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エスケープの向こう側  作者: 奏多悠香


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24 掴まれた手


 男は恐ろしいほど強い力で僕の腕をつかんでいる。

 突然のこの状況にこれほど早く反応できるなんて、只者じゃない。

 僕なんかより、ずっといい男なんじゃないか。


 ふりほどけない。それがわかった時、僕は掴まれた腕はそのままに、床にひざまずいた。チャペルの床はひんやりと冷たくて、急速に自分の火照った体が冷えていくのがわかった。

 この冷たい感覚が頭まで達する前に、言わなくては。


「美咲。勝手なことをしているのはわかってる。でも、話を聞いてくれないか」


 十分でいい。五分でもいい。

 この一年、僕は美咲を忘れられなかった。

 ずっと君のことばかり考えていた。

 もっと早くに言うべきだったのに、こんなにギリギリになってしまった。

 だがまだ手遅れじゃないのなら、どうか話を聞いてくれないか。

 僕の話を聞いてから、結婚するかどうかを決めてくれないか。

 僕は君が好きだ。

 こんなことをしたのは初めてだ。

 だけど、君のためなら何度だってできる。

 君のためなら、何だってしよう。

 必ず幸せにする。


「……だからこの手を取って、ついて来てくれないか」


 思っていたことの十分の一も伝えられない間抜けな男だ。結婚式に乱入し、花嫁をさらいきれず、今は床に膝をつき、情けなく言葉を紡ぐ。

 何て間抜けなんだろうな。

 ドラマでもお目にかかったことがないほどの間抜けだ。

 これ以上言葉が見つからない。


「美咲……愛してる」


 感情が昂ぶって声が震え、最後の一言は自分の耳でさえ「あひひへふ」としか聞き取れないほどひどかった。それでも、これが僕の精一杯だ。

 美咲の顔にふわりとかかったベールの向こう、美咲の目を見る。そこに希望を探す。

 美咲の双眸にゆっくりと涙があふれ、頬を伝ってこぼれた。


「……はい」


 かすれた小さな声。

 でも、確かに僕の耳に届いたその声を聞いた瞬間、歓喜で頭に血が上った。

 何に対する「はい」だったのかはわからない。でも、否定じゃない。それだけで、僕はもうすべてを受け容れられた気持ちになった。

 立ち上がって美咲を抱きしめ、ベール越しにその額に口づけを落とす。



 誓いのキスは、僕のものだ。



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