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繋がってる気持ち

 朝日が木漏れ日になる森の中、僕はラガムさんを前に狩り小屋の外の、ちょっとしたスペースにペタンと並んで立っていた。


「よーし、今日は守護獣への指示出しの基礎を教えるぞ」


 ちょっと気だるい朝も、ペタンを良く知って、仲良く暮らす為の勉強は続く。

昨日は本当にすっからかんになるまで魔力をペタンにあげたのに、今朝起きた時にはもう回復してた。

人間って凄い。


「こら、注意散漫になってるぞ。さて、基本だがちょっと待て。今」


 ラガムさんはそう言うとすぅっと息を整えた後、目を閉じた。

なんだろう?と思っていくらもしないうちに、がさがさと森側の草むらが揺れる音がした。

と、思ったらラガムさんの横にピンと耳を立ててお座りをする山犬型の守護獣がいる。

多分この子がハガルかな?


「いいか、守護獣って言うのは明確な指示を与えないと自分の意思を命令に潜り込ませる事がある」

「えーと、つまり?」

「実演する。ハガル、そこに居るユートの周りを好きなように周れ」


 ラガムさんが指示をだすと、ハガルは黒く光る鼻先で何かを探るようにふすふすと匂いを嗅ぎながら僕の周りを歩く。

そしてぺタンの匂いも嗅ぎ終わると、僕の真正面にたってじっと僕の様子を伺い始めた。

ここでラガムさんが話を再会する。


「見たとおり、今の指示だとハガルの意思が入る事になる。だが……」


 ラガムさんは一旦言葉を切り、もう一回ハガルに命令する。


「ハガル。ユートの首を噛み付ける距離を保って周囲を回って警戒しろ。だが攻撃は俺の許可があるまで許さん」


 思わずラガムさんの顔をまじまじと見てしまう。

背筋に怖気の走る命令を聞いてハガルは僕の周りをゆっくりと歩き出した。

それもさっきより広い円を描いて。

たぶん、あの距離が即座に僕を狙って跳びかかれる距離なんだろう。

その雰囲気にペタンもハガルに対して警戒の色を表して低く唸る。

ここでラガムさんの説明が入った。


「こんな感じでに、きちんと細かく指示を与えれば守護獣は概ねいう事を聞く。ユート、少し怖いかもしれんがペタンの警戒を解け」

「え、えっとどうすれば……」

「それを考えるのが練習だ。ほれ、知恵を絞れ」


 ど、どうしよう。

ハガルはいつでも跳びかかれる距離で、ペタンはそれが解ってるから警戒してて……。

ペタンに危なくないから気を抜いてって言っても聞いてくれない気がする。

じゃあどうすればいいのかな。

ハガルが僕にとって危なくないって信じさせるには……。


「ペタン、大丈夫。ペタンがいればハガルが跳びかかってきても守ってくれるって信じてるから」


 僕がそういうと、ペタンは姿勢を低くして、いつでもハガルが跳びかかれば迎え撃てる姿勢に入ってしまった。

あれれ、余計警戒させちゃったぞ。

ハガルが僕の周囲を周るのにあわせてペタンまで動き出しちゃった。


「ま、そう初めから巧く行くわけもないわな。いいか、守護獣の警戒心はお前の警戒心だ。お前がハガルを怖いと思って居る内はペタンはお前を護ろうとする。後は解るな?」

「後は解るなって言われても……」

「大丈夫だ。ハガルは俺が命令するまで絶対にお前を噛んだりしない。信じろ」

「うぅ……」


 ラガムさんの結構無茶な物言いに、ちょっと抵抗はある。

けどこの練習で言いたいのは守護獣が主の命令を絶対護るというだけじゃなくて。

守護獣は主の心の動きにも正直だっていう事だと思う。


 僕は今回の課題を乗り越える為に、ハガルを受け入れなきゃいけない。

ぐるぐる喉を鳴らして、軽く牙をむく獣の姿のハガルを、心を落ち着かせて。

なんて思っても簡単にそんなのを前に簡単にリラックスできるはずが無い。


 僕は草の上に座って、ペタンを抱え込んだ。

咄嗟に動けない事を嫌ったのか、僕の腕から出ようとするペタンに、お願いだからこのままでいてってお願いして。

腕の中のペタンの暖かい温もりと、優しい鼓動に徐々に心を落ち着けて行く。

そして、いつしか自分の周囲を周るハガルに対しても、ああ本当に見てるだけなんだな、って思うことで緊張が解けて行く。


 しばらくして心がほぐれてきたら、ちょっと立ち上がってハガルに近づいてみる。

ハガルは様子見をするためか近寄ろうとする僕から、僕が近づいた分だけ距離を取る。

それだけで確かに短気を起こして噛み付こうとしたりはしない。

ちょっと唸り声は大きくなるけど、それだけ。

ラガムさんの言葉を忠実に護るハガルに対する警戒心は、いつの間にか消えていた。


 見張られているのも気にせずペタンを弄り始めると、ペタンもハガルをちょっと気にしながら僕のちょっかいに答え始める。

柔らかいお腹の毛をさくさくと撫で回して、ペタンをくぉんくぉん鳴かせる。

そしてふかふかの首毛に頬を埋めてその感触を楽しんでいると、ついにペタンはハガルへの警戒より僕との遊びを優先し始めた。


 もういいかな、と思ってペタンに僕は言った。


「ペタン、ハガルは危なくないから大丈夫。良い子だから大人しくしようね」


 この言葉に、ペタンはくぅんと鳴いて僕の髪の毛に鼻先を埋めてくんくんと嗅ぎ始めた。

もうペタンの警戒網からハガルは外れているのだろう。

すっかり楽な姿勢になっている。


 それを見たラガムさんは満足したのか声を張り上げてハガルに指示を出した。


「ハガル、止めだ!こっちに来い!」


 ご主人様の声に敏感に反応したハガルはくるりと僕に背を向けてラガムさんの方へと走っていった。


「よーしよし、よくやったぞハガル。ユートもな、主人の気持ちは守護獣の気持ち、解ったか?」


 思い切りよくハガルの首筋や背中、眉間まで余すことなく毛並みを掻き分け撫でてるラガムさんに言われて、僕は答えた。


「はい、なんとなくわかりました」


 僕の言葉にラガムさんはにやりと笑って言った。


「よーし。なら今日はもう授業は終わりだ。お前もハガルに睨まれて疲れただろうしな。ゆっくり休め」

「うん。今日も授業ありがとう、ラガムさん」

「いいって事よ。しかしお前は筋がいいな。教えていて俺も楽しいぞ」

「そっかな。へへ、じゃあまた明日ね、ラガムさん」

「おう、またな!」


 ペタンを抱えたまま立ち上がって、今日も森を出る。

そして太陽がまだ真上に来ていないのを確認してから、僕はペタンに大きくなってもらった。


「ペタン。ちょっと僕疲れたよ……ペタンの上で寝るから、太陽が真上に来たら起こして……ね」


 ちょっぴりペタンに魔力を渡してから、馬より大きくなった、毛皮のベッドになったペタンのうえで僕は眠りに就いた。

ああ、すべすべの毛並みの感触は……最高だなぁ……おやすみ、ペタン。

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