#1 遅刻から始まる冒険
「…遅い!」
この街"テンショー"にきて半月。3月の日差しは春を感じさせ、桜の蕾もはち切れんばかりに膨らんできた。
今日は幼なじみの江茉とハンターライセンスを取得後、初のクエストに行く予定だったのだが…
クエスト依頼掲示板の脇にある時計を見ると8時40分を回っていた。
「初のクエストだから、上位ランクの人と回ったほうが絶対いいよ!…とか言ってたクセに俺たちが遅れたら台無しじゃないか…」
クエスト開始の時刻は9時。まだ時間はあるが、俺たちみたいな初心者ハンターとクエストに行ってくれる上位ランクハンターはなかなか居ないから、早めに集まって相手に粗相しないように努めるのが下位ランクハンターのマナーだというのに…
「すみません…あなたがハヤトさんでしょうか…?」
おずおずといった雰囲気で少女が話しかけてきた。
「えっと、そうだけど…」
迅人。間違えなく俺の名前だ。少なくともこの街で同名の人と出会ったことはまだない。
「良かったー見つけられなかったらどうしようかと思いましたぁ!」
少女は安堵した様子で胸を撫で下ろしていた。
「…キミは?」
見た目は小学校、高学年くらいだろうか。おかっぱをモブ風にしたショートヘアーで、学校に数人はいそうな典型的な子供だった。
「あっ、申し遅れました。私、フユです。フユ・シキザキといいます。」
小さいのに凄く丁寧な挨拶ができる子だった。
「あの…クエストにメンバー参加してくれた"ハヤト"さんですよね?」
「えっ…と言うことは、キミが今回のリーダーの"フユ"さん?ランク"C"の…?」
参加募集のチラシによれば「ランク:"C" リーダー:フユ」と確かに書いてあった。しかし、まさかこんな小さな子がリーダーとは…
いや、このテンショーには多種多様な人類、亜人、魔人が住み暮らしているのをこの半月で知っていたし、外見と中身は思っている以上に一致しないことを良く学んでいた。
メンバー募集要項には個人情報保護とかで、それ以上細かい情報はなかったが、きっと彼女も外見に寄らないすごい"力"があるのだろう。
それにしても遅い。時刻はさらに経過し、8時55分を回っていた。
さすがにクエストリーダーより遅いとは気が緩みすぎだろ。
「すまないが「ごめんなさい…!」
エマの失態を謝罪しようとした瞬間、なぜか先に謝られてしまった。
「実は…今回参加する予定の二人が遅刻してるようで、まだ来てないんです…なので後1時間ほど待ってもらえませんでしょうか…?」
そのうえ、俺が言いたかったことをすべて言われてしまう始末だ。
「今日は遅刻しないようにって言っといたんですが…」
フユは申し訳なさそうに必死に謝っているが、それを俺が咎めることはできなかった。
「いや、良いんだ。…むしろその方がこちらとしても都合がいい。こっちも一人、遅刻者がいるんだ…全くまいるよな」
お互い苦労するね。と、ささいな意気投合で笑い合う。
「それでは1時間後の10時に再集合にしまして、遅刻者たちを迎えに行きましょう」
と言うことになり、もしさらに遅刻したときに備え、互いに迎え先の住所を書いた紙を交換し、ひとまず別れることになった。