#2 女子寮
ジリリリリ…呼び鈴の音が遠くで聞こえる。
女子寮。やや古めかしい音に反して、立派なコンクリート作りの建物は寮というよりもはやマンションだ。
以前、聞いた話では「各個室部屋以外にも共有の台所にリビング、露天風呂付きの大浴場があり、セキュリティも万全で最高の設備が完備!」だという。
ちなみに俺も男子寮に住んでいるが、風呂なしトイレ共同の木造2階建て。鍵も昔どこかのRPGにあるような芯から歯が2つ出ている構造で、セキュリティなんてあってないようなものだ。これが男女格差か…。
「留守なのか…?」
ジリリリリ……3度目の呼び鈴を押す。
江茉を呼びに来た俺は入口で応対の人間が出てる来るのを待ち早15分。確かに呼び鈴は機能しているようだが、誰も出てくる雰囲気がない…
「あれ、開いてる?」
俺はなんとなしにドアノブを捻ると難なく扉は開いてしまった。
「セキュリティとは何なんだろう…」
その万全な"セキュリティ"に首をかしげながら、俺は扉をくぐった。
「ごめんくださーい!」
俺は奥に向かって、土間から声を飛ばす。シンと静まり返った中で声は反響して、山びこのように帰ってくる。
一段上がった床の上に「御用の方は管理人室にお申し付けください。許可なき立ち入りは禁止いたします。」と書かれた立て看板があるが、脇にある管理人室のガラス窓を覗いても誰も見当たらなかった。
「どうすっかなぁ…」
9時半。グズグズしていたら、また集合時間に遅れてしまう。それだけはどうしても避けなければいけないが。
「たしか…314号室だったな」
江茉の部屋へは引っ越しなどで何度か訪れたことがある。その時は江茉が同伴していたし、キョロキョロしようものなら怒られたが、部屋の場所は分かっていた。
女子寮に男が勝手に入るのは気が引けるが、このままでは遅刻してしまうし、とりあえず部屋まで行く事にした。留守なら書き置きを残せるしな。
ファンファンファン…!
廊下に上がり数歩すすんだ時だった。けたたましい音が鳴り響く。
呼び鈴かと思ったが、先ほどのものとは音が異なり、まるでサイレンだった。
「なんだ、なんだ?!」
俺が動揺しているといつの間にか周りを3台の女型アイアンゴーレムに囲まれていた。
いや…ここまで精巧に創られたものは機械人形。ベースは家事を代行させるために販売されているガイノイドか。
『シ…ニュ…ャ…ハッケン』
『…イプ…M』
『ケイ…ク……ノ…アイ』
それぞれがサイレンを鳴らしながら、なにやら言葉らしきものを発しているが、うるさすぎて聞き取れない。
「あぁもう!うっさいな!さっきまでなにも反応がなかったのに、急に出てきやがって…何だってんだ」
故障か?とも思ったが、俺に止める方法はわからないし、なにより悪態をついててもサイレンは鳴り止まない。
「とりあえず、用事を済ますのが先だな」
俺はそのガイノイドの輪を割るように抜け、江茉の部屋を目指し駆け出した。