を待つ。


「ユート。君は中々優秀な子供のようだね。春には王都に行って魔道師団に入るための学び舎に入るといい。君とペタンなら立派に王国の為に働けるだろう。君ならあるいは西の砂漠の大盲獣も……いや、今から仮定の話も無意味かな」

「承知しましたイルニアッド様。あの、ぶしつけですが西の砂漠の大盲獣とは……?」

「ん。それはね。このイルニアッド領からずっと西、他の領を三つほど越えたところにある砂漠に棲む強大な盲獣がいるらしい。つねに近辺の領主はその盲獣が自分達の領に入らないように常に気を張っているらしいね。もしその盲獣を転生に送る人間が現れれば……君がそうなってくれれば良いと思ってね」

「そんなに凄いんですか?」

「かの盲獣の話と砂漠が広がって100年以上経つらしいが……追い返すのが精一杯で殺す事も出来ない強大な盲獣らしいよ」

「なるほど……興味深いお話です」

「興味深いだけならよかったんだがね。まぁユート、君はまずは王都行きだ。守護獣との意思の疎通を応用した盲獣との交渉術、きちんと学んできなさい」

「はい。承りました」

「よろしい。では出なさい」

「失礼しましたイルニアッド様。僕のような農家の子供によくしていただいてありがとうございます」

「ははっ、私よりアレクにそういう言葉は贈ってくれ。私は金を出しただけで君に実際の勉強を仕込んだのは彼だからね」


 イルニアッド様と話す機会は殆ど無かった。

でも、守護獣の対戦訓練の時に皆を見回ったときには声を掛けてくれたし、正面からではないけど、いつも皆を気にかけてくださっていたのは解ってる。

だからかな、アレクさんは頼れるお兄さんって感じだけど。

イルニアッド様は二人目のお父さんって感じなんだ。

たまの休みに街に出れば、街の人は皆楽しそうだし、きっと皆領主様の事も好きだと思う。

こんな活気に溢れた街を作る人が嫌われるなんて想像もつかないもん。


 それはさておき、僕の気持ちとは関係なくイルニアッド様との挨拶は簡単に終わったのだけれど、実際に王都に旅立つまではまだ間がある。

よし、まずは屋敷に人皆に挨拶を済ませておこう。

旅立ちの時にドタバタするのは良くないからね。

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