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守護獣は最高の友達

 ペタンが孵ってからもう一ヶ月が過ぎた。

それでも僕は森の奥に入っての訓練はさせてもらえない。



「ペルンお兄さんとボートお兄さんは森の中で訓練してるんだよね」

「ああ、そうだ。あいつらは今年が終われば守護獣を自由にできる」

「あの、なんで僕は狩り小屋のまわりでしか訓練してないの?」

「ばっか、確かにお前を筋が言いとは褒めとるがな、森に入るにはまだまだだ」

「えっと、じゃあその内入れるんだね?」


 僕の質問に、ラガムさんは難しそうな顔をして唸りだした。

どうしたんだろう。


「うーん。お前さんが15なら文句なく森に入れというんだがなぁ」

「15じゃないと本格的に森には入れられない?」

「女は15になっても基本森の深い場所には入れないな。お前は男なんだが……10歳なんだよなぁ」

「ペタンがいてもダメなのかな」

「森の深い場所を歩くのには以外と体力を使うもんだ。間引いてないから木の根で足元はごつごつしてるし、藪を切り開くのは守護獣に頼れないしな」

「そっかぁ。確かにペタンが藪をどうにかするって言ったら大きくなってどーんってどこかにやるくらいしかないし、そんな事したら森が滅茶苦茶になるよね」

「そういう事だ。ペタンだけが入っていくんならまた別だけどな」

「でも、それじゃあんまり意味無いんだよね」

「お前を森に入れるかどうかって話なのに、ペタンだけ入れてどうするってな」

「ほんとにね。早く守護獣を孵したからって、他の事も早くなるわけじゃないんだね」


 ふぅっとため息をつく。

正直に森の中に入ってみたい。

盲獣を見て見たいとは言わないけど、普通の動物相手にペタンがどんな狩りをするのか見てみたい。

いつも指示を出したら待ってるだけで、どんな風に狩るのか見たことは無いんだよね。


 まぁその分、体格を色々変えてハガルとじゃれあうような訓練はしてるんだけどね。

守護獣同士の戦いは下手に指示を出さないで、主人は見守るのがいいみたい。

でもやっぱりそこは経験豊富なハガル相手の訓練だからか、大きくなっても小さくなっても防御を抜けられて、僕が軽くかみつかれて負けちゃうんだ。

このあたりはやっぱり訓練しなきゃだね。


 こんな具合で過ぎた一ヶ月。

僕は殆ど動いてないけど、ペタンは毎日動いているわけで。

頑張ってるペタンを休ませてあげたいな、と思うんだ。

ラガムさんのいう事には、守護獣に休みはいらない。

魔力さえあげればいくらでも動ける凄い生き物らしいんだけど、それはあんまりだよね。


 いや、正直に言おう。

たまには僕とペタンの二人っきりでゆっくりして仲良くなりたい!

そんな気持ちがとうとう我慢できなくなっただけだったりする。

ラガムさんにそういうと、仕方ないが気持ちは解る、と笑って休みをくれた。



 そんなわけで、お母さんにお弁当を作ってもらって家を出るのまではいつもどおりに。

その後は村の周りに作られた柵の入り口の森側とは反対側の街道側の方へ。

お父さんが今日は森じゃないのか?って聞いてきたけど、今日はおやすみっていうと、にっと笑って言った。


「守護獣と仲良くするのも主人の務めだ。お前は日ごろペタンに面倒を掛けっぱなしだからな。存分に遊んでやれ」


 なんて言われちゃった。

後から聞いたことだけど、村の大人の人も持ち回りで守護獣と遊ぶ時間は作ってるんだって。

姿が見えなくて、仕事をしてるのかなって言う時に、子供にはこっそり守護獣と遊んであげるらしい。

そういわれると、お母さんのお昼の用意が遅い時ってそういうことなのかな。


 ともあれ、今日一日僕とペタンは自由!

村の街道側の門番ナクルさんは、自分の守護獣のまるんと丸くなって喉を鳴らす、人間の子供サイズの猫型守護獣チェリシアのお腹を撫でていた。

僕が近寄るのに気づくと、軽く手を挙げて話は聞いてると言って通してくれた。


 村から一歩、でも今日は森に囲まれていない、自由に動ける平原が広がる外に出て。

ペタンに、今日は一杯遊べる日だよ、と言うとすりすりと僕の足元に額をこすり付けてきた。

額の宝石がちょっとごつごつ当たるけど、ペタンが喜んでくれて僕は満足。

村からさっと離れる為に、くるくる僕の足の間を周るペタンに、大きくなって僕を乗せて遊んで、とお願いしたらペタンはすっと馬サイズに変わってくれた。

さて、村の他の子達に見付かる前に遠くに出ないと。

僕はもう慣れたものでさっとペタンの背中に飛び乗ると、しっかりその体にしがみついて出発の合図をだした。


 さっと体が風を切っていくのを感じる。

ペタンのしなやかな脚運びは僕を揺らす力を最低限に軽やかに草原の上を駆ける。

僕を乗せて走るペタンの体は殆ど上下しない。

純粋に脚だけを回転させて歩く方法を、誰に教えられるでもなくペタンは覚えた。


 そんな静かな移動はとても気持ちよくて、気分がいい。


「ねぇペタン。ペタンは気持ちいいかな?僕はペタンが乗せてくれてとっても気持ちいいよ」


 声が風においていかれてペタンに届かない事が無いように、意識して声を張り上げる。

すると、一瞬脳裏にとても嬉しいって言う気持ちが流れ込んでくる。

最近、前より鮮明にペタンの気持ちを感じる。


 夜ペタンを抱いて寝る時、抱いてあげるのは僕なのに、抱かれて心地いいって感覚が流れ込んでくる事が頻繁にあるから。

コレはきっと気のせいじゃないはず。

僕とペタンは通じ合い始めてるんだ。

きっと、心で話が出来るようになるのも出来るようになる。

だって僕とペタンなんだ、こんなに仲良しなんだ、きっとできるようになるよ。


「ペタン、好きなだけ走り回ったら何かして欲しい事無い?僕にできる事なら何でもするよ」


 笑いの混じった僕の声に、ペタンからイメージは毛を梳られる感触。

どうやらペタンは毛繕いがお望みみたいだ。

僕は、いいよやってあげる、と答えて慎重に片手を離してペタンの背中をぽんぽんと叩く。

その後毛繕いしてたらお腹が良い具合に空いて来て、お昼を食べようと背中から降ろしてもらって、ご飯を食べた。


 その後ペタンは小さくなってくぉんくぉんと鳴きながら手の空いた僕に身体をこすり付けてきた。

当然、僕は再びさっくりと太陽のぬくもりを閉じ込めた毛並みを、毛筋に沿って整えてあげる。

くぅっ、と鳴いて僕の膝の上で丸まって撫でられるペタンから発される幸福のオーラは僕にも伝わる。

ああ、ペタンを気持ちよく出来て嬉しいな。

僕の方も、ペタンの手触りの良い毛皮を触れるんだからなおさら。


 後の時間は静かに過ごして、切りのいいところで撫でるのをやめて、ペタンに僕が気を失った後は周囲に気を配って、危なそうなら僕を咥えて逃げるように指示。

それから全ての魔力をペタンに注ぎ込む。

あ、この魔力が切れてストンと落ちるような感覚も……ペタンがいると、何の不安も無くて気持ち良い……。



 結局、家に帰ったのは夕方になってから。

お母さんは何も言わなかったけど、ミーナがペタン独り占めずるい!と臍を曲げちゃった。

でもそれと引き換えにしても良い休日だった。

ああ、やっぱり守護獣は最高だね。

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