#0 序説のような少し未来の話
「これって、絶体絶命ってやつだよな…」
周りの草むらからは触手がウネウネと伸びていた。
それは聞く人が聞けば性的な妄想を呼び起こす表現ではあるが、実際に遭遇すると嫌悪感しか感じない。
スライム。不定形の魔物の代名詞であり、冒険者が最初に遭遇する難関。
「こんなノロマ、わたしが斬り刻んで上げる!」
腰に下げた刀を抜き、魔物に斬りかかろうとする。
こいつの名前は江茉。オレの幼馴染みで、彼女のことはよく知っているが、この“考える前に飛ぶ”性格は昔から全く変わらないな。
まあ、そんなこと江茉に言ったら、きっとスライムの代わりにオレが斬られるだろうが。
「ダメーーーーーーーっ!」
「…えっ?」
少女の叫びが江茉の刃を止める。
この少女はフユ。
彼女は歴代続く錬金術士の家の末娘らしい。
だが、そんな彼女もモンスターと直接戦う職業ではなく、この場ではモンスターの情報を小型端末から調べるくらいしかできないでいた。
「スライムの体は強酸性だから、触れたら溶かされちゃいますよ!」
『最初の難関』なんてのは、どこぞのRPGの話で現実は違う。
良く観察するとスライムの表面はドロドロとした粘液のようなものが覆っていた。それが地面に落ちるや、ジュワッ!とした音と共に触れた草から煙が上がっている。あんなものには死んでも触れたくはない。いや、触れたら死ぬ。
唯一の救いは、この魔物の動きが遅いことか。けれど、今いるのはスライムの巣窟のど真ん中。四方八方どこからも触手が伸びてきて逃げ場などなかった。
「ちょっとハヤト!さっさとこの場を切り抜ける作戦なんかないの!?」
大切な刀の代わりに落ちていた枝で触手を払う。
持っているのがただの枝にも関係なく、その太刀筋は一流の剣士のものだった。
「そんなこと言われてもなぁ…エマの方がランク高いんだから、なんかいい策はないのか?」
「この中で一番役立たずなんだから、頭くらい使ってよねっ!」
「ぐぬぬ…」
はじめから江茉に作戦は期待していなかったが、痛いところをつかれては反論もできなかった。
う~ん、どうしたもんか…