二十年 から
私は七海 京子。26歳。やっと、小学校教師という職業に慣れてきた頃。
私には、両親はいない。私が、小学校のときに強盗殺人事件にあって、殺されてしまった。そのときは、私が学校に行っているときだった。
何も知らないまま帰ってきた私の目に飛び込んできたのは、家族の哀れな姿だった。
私のほかに、生き残った人がいた、それは、私のおばあちゃんだった。旅行をしていたので、テレビで事件のことを知ったおばあちゃんは、私も死んだと思ったらしくて、家に帰ったらしょうがないと、どっかに旅に出かけたらしい。
私が20歳になった頃、風の便りでおばあちゃんは、この時になって初めて私が生きていることを知って、慌てて帰って来た。ごめんね、と謝りやがら。まあ、私が子供の頃から、ボケていたから、別に怒りはしなかった。
───そして、現在。
私は、小学校教師として、祖母と一緒に暮らしている。
私は、今学校にいる、そして、ここは、学校の廊下。一人の女の子が泣いている。服装は、20年ぐらい前に流行った服を着ている。私もずっと前にこんな服を着たような覚えがある…。
低学年ぐらいだろうか。こっちまで悲しくなる泣き声だ。
「どうしたの?」迷子だろうと思いつつも聞いてみる。
「分からない」女の子は答えた。
「それじゃ、何年生?」
「分からない」う〜ん、今は春だし、学年が変わったりして分からなくなるの…かも…。
「名前は?」名前が分かれば、名簿を見れば何年生か分かる。はず。
「分からない」
う〜ん、困った。と、普通は思うはず。だけど、私はまったく、違うことを思い出していた。
私と同じだ…。20年前の私と…。
────20年前。
私は、6歳だった。この頃の私はかなり生意気だった。
暇になると、いつも同じことをやっていた。
迷子のふりをして、
大人を困らせていた。
何を聞かれても、
「分からない」と、答えて困る大人を見て、楽しんでいた。
その日も、そうだった…。
暇な私は、いつものように遊んでいた。
今日の遊び相手は、20歳ぐらいのやさしそうな男の人。
・
色々と質問されたあと、最後にこう聞かれた。
「それじゃぁ、君は迷子になちゃたんだね」
「分から…?」分からない。と、いつもの様に答えようとした私の声が止まった。
何故なら、優しそうだった目が、キュッと細くなったからだ。
本能的に感じた。
この人は…不審者だ。
「それじゃぁ、君のお母さんを探してあげよう」
断る暇は、なかった。
「だけどその前に、こうするよ。」
白いハンカチが口に押し当てられた。ほのかに甘い香りがする。
暗い。ここは…どこ?私は…京子…。
真っ暗だ。
どこかに閉じ込められているみたいだ。
「助けて〜」叫ぼうとした。無理だ。口にガムテ―プが貼れている。手にも、足にも。
暗い、狭い、苦しいの3拍子そろった最悪の所に私はいた。すると、何かが聞こえてきた。
「…ふざけるな!」さっきの人の声だ。誰とはなしているんだろう。私は、耳を澄ます。
「用意出来ないだと?100万だぞ!娘より100万のほうが大事か!……もういい、娘は、殺す。」…脅迫電話だ。私の家に。そして、うちの人は…。私を捨てたんだ。
……あれ?……涙が……。涙があふれて、とめどなく出てきた…。100万円のために、殺されるんだ…。
ビリッ、ビリッ、ビリッ、突然光が差し込んだ。目が眩む。どうやら、私は段ボ―ル箱に閉じ込められていたみたいだ。
「聞いていたのか」
私の流れている涙を見て言う。
「かわいそうだな、100万のために殺されるんだぜ、死んだら親に祟ってやれ」
ハハハと笑ってから、急に真顔になった。そして、ポケットから、何かを取り出した。それは、理解したくなくても、理解してしまう、金属の鈍い光沢の…ナイフ…だった。
ギラリ、光が反射して光った。
眩しい!思わず目を逸らした。そのすきに、
ナイフが私の心臓に刺さった。私は…死んだ。
─────現在。
ワタシハ、コロサレタ…?
何故?それだったら、何故私は、ここにいるの?
……そっか、私が殺された世界から見ると、ここは、あの世だ…。
そして、私の前にいるこの子は、私だ。20年前の、自分。
多分、この子は私が忘れていた記憶を思い出させるために来たんだ。
おばあちゃんが来たのは、死んだからだ。ごめんね、と私に謝ったのは、脅迫電話に出たのは、おばあちゃんで、電話の意味が、分からなかったのだろう。だから、脅迫を断ったんだ。だから、私は、殺されたんだ。
でも、何で今頃この子は来たの?
……あ、今日は私の、命日だ。
本で読んだことがある。同じ世界に、同じ人物がいてはいけないと。それに、二人がお互いに気付いたら、そのどちらかが、消えてしまうと。
───それじゃ、私が消えますか、犯人を祟ってから、ね。
でも、どうやったら、祟れるの?
ホラーでした。一応は。
怖くないかもしれませんが楽しんでいただけたら幸いです。
実はこの話に続きがあるのですが気に入らなかったので短編と言う形を取らせていただきました。
ですが気が向いたら投稿するかもしれません。
そのときはどうぞ読んでやってください。
それではまた次の物語で。