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白い街へ

 一晩かけてお母さんをお父さんと一緒に説得したので眠い。

特に、ミーナはきっと泣くだろうけど、ミーナが起きて来る前に村を出ることにしたから朝早くが辛い。

でも、僕がいなくなった後に畑をどうするかとか、色んな不安を全部任せておけといって、安心と共に送り出してくれるお父さんの前でそんな弱音は吐けない。

もしかするとこの先ずっと食べられなくなるかもしれないお母さんの朝ご飯を良く味わって食べてから、村の広場で待ってくれているはずのジュナイさんの元へ行く。


「おはようございます、ジュナイさん」

「おはよう。準備は済ませたかな」

「お父さん達には……村長さんとも挨拶してきますね」

「いや、この事については既に承知の事だ。特には必要ないだろう。別に、故郷を出ると言っても村の人間を辞める訳でもないしね」

「そうでしょうか」

「そうだとも。気になるなら守護魔道師団に入って給料でも貰ったらこの村に何か土産でも持って帰ると良い。あそこは高給取りだからな。こういった小さな村に有用なものがいくらでも買えるだろう」

「高給取りってなんですか?」

「はは、そういう話は領主様の街に行くまでの空の旅の間に話そうじゃないか。さ、スイーグルムに乗って」

「解りました。それじゃあお願いします」


 ジュナイさんに促されて僕は大きな鳥……スイーグルムみたいな夜にも飛べる鳥をフクロウというらしい。

そんなスイーグルムの背中に乗ると、ぐるりと真後ろの僕を見つめて首を戻す。

思わずひぇあとか変な声が出たけど、笑いながらジュナイさんは僕の頭を軽くぽんぽんとはたいた。

世の中には変わった鳥もいるんだなぁ。


 そうして、空を行く間ジュナイさんに街での暮らしというのを色々教えてもらった。

例えばそれは、村での生活みたいに物々交換もあるけれど、硬貨という金属の円盤を使って物を『買う』っていうのが街では主流になるとか。

今着ている動物の皮をなめしただけの服は街で暮らすには相応しくないから、領主様の元でしばらく勉強する為に住み込む間は麻のそれなりの服を用意されるから、着方をしっかり覚えるようにとか。

字の勉強には木の板と水を使うとか、細々とした事も含めて色々。


 中でも一番驚いたのは、領主様の館ではお母さんのするような仕事をお金を貰ってする人がいるという事。

そういう人を小間使いって言って、お金のある人はなるべくそういう人を使ってお金を街にでるようにするらしい。

他にもなんだかお金を巧く使ったり使わせたりして人を使うっていう、なんだか難しい話をしてもらったけど、そっちは良く解らなかった。

ジュナイさんは、僕は魔道師の才はあってもさすがに商人や統治者の才はないようだなって楽しそうに笑っていた。


 こんな空の旅も、途中で一度お昼のお弁当を食べたら、日が落ち始めて空が赤くなるずっと前に白い建物が並ぶ街近くに辿り着いた。

なんでもここが領主様の街で、建物は全て白煉瓦っていう、焼くととっても硬くなる土の練り物でできているんだって。

その綺麗な街並みに感心していると、街の外れにある、特に大きな囲いで囲まれた家の、囲いの中に作られた広場の中にスイーグルムが舞い降りる。


「さぁ着いたよ。ここがイルニアッド様のお屋敷だ」

「おっきい家ですね。家一つで僕の村が入っちゃいそう」

「ははは、村が入ると言っても家を並べた場合だけだろう。さすがに畑なんかも入れれば村の方が大きいよ」


 そういって軽やかに笑うジュナイさんとスイーグルムから降りて、大きな家……お屋敷に向かう。

ジュナイさんはスイーグルムに厩舎とかいう場所に行くように指示をだして、そこは大きな守護獣を入れておく場所だと説明してくれた。

僕はペタンも厩舎に入れなくていいのか聞いたんだけど、ペタンは小さくなれるから問題ないって。

僕が一緒に行けるよ、と肩に乗ってるペタンに言ったら嬉しそうに僕の頬に顔を擦り付けてきた。

はは、可愛いなぁペタンは。


 ジュナイさんが白煉瓦の壁に際立つつやつやの木戸を開けて、傍にある金属の円盤を木の棒で鳴らすと、着心地が良さそうで村の大人の人と違って体の線を真っ直ぐに見せる服を着て、肩に大ネズミ型の守護獣を乗せたおじさんが僕達を出迎えてくれた。

なんて言っても、直線おじさんが出迎えに来たのはジュナイさんで、僕はオマケっぽい。

僕とペタンの事はチラリと見ただけですぐ興味を失ったみたいだから。


「アレク。こちらの少年はユートと言って、先日のあの騒ぎを起こした守護獣の主だ。イルニアッド様へ引き合わせたいんだけどね」

「ふむ。なるほど、ユート君ですか。承りました。待合室にお通ししますのでそこでお館様の返答をお待ちください」

「解ったよ。ユート、挨拶を」

「あ、はい。ユートです。よろしくお願いしますアレクさん」

「どうもユート君。私この屋敷の執事を勤めさせていただいている一人のアレクです。以後よろしくお願いしますね」

「こちらこそよろしくお願いします、アレクさん」


 ジュナイさんの紹介に合わせて挨拶すると、ピシリと綺麗なお辞儀をされて驚いた。

僕も慌てて頭を下げたけど、きっとアレクさんと比べるとみっともなかったろうなぁ。

コレが礼儀作法って奴なのかな。

これを身に付けるのは大変そう。


 なんて思ってたらアレクさんの肩に乗ってる守護獣がペタンの事をじっと見ていた。

ペタンはどこ吹く風だけど、ネズミ型のあの子はカチカチと前歯を鳴らして威嚇してる。

それはアレクさんに止められるまで続いたんだけど、なんだったのかなぁ。

守護獣も人見知りみたいなのあるのかな。


 アレクさんに着いて行って入った部屋は石壁に目に優しい緑色の色で染められた布が壁に掛けてあったり、見たことも無いキラキラ光るコップが並んだ棚が置いてあって。

大きな縦長の机に大きな何人も座れそうな椅子が並べてある、赤みがかった黄色の敷物が敷いてある部屋だった。

ええと、大きさ的には僕の家の半分くらいの大きさかな、とっても広い。


 それにしても、領主様って偉い人だっていうのは解るんだけど、どんな風なんだろう。

というか、偉いとどう凄いのかいまいち解らない。

やっぱりお祭りの時に皆より多くお肉食べられるくらいの凄さなのかな。

あれ、でも村長さんより偉いってことは、丸々一羽分の鳥を食べられたりするのかな?

うーん、わかんない。


「どうしたんだい。なんだか考え込んでるみたいだが」

「えっと、領主様が偉いのってどのくらい凄いのかなーって。偉い人っていうとお祭りで人より多くお肉を食べられたり、他の大人の人がいう事を聞くくらいしか思いつかなくて」

「ははは!そういうことか。領主様は偉いぞー。領主様が命令したらお前はペタンを差し出さないといけないくらいな」

「ええ!?そんなの困るよ!」

「ぷっ、くくく。冗談だよ冗談。守護獣を人から取り上げるなんて領主様よりずっと偉い王様にも許されないことだよ。まぁ、他の領主様は知らないがイルニアデッド様はお優しい方だからさ。ユートが何かしくじっても精々お尻叩きくらいで許してもらえるさ」


 ……お尻叩かれるのは恥ずかしいなぁ。

ともかく、領主様の前で変なことはしない方が良さそう。

ペタンは賢いから大丈夫。


「えっと、領主様の前に言ったら気をつける事とかありますか?」

「いらんいらん、付け焼刃の礼儀なんて余計に見苦しくなるだけだ。お前はただの村の子供だったんだ。その姿を正直にお見せしろ」

「わ、解りました。うーん、大丈夫なのかな」

「ま、心配いらんだろ。お前は村の子供にしては結構お上品な方だ」

「そうですか?」

「ああ、そこは保障しよう。まぁとにかく落ち着いて待て」

「解りました」


 それからしばらくは話すこともなくなった感じで無言になったので、僕はちょこちょことペタンを弄る。

弄ると言っても少しだけ魔力を指先からだしておやつ代わりにあげているだけ。

ちろちろと指先を舐めるペタンの舌の感触がくすぐったい。

それが気が済んだらペタンは指を舐めるのを止めて、今度は額の宝石を指に擦り付けてくる。


 この宝石の部分、きちんと触られている感触があるようで、ペタンはここを僕に撫でられるのが好きみたいだ。

カリカリと爪で掻いてあげるとくぅっと声を上げる。

最終的に肩から下ろして抱きかかえてこしょこしょと小さなペタンのお腹をくすぐる。

そうして待っていたら、こんこんと扉から音がした。


「失礼します。お館様がお会いになられる準備が整いました」

「おっ。解った。さぁいくぞユート。ペタンを肩に戻せ」

「あ、はい」

「それではこちらへどうぞ」


 僕達を迎えに来たのはアレクさんだった。

きびきびと歩くアレクさんの後を着いて、白い壁に挟まれ、白い床の上の黄色い花に赤みを加えたような色がついた敷物を踏んで歩く。

外の見た目の大きさの割りに道が狭い気がするのは、煉瓦で家を造ると壁が厚くなるからかな?

入って来たドアを通る時に横を見たら、僕の家の壁の何倍もの厚さがあったし。


 そんな事を考えながら何度か角を曲がって、何段も続く段々を登って、更に進んで大きなドアの前に着いたらアレクさんが止まってドアについてる金属のわっかで銅か鉄っぽい板を叩いた。

キンキンと鳴るその音に応えたのかな、中から声が聞こえた。


「アレク、ご苦労。ジュナイとユートは入室したまえ」


 それが僕の聞いた領主様の第一声だった。

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